若さにしがみつきたい30代
『Smells Like 40 Spirit』は、2008年にリリースされたアルバム「アイル」に収録されている『Smells like thirty spirit』の続編のような楽曲だ。まだ30代になったばかりだった2008年には、20代に負けまいと奮闘する姿が歌われていた。
そんな彼らが40代になって何を歌うのか?バンドとして、人としての成長や変化にも着目しつつ、歌詞を解釈していく。
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魅せろ相棒 タフなバディー!
がんばらナイト 置いていかれそう
ナナナなんのこれしき
三十路街道 奮闘中
心から JUNJI TAKADA にナフリスペクト
≪Smells like thirty spirit 歌詞より抜粋≫
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20代から30代になっても、心は大きく変わらない。しかし、体は確かに衰えているので、日頃の小さな変化に愕然とすることもあるだろう。
気を張っていないと周りに追い越されそうな不安を感じながらも「なんのこれしき」と強がる姿が憎めない。
ちなみに、ここで歌われている「JUNJI TAKADA」は高田純次のことである。いつまでも若い気持ちを失わさない、パワフルな姿に惹かれているのだろう。
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I will be 30 years old. It's a wonderful world
君も 30 years old. 20代バイバイバイ
大人の余裕カマして 堂々三十路 ゴー!
≪Smells like thirty spirit 歌詞より抜粋≫
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少し大人になり、少しだけ「オジさん」になったことを自覚しつつも、負けてられるかと前を向く姿がいじらしい。
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毎日は必死だけど 汗かいて燃えてたいんだ
大人の余裕カマして ゴーゴー三十路道!
≪Smells like thirty spirit 歌詞より抜粋≫
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20代に別れを告げ、大人の階段を一段上がる30代。
そうはいっても、まだまだ気持ちは若い。若さを羨みながらも大人の余裕を振りかざして戦おうとする未熟さが、30代間もないFLOWの若さを感じさせる歌詞だ。
40代の心に突き刺さる、遊び心溢れる歌詞
一方、それから10年を経た40代のFLOWは、一体何を歌い上げるのだろうか?20代に負けじと頑張る姿がいじらしい『Smells like thirty spirit』本人曰く「40代ホイホイ」な曲だ。骨太でロックなメロディーとは対照的に、歌われている歌詞は懐かしのお菓子やおもちゃ、マンガなどばかりだ。
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メローイエロー 吉田はエンペラー
ポケベル ファミコン ビックリマン
ウーパールーパー ゴールドライタン ミニ四駆
バタリアン キンケシ なめ猫
≪Smells Like 40 Spirit 歌詞より抜粋≫
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冒頭部分だけでも、世代の人にはたまらなく懐かしいだろう。
KEIGOが軽やかに歌い上げるラップ詞が耳に心地よく、歌詞を知らずに聴くと予想に反してかっこよく、痺れる楽曲に仕上がっている。
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華々しき 77年式 金のボディ眩しきlike a百式
週刊少年ジャンプに夢中に
学ぶことが出来た 友情 努力 勝利
≪Smells Like 40 Spirit 歌詞より抜粋≫
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しかし、蓋を開けてみれば懐かしさのおもちゃ箱。よい意味で予想を裏切る、FLOWの遊び心とセンスのよさは衰えていない。
また「77年式」とは彼らが生まれた年を指し、週刊少年ジャンプで育ったメンバーが、ジャンプフェスタで演奏できるバンドに成長しているところも感慨深い。
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プリントゴッコで作った年賀状
お年玉貯め 買ったモッキンバード
不可能を 可能に 変える 俺の
バンド人生はそっからスタート
≪Smells Like 40 Spirit 歌詞より抜粋≫
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サビ前のKOHSHIパートでは、FLOW誕生につながるKOHSHI・TAKEが音楽を始めるきっかけも歌われていて、ファンにとってはたまらない歌詞になっている。兄弟たちの遠い過去に想いを馳せたくなる言葉たちだ。
メンバーが影響を受けたバンド名がズラリ
また、2番にはメンバーが影響を受けたというバンド名が並ぶ。----------------
Red Hot Chili Peppers, Linkin Park, KORN
System of a Down, 311, Zebra Head
Rage against the machine, sublime, incubus,
Beastie boys, Hey! Limp Bizkit
≪Smells Like 40 Spirit 歌詞より抜粋≫
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KOHSHIの滑らかな発音は圧巻。
彼らの青春を追体験する意味で、名前の挙がっているバンドの楽曲を聴いてみるのも楽しいだろう。
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ミクスチャーロックに入れ込んだ
若かりし日の情熱 詰め込んだ
YAMAHA MD8 8トラ レコーダー
全開で限界まで行こうかね兄弟
≪Smells Like 40 Spirit 歌詞より抜粋≫
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FLOWの音楽のベースともいえる部分に触れられる貴重な機会。それを楽曲名でやってくれるところがニクい。
サビは英語詞でかっこよく
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Oh yeah
I want more stimulation
It makes me feel like a Spiderman
Oh yeah
I want more transformation
It makes me feel like a Superman
Trying to be brave
≪Smells Like 40 Spirit 歌詞より抜粋≫
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ボーカルであり作詞を手がけたKOHSHIは英語が堪能で、発音も非常に滑らかだ。そんなKOHSHIの英語力も堪能できるサビでは、英語詞によってバンドにかける想いが歌われている。
音楽が道を切り開くきっかけを与え、音楽がいつもの自分とは違う自分に、強い自分にしてくれる。まさに「不可能を可能に変える」のがバンドなのだ。
若さ溢れる30代から大人の40代へ
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メローイエロー 吉田はエンペラー
ポケベル ファミコン ビックリマン
ウーパールーパー ゴールドライタン ミニ四駆
バタリアン キンケシ なめ猫
チョコベビー モーラー ダンス甲子園
ウゴウゴルーガ ピッチ ワンツー・どん
ゲームボーイ ねるねるねーるね
カードダス キョンシー ブタミントン
≪Smells Like 40 Spirit 歌詞より抜粋≫
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楽曲の最後も、これでもかというほどに懐かしいワードが詰め込まれている。
昔読んだマンガ、遊んでいたおもちゃ、食べていたお菓子。同年代だからこそ共感できるパワーワードが贅沢に並べられた『Smells Like 40 Spirit』が40代にウケるのは必至だ。
年を取ることを楽しんでいるようにも見えるFLOWの楽曲。今の年齢でなければ描くことのできない歌詞だ。それは40代の強みといえる。
大人になっても遊び心を忘れず、いつまでも気持ちは若く。
そんな彼らからの、最高のプレゼントだ。この曲を聴きながら、久しぶりに遠い日の思い出に浸ってみるのもよいだろう。
若さを滲ませた30代から、大人の余裕と遊び心溢れる40代へ。
歌詞の変化はまさしく、バンドとして力をつけてきたFLOWの変化だ。その変化を感じながら改めて2曲を聴き直すと、また違った発見ができて面白い。
TEXT 岡野ケイ