懸命に生きる人に寄り添う曲
ホルストが作曲した組曲「惑星」の中の「木星」は多くのクラシック・ファンから愛されている名曲ですよね。学校で音楽の時間に習った読者も多いのではないでしょうか。
この「木星」に美しい日本語の歌詞を付けたのが、平原綾香のデビュー曲『Jupiter』です。
『Jupiter』って、心が傷ついたときに、そっと寄り添ってくれる曲なんです。
一生懸命に生きているからこそ、その分、思いもよらない出来事で深く傷ついてしまうことがありますよね。
この曲で描かれているのは、そんな傷ついた人に対して「自分に何ができるだろうか?」と真剣に悩みながらも、傷ついた人のために心を尽くす主人公の姿なんです。
だから『Jupiter』を聴いていると、大きな愛に包まれているような気がして、凄く癒されるんですよね。
そんな愛に満ちた『Jupiter』からの5つのメッセージを、一つ一つ紹介していきましょう。
メッセージ1 あなたの味方だよ
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ひとりじゃない
深い胸の奥で
つながってる
果てしない時を越えて
輝く星が
出会えた奇跡
教えてくれる
≪Jupiter 歌詞より抜粋≫
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冒頭、心が傷ついた人に対して、自分は味方だとはっきりと表現していますね。「ひとりじゃない 深い胸の奥でつながっている」と。自分は「つながっている」、つまり傍にいるのだ、寄り添っているのだと、自分の立ち位置を明確にしています。
「輝く星」の光を私たちが目にするまでには、およそ数十億年かかるとされています。数十億年はとんでもない時間であり、想像もつきませんね…。
そんなとんでもない時を越えて私達の目に星の光が届く。一件何気ない出来事のように思えますが、冷静に考えると「とんでもない奇跡」ですよね。
この奇跡と比較するかのように、地球には数十億の人がいる中で、「傷ついたあなたの味方になる。側にいる」と思えるくらい大切な人に出会えた…。
”星に例えて「出会えた奇跡」と言えるくらい、大切に思っているよ。”そんな煌めく愛のメッセージを感じますね。
メッセージ2 あなたの為に何かしたい
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私の この両手で
何ができるの?
痛みに触れさせて
そっと目を閉じて
夢を失うよりも
悲しいことは
自分を信じて
あげられないこと
≪Jupiter 歌詞より抜粋≫
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ここで初めて、「私のこの両手で何ができるの?」という言葉で、「あなたのために何かをしたい」と自分の意思を伝えていますね。相手に寄り添った立ち位置から、傷ついた人の力になろうとしています。
それと同時に、「私のこの両手で何ができるの?」と深く思い悩む様子も伝わってきます。
傷つき、「自分を信じてあげられなくなった」人は、自分から助けを求めないでしょう。だから、「私」は悩みながらも、「私」の方から相手の傷にそっと触れて癒そうとしています。早く痛みが治るようにと、祈るような気持ちが伝わってきます。
「そっと目を閉じて」いるのは、相手の傷に触れて痛みを共有しようとしている「私」の方なのかもしれませんね。
この「そっと傷に触れる」行動からも、「私」が上から目線で傷ついた人に接しているのではないことが分かります。傷ついた人を応援しているだけではなく、敬意を持って相手に接する姿からも愛を感じますね。
メッセージ3 あなたの涙を受け入れる
----------------心傷ついた人に対して生半可な気持ちで接すると、かえって傷を深くしてしまうことがありますよね。
私を呼んだなら
どこへでも行くわ
あなたの その涙
私のものに
≪Jupiter 歌詞より抜粋≫
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「私」は呼ばれたらどこへでも行く覚悟を持っています。そして「あなたの涙(悲しさ)」を受け入れ、自分のものにしようとしています。そのことによって、自分の心が(受け入れた)涙でいっぱいになっても構わない。そんな深い愛が表現されています。
愛が深いからこそ聴いている人の心を癒していくのですね。
メッセージ4 まずは自分を抱きしめて
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今は自分を
抱きしめて
命のぬくもり
感じて
≪Jupiter 歌詞より抜粋≫
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傷つくことがあったときに、”その原因が自分にあるのではないか”と必要以上に自分を責めたくなってしまうことがありますよね。また悲しみが深すぎて、何をしたらよいのかさえ分からないこともあります。
この歌詞では、そのような人に対して、「今は自分を抱きしめて」という優しく温かい言葉を贈っています。「命のぬくもり」という温かさを感じる言葉も優しいですよね。
まるで、悲しいときに「まずはあったかい物でも飲んで」と、自分を愛してくれている人が作ってくれるスープのようです。
傷ついた人は、まずはアレコレ考えるのを止めて、自分を労わった方が良さそうですね。『Jupiter』は、そう伝えています。
メッセージ5 涙する日があっても大丈夫
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ありのままで ずっと
愛されてる
望むように生きて
輝く未来を
≪Jupiter 歌詞より抜粋≫
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「ありのままで ずっと 愛されている」は、病と共に生きる少女に向けられた言葉だそうです。また、聴いている全ての人に当てはまるように、それぞれの人生を全肯定する言葉でもありますね。
傷つき、涙する日はきっと誰にでもあります。それでも、望むように生きていい。その先にこそ輝く未来がある。
そんな力強い励ましの言葉が深いですね。
傷つき、涙する人に寄り添いたい
『Jupiter』からの5つのメッセージ、届いたでしょうか?いずれのメッセージからも、「傷つき、涙する人に寄り添いたい」という温かい気持ちが伝わってきますね。
私はこの曲と、この曲を心を込めて歌う平原綾香の姿に、何度も励まされてきました。
そして、いつしか、「もしも自分の大切な人に涙する日が訪れたら、この曲の主人公のように、敬意を持って寄り添いたい」と思うようになりました。
『Jupiter』に込められた、「傷ついた人に対して、自分は何ができるのか?」という真摯な問いと、考え抜かれたその答え。愛に満ちた5つのメッセージ。
『Jupiter』から伝わってくる温かい気持ちは、いつしか聴いている人を染めていくのですね。
星の美しい秋の夜に、宇宙のような壮大さと深い愛を感じる『Jupiter』を、是非もう一度聴いてみませんか?
TEXT 三田綾子