「君と夏フェス」から数年後?
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何か月も前から楽しみにしてたせいかな
やけに早く目が覚めちゃった
今日は一日一緒にいれるね ふたりきりではないけど
待ち合わせ場所で目が合ってから
別れの時間までは 一瞬で過ぎ去る
あなたと会う日はいつもそう
朝の身支度の時間を返してほしいくらい
だけどね
はぐらかさないで聞いてほしい話が一つあったんだ
≪君とゲレンデ 歌詞より抜粋≫
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友達みんなで出かける冬休みのある日。その友達の中には気になるあなたがいて…なんて情景が鮮やかに思い浮かぶ歌詞で幕を開ける『君とゲレンデ』。この曲は、SHISHAMOが2015年にリリースした冬の恋を描いたラブソングだ。
リリースと同時にYouTubeに公開されたMVの再生回数は、今や400万回再生を超えている。『君とゲレンデ』というタイトルは、SHISHAMOの定番曲の『君と夏フェス』を連想させる。
夏に気になる人と一緒にライブに出かけて、帰る頃には出かける前よりも少しだけ二人の距離が縮まっている。そんな恋を描いた『君と夏フェス』と似たタイトルの『君とゲレンデ』。
検索してみると、この曲が収録されたCDのAmazonの商品情報の記載やレビューにも、『君と夏フェス』と『君とゲレンデ』の親和性や対称性がまことしやかに囁かれている。
この曲のポップでキャッチーな音楽に隠されたリアルな恋心を、歌詞から紐解いていく。
あなたの目線の先にあるものは…
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今日はこんなに楽しかったのに
どうしてだろう、私なんだか 涙が止まらないの
きっとあなたの目に映るあの子の匂いを知ってしまったから
もう戻れない
≪君とゲレンデ 歌詞より抜粋≫
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好きな人が楽しそうで私も嬉しいのに、あなたの笑顔は私ではないあの子に向けられていて…
曲の最初とは随分心持ちが変わっていて、ここでやっと『君とゲレンデ』という曲が片想いを描いたストーリーだと分かるだろう。甘さの中に酸っぱさが混ざり始める。
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いつから二人はそんな甘い空気出すようになったの?
私いっつもあなた見てたのに 何も見えてなかったみたい
あなたばかり見てたせいで 視線の先に気付けないまま
なんて愚かなんだろう私
≪君とゲレンデ 歌詞より抜粋≫
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今のあなたの目に映るのはあの子で、その目線に気づいてしまった私は涙をこぼしてしまう。
きっと、ゲレンデという非日常の中でいつもより高揚する気持ちの中、純とは言えないあなたへの恋心がくすぶっていく。雪の白さが私の心の中の暗い部分をより目立たせてしまう。
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分かってることはふたつ
あなたを思って眠れない夜に あなたはあの子の夢を見てたってことと
あなたに似合うそのミサンガも 編んだのはあの子だってこと
君の白い息が教えてくれた あの子への想い忘れたいな
≪君とゲレンデ 歌詞より抜粋≫
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好きな人が好きな人について話すところを見てしまったのかもしれないし、もしかすると元は恋人だったあなたが私以外の子を愛するところを見てしまったのかもしれない。
何にせよ、あなたの気持ちが私には向いていないことに気付いてしまった。それでも、あなたを好きでいることをやめられない。『君とゲレンデ』は、甘酸っぱい片想いを描いているだけではなく、恋する乙女のなかで渦巻く、ピュアになりきれない想いも鮮やかに描かれている。
恋する乙女は誰よりも強くて愛おしい!
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今日がこんなに楽しかったのは
他でもないあなたがいたから
あの子もいたとしても だけどそれでも
きっと私の目に映るあなたの笑顔は
もう忘れない 忘れられない
優しいんだね でも涙は自分の手で拭くよ
昨日までの世界にはもう、戻れない
≪君とゲレンデ 歌詞より抜粋≫
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あなたの目に私が映ることはもうないけれど、あなたといられることはやっぱり嬉しくて幸せで。甘い葛藤の中で、私はあなたへの思いを忘れたり、あなたとの思い出を捨てたりはしないけれど、その恋に踏ん切りをつける決意をする。
冬の寒い日に、あなたの手の温もりがなくても歩いていけるように。あなたの優しさに頼ってしまわないように。
その思いが強がりだったとしても、涙を拭いて立ち上がる恋する乙女に共感し、応援したくなってしまうのはSHISHAMOというアーティストが恋する乙女に寄り添ったリアルなストーリーを描いてくれるからだろう。
『カラオケの冬の定番曲』ランキングの常連となった『君とゲレンデ』は、今や『君と夏フェス』に並ぶSHISHAMOのアンセムだろう。きっと、今日もどこかで甘いだけじゃない恋愛に打ちのめされ、そして立ち上がる乙女の耳にはSHISHAMOの音楽が流れているだろう。
TEXT DĀ