「ポルノグラフィティらしさ」の担い手
新藤晴一が持つ独自の視点や世界観で描かれた楽曲の多くが、ポルノグラフィティとして確固たるものを作り上げてきたことは間違いありません。
ライブでも演奏されることの少ないレアな楽曲ながら、これぞ真骨頂といわしめる存在感は圧巻です。
幻想的な世界観は唯一無二
『ミステーロ』は10枚目のアルバム『RHINOCEROS』に収録されています。イントロがなく、岡野昭仁のボーカルがダイレクトに刺さるダークで幻想的な雰囲気は、一度耳にしたら忘れられません。
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黒いベール 巡礼の列
欠けた月と砂漠の都
追いかけてはすり抜けてく
淡い夢のような あなたはMistero
≪ミステーロ 歌詞より抜粋≫
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歌い出しから、異国情緒溢れる歌詞です。少し低めに入る岡野のボーカルが、聴く人の心を掴んで離しません。導入としては完璧ともいえる入りですね。
ベールをかぶった人たちとは、砂漠に住む民なのでしょう。「欠けた月と砂漠の都」という歌詞だけで、絵画のように美しい異国の地が目に浮かびます。
そんな中で、追いかけても追いかけても手の届かない人。「浅い夢」とは、幻のようにつかみ所のない「あなた」を象徴しているようです。
センスの塊
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神話の中に捨てた首飾りまで
不吉なカナリアに奪い去られた
その心が疲れたなら体を脱ぎ捨てればいい
この世界の傷口から吹きつける風に 投げたらMistero
≪ミステーロ 歌詞より抜粋≫
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サビにかけての歌詞では、「神話」「首飾り」「カナリア」と、物語を彷彿させる言葉が並べられています。
美しく心地よい言葉の並びながら、「不吉なカナリア」という響きが物語に暗い影を落とします。決してハッピーエンドではない、怪しささえ漂う物語に、聴く人の心はさらに惹きつけられるのでしょう。
サビの歌詞にある「その心が疲れたなら体を脱ぎ捨てればいい」というフレーズも印象的です。
心が疲れ果て、生きることすら辛くなってしまうこともあるでしょう。体という入れ物から解放されて自分の心を解き放つ、その表現があまりにも芸術的ですね。
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間違いだけで作る可憐なドレス
不実なLaceがきつく締め上げる
≪ミステーロ 歌詞より抜粋≫
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新藤晴一の文学センスが光るフレーズは他にもあります。「間違いだけで作る可憐なドレス」とは、一体どんなドレスなのでしょう?
「正しくないもの」「邪道なもの」は、時に人を強く惹きつけます。楽曲に登場する「あなた」は、どこか謎めいていて、つかみ所のない人。
それでいて、愛することを許されないような雰囲気を醸し出しています。もしかすると2人の愛は異端なのかもしれません。
「間違いだけで作る可憐なドレス」はまさに、怪しい魅力で惹きつける「あなた」そのものを示しているのではないでしょうか。
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謎掛けではたどり着けず
言葉が死んでゆく サイレントMistero
≪ミステーロ 歌詞より抜粋≫
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ラストのサビでは、ミステリアスで正体の掴めない「あなた」を前に言葉を失います。
どんなに謎を解き明かそうとしても一向に近づけず、遠のくばかりの人。その人の前では、感情を掻き回され、言葉さえも意味を失ってしまうのです。
声にならない想いを「言葉が死んでいく」と表現するところに、新藤晴一の作詞家としてのセンスを感じますね。
冒頭から最後まで、どこまでもミステリアスで濃厚な物語に惹きつけられっぱなしの、まさに名曲といえます。
愛をテーマにした壮大な楽曲
次に取り上げる『ルーズ』は、36枚目のシングル『カゲボウシ』のカップリング曲として収録されています。
カップリングでありながらシングル曲をもしのぐ存在感で、ファンの間でも高い人気を誇るこの楽曲。
その魅力はやはり、新藤晴一が描く詩の世界にあります。
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車の中から見る街は幼稚な幻みたい
ドアを閉めた低い音で 今日のことを断ち切ったつもり
形あるものは「いつか」「なぜか」脆く壊れてしまうという
そんなルーズな仕掛けで世界はできてる
≪ルーズ 歌詞より抜粋≫
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車の窓から見る、どこか幼稚で作り物のような風景。ドアを閉める音で現実を引き離して、自分の世界に引きこもろうとします。
なぜ、現実世界から逃れようとしたのか?それは、愛が終わってしまったからだと、直後の歌詞で分かりますね。
タイトルにもなっている「ルーズ」が登場するこの歌詞は、曖昧なルールによって永遠が奪われた現実世界の厳しさを見事に言い得ています。
永遠に続くと思っていた幸せな時間、愛する人との未来が突然途切れる理不尽さを前に"なぜ?"と嘆きたくなるのは人の常というものです。
その理不尽が世界のルールだという視点が、新藤晴一らしいですね。
新藤晴一が描く「愛」とは何か
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永遠という文字が 何より似合うのは
「さよなら」や「後悔」だけなのかな
一度壊れた愛は戻らないと
綻びのないルールがある
星が全部ほら空から落ちる
≪ルーズ 歌詞より抜粋≫
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愛のルールは他にもあります。愛を知った人間なら誰しも経験したことがある、別れや後悔。
そうしたものに「永遠」を結びつけることで、より一層愛というものの儚さを際立たせています。
何となくいつか壊れてしまう「ルーズ」なルールで作られた世界の中で、愛のルールはもう少し厳しいようです。
「一度壊れた愛は戻らない」というルールは絶対的なものとして、この世界に存在しているのです。
「星が全部ほら空から落ちる」という独特の表現も見事です。空にあるものが落ちてくるというのは、世界が逆転するということに他なりません。
永遠に変わらず続いていくと信じていた愛が消えてしまったり、愛する人に去られたりすることで、世界がぐらりと揺らぐ。
その儚さを短いフレーズで描ききる新藤晴一の才能には目を見張るばかりです。
それでも繰り返す「愛」
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夜を抜けた街は飴細工みたいに
恋人たちの想い 巻き込んだまま
歪んで捻れ 混ざって溶けてゆく
そしてすぐに形作る 繰り返す夜は 束の間の舞台
≪ルーズ 歌詞より抜粋≫
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それでも愛は繰り返します。まるで飴細工のように混じり合って永遠に。
「歪んで捻れ」という歌詞には、美しいばかりでなく、時に歪んだり捻れたりして醜い姿に変わる、愛そのものが表現されています。
壊れても、離れても、愛はまた生まれ、育まれていくのです。人が感情を持っている限り、永遠に繰り返される「束の間の舞台」こそが、人生における愛なのでしょう。
『ルーズ』には作詞家・新藤晴一のセンスだけではなく、一人の人間としての、男としての「愛」に対する考え方が色濃く反映されています。
作詞家の思考に触れることで、ポルノグラフィティの魅力を深掘りすることもできます。独自の目線でポルノグラフィティの歌詞を解釈してみるのも面白いですよ。
TEXT 岡野ケイ