実はあなたも聴いたことがあるかも?
今最も熱い女性シンガーソングライターは、と聞かれたら、私は真っ先に竹内アンナの名前を挙げたい。
アメリカ合衆国・ロサンゼルス生まれ、京都育ちの21歳。その特異なバイオグラフィーは、おそらく彼女の人生や音楽に大きな影響を与えている。
2018年3月、テキサス州オースティンにて開催された大型フェス「SXSW 2018」に出演すると、全米7都市を回る「Japan Nite US tour 2018」にも参加。そのライブ会場ではなんと200枚近くのCDを販売したという。
その後、米国のみで販売していた『alright』は地元である関西のCDショップ限定でリリースされ、そこから全国のラジオ局でプッシュされるようになった。
その影響か、YouTubeのコメント欄には「ラジオで聴いて気になってた!」「ずっと探してた曲がやっと見つかった!」というようなコメントが多くみられる。
一度聴いた者をそこまで虜にする彼女の音楽は、一体どんなものか。今回は、3月18日リリースのアルバム『MATOUSIC』の楽曲の歌詞から、竹内アンナの魅力とその歌詞の世界観に迫る。
「RIDE ON WEEKEND」
まずお聴き頂きたいのは、アルバムの1曲目を飾る『RIDE ON WEEKEND』。WOWOWのオリジナルドラマ「有村架純の撮休」の主題歌として書き下ろされた一曲である。ドラマは、国民的人気女優・有村架純が一体どのように休日を過ごすのか…?という妄想を描いたオムニバスストーリー。その世界観に伴い「人の目を気にしない、飾らない、ありのままの自分でいられる休日」を思い描いた楽曲だという。
どことなく懐かしいメロディ。このゆったりとしたテンポに絡む彼女の歌声が非常に心地いい。
歌詞はまさに働く女子の休日を思わせる。休日の午前中、のんびり過ごしながらも、「さて、今日はどこに行こうかな」と考えるウキウキとする時間そのものなのである。
普段気を張って懸命に動いているからこそ、何もない日のありがたさが分かるものだ。男女を問わず共感できる方が多いのではないだろうか。
休日ののんびりしたイメージの楽曲かと思いきや、まるで働く大人への応援歌、「いつも頑張ってるね」というエールのようにも聞こえてくる。
時折歌詞に登場する英単語の発音がこれまた美しく、耳ざわりが良いのだ。
竹内アンナの魅力の一つが、この散りばめられた英詞。帰国子女らしい国際派な一面を感じさせるだけでなく、明るい気持ちで気軽に楽しめる音楽を演出するための大切な要素になっている。
働く女性の増えた昨今だからこそ、是非多くの方に聴いて頂きたい楽曲だ。彼女の歌は、日常の景色にちょっぴり入って来るだけで我々の心をハッピーにしてくれる。忙しい毎日をOFFモードへ切り替えるのに打ってつけのテーマソングになるだろう。
「I My Me Myself」
次に取り上げたいのは、『I My Me Myself』。これがなかなか癖になる楽曲だ。
『RIDE ON WEEKEND』とは異なる空気感の、アップテンポでついついノりたくなる楽曲。しかし、こちらもノスタルジックな音楽性は顕在だ。この「聴く者の世代を問わない音楽性」も、彼女の大きな魅力の一つである。
----------------
柄じゃない?服にメイク「らしくない」の“らしさ”は難題
似合わない?趣味にゲーム「イメージ」の壁は高いな
知りたくないから 聞きはしない 遠吠えする誰かの間抜けな顔
双眼鏡越しの俯瞰でしょ そんな狭い世界に収まらない
≪I My Me Myself 歌詞より抜粋≫
----------------
そんなメロディに乗せるのは、意外とドキッとさせられる歌詞である。
周囲からのイメージや先入観、社会でのステレオタイプに苦い思いをしたことのある方は意外と多いはず。本当の自分を見てもらえない辛さは、なかなか人には伝わらないものだ。
このフレーズは、そんな「らしさ」の押し付けを一掃するようだ。これらを「狭い世界」と言い切ってしまう歌詞は、ちょっぴり爽快感を感じさせてくれる。
----------------
I My Me Myself どんなわたしもわたしなの
I wanna fly 輝いてたい 飾らぬ Blue
I My Me Myself こんなわたしもわたしなの
Don’t wanna cry 負けたくはない 越えてく Blue
≪I My Me Myself 歌詞より抜粋≫
----------------
様々な一面を持つ自分。しかしどれも本当の自分である。イメージを守るために自分を取り繕う必要なんてないのだ。
言い尽くされてきた当たり前のフレーズと思われてしまうかもしれないが、これを実行できている大人が果たしてどれくらいいるだろうか。人からのイメージで作り上げられた部分をすべて断ち切ったとき、私は果たしてどんな人間になるのか分からない。
決して意識して作り上げた虚像ではない。自分でも知らない間に築いてしまっているのだ。
そして、完成した姿をある日見つめた時にやっと「あれ?」と思う。気づいてしまったら最後、謎の違和感を抱えたまま生きなくてはならなくなる。
だからこそ、「そんな必要はない、これが自分だ」と胸を張って言い切る歌詞には、とても勇気づけられる。おそらくこれは竹内アンナ自身の人生観や生き方そのものなのではないだろうか。
その音楽性だけでなく、この精神は現代に生きる女性を今後さらに牽引していくことだろう。
「Free! Free! Free!」
最後は、『Free! Free! Free!』。タイトルの疾走感を裏切らない、大変聴き心地のいいエアリーなサウンドが特徴だ。言うならば、自転車で坂道を下っていくような、川沿いの道をランニングするような爽やかさを持つ楽曲である。
----------------
わたしらしさを Shout it loud.
人の目なんて who cares about
あの子みたいになりたい?
あの子もあなたになれない
背筋伸ばして let it go
踊るココロどこ行こう
気にしたってしょうがないんだって
自分次第なんじゃない!?
≪Free! Free! Free! 歌詞より抜粋≫
----------------
『I My Me Myself』に引き続き、こちらも「自分らしい生き方」がテーマのようだ。このスピード感で語られる感情の浮き沈みは、おそらく多くの若い女性の共感を呼ぶだろう。
どんなに他人を羨んでも、それはどうしようもないこと。本当に何かを変えたいと思うのならば、結局は自分次第。自分の力で変えていくしかないのだ。
しかし、忘れてはいけない。他人がどんなに羨んでも、あなたになり替わることは出来ない。一人一人は唯一無二の存在。自分らしさを捨ててはいけないということなのだろう。
----------------
FREE! FREE from everything at all.
Don't let you be small.
Can you stop me now?
Can you stop me now?
I know you know come on baby. FREE! FREE!
FREE!
≪Free! Free! Free! 歌詞より抜粋≫
----------------
そのことに気付かせてくれた後のこの英詞の畳みかけが、本当に清々しく気持ちいいのだ。
「何もかも解き放とう、小さくまとまらないで、アタシを止められるものなら止めてみろ!」というなかなか勢いのあるフレーズは、女性らしい強さと可愛らしさも感じられる。
人生は自分だけのもの。タイトルの通り、とにかく開放された空間で自由に楽しみたい曲である。
新しい「カワイイ」
どの楽曲にも、若さ溢れる現代的な価値観が散りばめられている。女性らしいキュートな雰囲気がありながらも、その「らしさ」に執着しない男前なカッコよさ。これが令和の「女の可愛さ」なのだろうか。
若くして様々な環境で経験を積んできた竹内アンナだからこそ、描けるフレーズであると言えるだろう。しかし、今後さらに年齢を重ね大人の女性となる彼女が、これからどんな作品を生み出すのかも楽しみだ。
彼女の歌は、一度聴いたらきっと忘れられない存在になる。あなたの心を軽くしてくれる大切なパートナーになるはずだ。
TEXT 島田たま子