恋愛をテーマにした曲はたくさんあるが、中でも失恋ソングは特に多い。惹かれ合っていた二人が離れる裏に、お互いの将来のためを思っての別れもあれば、浮気で会ったり、死別であったりと歌にすべき様々なドラマがあるからであろう。
公開日:2015年12月15日
恋愛をテーマにした曲はたくさんあるが、中でも失恋ソングは特に多い。惹かれ合っていた二人が離れる裏に、お互いの将来のためを思っての別れもあれば、浮気で会ったり、死別であったりと歌にすべき様々なドラマがあるからであろう。
失恋という局面では、男性と女性での違いが見える。「別名保存」と例えられる男性的な恋愛観には、”一度惚れた女性のことは忘れない”・”ずっと彼女も自分のことを覚えていてくれている”といった、皮肉にも「女々しさ」があるものだ。
小泉今日子が自身で作詞した失恋ソング『あなたに会えてよかった』は、落ち着きつつも軽快なメロディーラインに彼女の歌詞が乗って、女性らしい恋愛観を歌った失恋ソングになっている。
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サヨナラさえ 上手に言えなかった
Ah あなたの愛を 信じられず おびえていたの
時がすぎて 今心から言える
あなたに会えてよかったね きっと私
淋しい夜 そばに居てくれたね
言葉に出来ない気持ち わかってくれたね
何にも言えず ただ泣いてるだけで
本当の気持ち いつでも 言えたなら
側に居れたね ずっと
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彼のことを信じられなくなって、問いかけに答えなかったり、逃げたりしていた彼女。マンネリだったのか、それとも彼を懐疑的に見ていたのか。本当の気持ちを打ち明けることができなかった。別れた時もいい別れをすることができなかったようだ。
それでも「ごめんね」と自分のよくなかったところを見つめ直し、「あなたに会えてよかったね」と前向きになっている。彼女にとっては良い恋愛だったのだろう。
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切ない夜 キレイに写ったね
こわれそうで 大切に抱きしめあったね
余裕がなくて ただ自信がなくて
あなたのゆれる気持ちに気づかない
ふりをしてたの ずっと
追いかけてた夢が叶うようにと
ねぇどこかでそっと祈ってるあなたのために
遠い空に輝く星のように
あなたはずっと そのままで
変らないで
思い出が 星になる…
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抱き合った夜、夢を語る彼。上手くいかなかったことも今となっては全てがいい思い出。そして思い出は星になる。「なる」という自然発生的な表現から、彼との思い出を星のように遠く距離のあるものとし、時間の経過がクールダウンした心境を表現する。
彼女は次の恋をする準備が整ったようだ。次に好きな人ができれば、彼を思い出すことはないだろう。
「あなたはずっとそのままで変わらないで」と自分と別れた後も彼が夢の実現に向けて邁進していくことを願いつつも、「あなたに会えてよかったね きっと私 世界で一番 素敵な恋をしたね」とこの恋にピリオドを打った彼女のサバサバした様子が描かれる。むしろ、いい恋をしたからこそもっといい恋をしようという前向きさも女性らしい。
これが「上書き保存」で次の恋に進むという女性の恋愛観。
天真爛漫で大人の女性、小泉今日子らしい一曲だ。
TEXT:田中利知