自分と「あいつ」の残酷な対比
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いま、求められる全てから
逃げたくなった僕はまるで
暇潰しに歌ってるあいつにすら
勝てなくなった気がしてて
なんか今日は君が憎い
≪ボーイズ・ミーツ・ワールド 歌詞より抜粋≫
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こんな一節で始まるのが、2020年4月に発売されたばかりの待望のニューアルバム『hope』を発売し注目を集めるバンド、マカロニえんぴつの『ボーイズ・ミーツ・ワールド』です。
多彩な楽曲のアレンジに載せられた奥深い歌詞が魅力の彼ら。
この楽曲でも、ボーカル・はっとりによる鮮やかな作詞センスが発揮されています。
歌詞は「求められる全てから逃げたくなった」というネガティブな心情でスタート。
目まぐるしく変化していく世界の中で、たくさんのことを求められる毎日。
仕事やバイトなど、様々な環境で起こるそんな状況に心当たりがある人も多いのではないでしょうか。
そして登場するのが、暇つぶしに歌っているという「あいつ」。
歌詞の主人公は社会人として日々働いているが、「あいつ」はアーティストを目指して音楽活動を今も続けている。
そんな関係性が浮かび上がってきますね。
往々にして「仕事」と「趣味」、あるいは「生活」と「夢」の対比はよくされるもの。
一度しかない人生だからこそ、その選択には誰しもが悩んでしまうものです。
「大人」になるってどういうこと?
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少年だった僕たちは
カネを知ってヒトになった
ごめんな、まだ夢があんだ
ギリギリまだ人で居たいんだ
死ぬ前にもっとちゃんと生きたいんだ
夢の意味をあと少し確かめたいんだ
≪ボーイズ・ミーツ・ワールド 歌詞より抜粋≫
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ドラマチックな展開を見せるサビで描かれるのは、こんな一節。
現実的なことは何も考えずに夢を抱きながら毎日を過ごした子供時代、そして様々なことを知るうちに現実が浮き彫りになって見えてきてしまう大人の自分。
どうしようもないくらいに残酷なこの対比を「カネを知ってヒトになった」という一文に色濃く凝縮させてしまうはっとりの言葉の使い方には思わず驚いてしまいます。
しかし、そんな状況の主人公も「まだ夢があんだ」と子供時代の情熱をまだ捨てきれずにいます。
子供であった十数年を終え、いよいよ社会が「大人」になることを強要するような年齢になった若者の世代には痛いほどに共感できるメッセージではないでしょうか。
「死ぬ前にもっとちゃんと生きたいんだ」という叫びは、きっと多くの若者を勇気づけていることでしょう。
ポップなサウンドに鋭いメッセージを載せる!
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アバンギャルドで守る立場や
シラミ潰しの揶揄いや
救いのはずの手に足元をすくわれたり
願ったり叶ったりだ、NO!NO!
≪ボーイズ・ミーツ・ワールド 歌詞より抜粋≫
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こちらの一節で描かれているのは、主人公が確かな決意を胸に前に進むような力強い叫び。
「アバンギャルド」という言葉が持つ意味は「前衛的」つまり既存の価値観に対して挑戦的な姿勢を見せることです。
そしてそのあとに続く「揶揄(からか)い」というキーワード。
実際の行動を伴わずにSNSやネット社会などに収まり、自らの思想をぶつけ合っている、ちょっぴり頭でっかちになってしまった現代人の姿を鋭く切り取っているようにも感じられる表現です。
どこか閉塞的で内向的な世界において「救いのはずの手」も自分の味方ではなかった。
そんな厳しい現実に、主人公は高らかに「NO」を突き付けます。
そしてその姿勢は、聴き手の私たちに求められているものであるかもしれません。
この曲が描くような辛い状況でも、自分の夢を諦めずにいたっていいじゃないか。そんな力強いメッセージが、楽曲を通して描かれています。
ポップなサウンドで鋭いメッセージを表現するマカロニえんぴつの楽曲。
その魅力は今後もたくさんの人を勇気づけることでしょう。
TEXT ヨギ イチロウ