元気が出る失恋ソング?
音楽制作ユニット「Easy Pop」が生み出したキュートでポップな電子音たっぷりのラブソング『ハッピーシンセサイザ』。
その明るいメロディ性から「元気が出る」「楽しい気持ちになれる」と多くの人々に称賛され続けており、2010年の投稿から10年経っても人気を誇り続けるボカロ曲となっています。
しかし「元気」になる理由があるのは、明るいメロディだけではありません。
今回はそんな「元気」の源を歌詞から探ってみようと思います。
----------------可愛らしいイントロから始まるのは、楽曲のサビでも歌われている歌詞です。
ハッピーシンセサイザ 君の 胸の奥まで
届くようなメロディ 奏でるよ
≪ハッピーシンセサイザ 歌詞より抜粋≫
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ここから歌の主人公が「君」という相手に届かせたい「メロディ」がある事がわかります。
最初の入りで楽曲タイトルが歌われてもいますので、この「メロディ」というのがこの楽曲『ハッピーシンセサイザ』そのものを指している事が伺えます。
なぜ主人公は「君」にこの楽曲を届けたいのか。
続く歌詞を見てみましょう。
----------------主人公は「君」に恋をしていたようです。
儚く散った淡い片思い
笑い話だね 今となれば
見る物全て 輝いて見えた
あの日々がキレイに 笑ってるよ
≪ハッピーシンセサイザ 歌詞より抜粋≫
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しかしその恋が実らなかった事が1番Aメロで歌われています。
続くBメロではその理由について歌われています。
----------------主人公は「君」に素直になれない模様。
我慢する事だけ 覚えなきゃいけないの?
「大人になって頂戴ね?」
ならなくていいよ
知らない事ばかり 知らないなんて言えなくて
「大変お似合いで」
ウソついてゴメンね
≪ハッピーシンセサイザ 歌詞より抜粋≫
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台詞の歌詞は主人公が「君」へ口にした言葉なのでしょう。
ですがその後に続く歌詞の方が本音のようです。
また「大変お似合いで」という台詞からは「君」に「お似合いな相手」がいる事も判明しています。
心にもない事を言い続けてしまった結果が「儚く散った淡い片思い」だったようですね。
素直になれないのは「僕」だけではない
ですが2番Bメロでは、このようにも歌われています。----------------「惹かれあう2人」という歌詞から、どうやら相手を好きなのは主人公だけではなく「君」の方もそうである事が伺えます。
「ゴメンね夜遅く 寝るところだったでしょ?」
「驚いた 私もかけようとしてた」
心の裏側をくすぐられてるような
惹かれあう2人に 幸せな音を
≪ハッピーシンセサイザ 歌詞より抜粋≫
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しかし先ほどの歌詞では「君」には相手がいたはずです。
これはどういうことなのでしょうか。
ここで1番Bメロを見返します。
すると2人の関係を更に考察できる歌詞があること事に気づきます。
----------------まるで大きくなった子供に言い聞かせるような台詞です。
我慢する事だけ 覚えなきゃいけないの?
「大人になって頂戴ね?」
ならなくていいよ
≪ハッピーシンセサイザ 歌詞より抜粋≫
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きっと2人は今「子どもから大人になる成長期」の子達なのでしょう。
と同時に、この台詞はそれなりに相手の事を知らなければ言えない台詞のはずです。
もしかしたら2人は「幼馴染」のような間柄なのかもしれません。
また2番Bメロの歌詞では、2人が夜遅くに電話をしている光景も歌われています。
つまり、夜遅くに連絡を取り合えるような親しい間柄。
ここから想像ができるのは、2人が本当は昔からお互いに惹かれ合っていた可能性です。
本当はお互いに好きなのだけれど「君」に相手がいると勘違いした主人公が、心にもない言葉を言ってしまったせいで関係がこじれてしまったのでしょう。
はたして2人の恋はどうなってしまうのでしょうか。
「ハッピーシンセサイザ」の元気の源
----------------2番のサビに気になる歌詞があります。それが「涙拭うメロディ」です。
ハッピーシンセサイザ ほらね 楽しくなるよ
涙拭うメロディ 奏でるよ
強がらなくたっていいんじゃない? 別に
自分に素直になればいい
≪ハッピーシンセサイザ 歌詞より抜粋≫
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主人公はこの楽曲を「君」に届ける為に奏でています。
とするとこの歌詞は、主人公がこの楽曲で「君」の涙を拭おうといているという事なのではないでしょうか。
続く歌詞も素直になれずに強がる自分自身に言っているようにも見える反面、「君」に対して言ってるようにも見えなくありません。
つまり素直になれなかったのは主人公自身だけではなく「君」もそうであった事が推測できます。
主人公が勘違いをしてしまった理由はここにありそうですね。
さらに1番のサビでもこのように歌われています。
----------------「ヤな事」を全部「消してあげるから」と、他者へ向けて言っているような歌詞があります。
ハッピーシンセサイザ 君の 胸の奥まで
届くようなメロディ 奏でるよ
つまらない「たてまえ」や ヤな事全部
消してあげるから この音で
≪ハッピーシンセサイザ 歌詞より抜粋≫
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やはり主人公自身の話だけではなく「君」に対しても歌っているようにも見えなくありません。
つまりサビの時点で主人公は、素直になれなかったのが自分だけではなかった事に気づいているという事です。
自分がした勘違いにもまた気づいていると考えてもよいでしょう。
そしてその結果、主人公は自分の素直な気持ちを告げる事にしたのです。
----------------「電子音」を英語にするとタイトルの「シンセサイザ」。
何の取り柄も無い 僕に唯一つ
少しだけど 出来る事
ちょっと照れるような 単純な気持ち
電子音で伝えるよ
≪ハッピーシンセサイザ 歌詞より抜粋≫
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これは「シンセサイザー」とも呼ばれる電子楽器を指す言葉でしょう。
また2番Bメロを振り返ってみると、そこでは電話越しに素直に話す主人公達の姿があります。
電話という機械越しでなら2人は素直になれるのです。
主人公が楽曲で「君」に気持ちを伝える事にしたのは、この出来事がきっかけだったのかもしれません。
楽曲の中で主人公が「君」に対し直接的な告白はしていません。
ですが代わりに「君」を思いやった言葉がたくさん詰められており、それ自体が「君」への深い気持ちを語っているようにも思います。
一度失敗しても気持ちを伝える為に出来る事をしようと奮闘する主人公の姿には、恋愛ソングとしてだけではない、人生への励ましや元気が貰えてくるような気もします。
これが「ハッピーシンセサイザ」の歌詞に込められていた「元気」の源なのでしょう。
TEXT 勝哉エイミカ