TOP画像引用元 (Amazon)
最もリアルなフィクション映画
画像引用元 (Amazon)
東京新聞の記者である望月衣塑子によるノンフィクション作品をもとに作られた、社会派サスペンス映画『新聞記者』。
藤井道人監督がメガホンをとり、2019年に公開されました。
第43回日本アカデミー賞では作品賞・主演男優賞・主演女優賞の3部門で最優秀賞を受賞するなど、多くの映画賞を受賞した評価の高い作品です。
タブーともいわれる、昨今の政治やメディアの裏側を描いた映画『新聞記者』の面白さを、あらすじから見どころまで深く掘り下げます。
女性記者と若手官僚が手を組み挑む国家権力の闇
韓国人の父と日本人の母を持ち、アメリカで育った新聞記者の吉岡エリカ。
彼女には、ジャーナリストであった父親の自殺という過去がありました。
自殺の原因は誤ったスクープの報道とされていましたが、彼女にはどうしてもそれが信じられず、真相を探るため父親と同じ記者の道を選びます。
そんな吉岡が勤める東都新聞社会部のもとに、医療系大学新設計画に関する極秘情報が、匿名のFAXで送られてきます。
一方、内閣情報調査室の若手エリート官僚、杉原拓海は、葛藤の日々を送っていました。
「国民に尽くす」という信念を持つ彼に与えられていた任務は、現政権に不都合なニュースを監視し、コントロールすることだったのです。
愛する妻の出産が迫る中、杉原は尊敬する昔の上司・神崎と再会。
神崎の様子に違和感を覚えた杉原でしたが、その日は酒をくみかわすだけで解散しました。
そしてその数日後、神崎がビルの屋上から身を投げてしまうのです。
立場は違いながらも、共にメディアのために大切な存在を失った吉岡と杉原。
それぞれに調査を始めた二人は出会い、あの匿名のFAXに、思いもよらない大きな闇が秘められていることを知ってしまいます。
真実を報道しようとする二人にどんな結末が待っているのか、一瞬たりとも見逃せないサスペンス作品です。
豪華キャスト陣による熱演に注目!
政治とメディアをセンセーショナルに描く映画『新聞記者』は、キャストの熱演も高く評価されています。
吉岡エリカ役を演じたのは、韓国出身の人気女優シム・ウンギョンです。
本作が日本でのデビュー作でしたが、日本語は流暢で、意見をはっきり述べる吉岡の人物像を見事に表現しています。
クランクイン前から日本の新聞社を見学し、実際に記者から話を聞くなど、役作りも熱心にに行われたそうです。
日本人新聞記者という難しい役に真摯に向き合った結果が、演技にも反映されています。
杉原拓海役に抜擢されたのは、日本映画界を率いる人気実力派俳優の松坂桃李。
映画の内容から反政府のイメージがつくリスクがありながら、出演を承諾した松坂桃李には多くの賞賛の声が集まりました。
自身の持つ正義感と職務との間で葛藤する難しい役どころを、とても繊細に演じています。
ラストに残す一言など、注目したいシーンが目白押しです。
他のキャストたちも豪華で、北村有起哉、岡山天音、本田翼、田中哲司などが出演。
演技派俳優陣がそれぞれの役を巧みに演じ、表情ひとつをとっても緊迫感や状況の壮絶さが伝わってきます。
鋭い切り口の本格社会派サスペンス
映画『新聞記者』の大きな見どころは、完全フィクションながら、実にリアルに描かれたストーリーです。
河村光庸プロデューサーから依頼を受けた藤井道人監督は、自身が政治にも新聞にも興味がないことから、当初は依頼を断っていたそうです。
しかし、政治やメディア自体ではなく、そこに関わる人間にスポットを当てた作品として手がけることを決意。
原作の持つリアルさに、エンターテインメント性を加えた映画を見事に作りげました。
劇中で起きる事件の数々は、現在も進行中の政治事件をモデルにしています。
モデルとなっている実際の事件については明らかにしていませんが、日頃からニュースに注目している人なら、誰しも思い浮かべる事件があるはずです。
近年日本で問題となっている事柄ばかり取り上げているので、政治批判とも取られかねません。
とはいえ、そんな業界のタブー、国家の闇に臆することなく深く切り込んでいるからこそ、他人事ではない現実感に惹きつけられるのです。
『新聞記者』の登場人物たちは、記者や政治家とその家族が中心です。
私たちからは遠い存在にも思えますが、個々の人物像や、それぞれの立場で抱える葛藤、苦悩にもスポットを当てているため、思わず自分を重ねてしまいます。
フェイクニュースや真偽の不確かな情報に踊らされている現代人にとって、情報への視線の向け方を見つめ直すきっかけとなるでしょう。
自らの理想や信念と反する圧力に晒された時、自分はどう行動するかを問われる内容となっています。
そして、劇中に使われている色も、物語を支えるポイントです。
吉岡が身に着けるマフラーやカーディガンの赤、杉村に当たるライトの青、イチョウの葉の黄色など、シンプルながら目を惹く色使いが特徴的。
この色使いによって登場人物の感情が浮き彫りになり、ストーリーをさらに立体的なものに仕上げています。
映画の始まりからラストまで、どこも見落とせない映画です。
曲の優しさに救われる主題歌「Where have you gone」
映画『新聞記者』の主題歌は、OAUの『Where have you gone』です。
主題歌を歌う『OAU(オーエーユー)』とは、2005年に結成された6人構成のバンド『OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND(オーバーグラウンド・アコースティック・アンダーグラウンド)』のこと。
2019年に名義が略称に変更されてからも、自然の中に溶け込みつつ生と死を喚起させる独自のアコースティック・サウンドを表現し続けています。
彼らの魅力は、音楽としての普遍さの中に様々なパーカッションを積極的に取り入れ、全ての曲から新しくも心に沁み込む温かみを感じられるところです。
そんなOAUの『Where have you gone』という曲は、映画『新聞記者』に込められた思いに寄り添い、新たな結末へと導いてくれています。
映画のエンディングでこの曲が流れたことで、ストーリーの悲しみや結末の重さを拭いさり、かすかな希望へと昇華してくれるような救いを感じたとの感想が多く寄せられました。
演奏はスライド・ギターとブルースハープの切ないメロディから始まり、メッセージの強さを物語るように、感傷的でダイナミックなサウンドが展開されています。
ゆったりとした優しさと、胸を掴まれるような悲痛さの両面が垣間見え、自然と心が震えるでしょう。
MARTINが全編英語で歌う歌詞は、映画の主人公である吉岡と杉原のどちらの立場にも重なる内容です。語りかけるような歌声が美しい音楽とひとつになって、聴く人の心を優しく包み込んでくれます。
コーラスにはELLEGARDENの細美武士が参加し、曲の魅力をさらに引き上げることに貢献。思わずじっくりと聞き入りたくなります。
『Where have you gone』のPVでは、映画のストーリーを想起させる風景が映し出されています。英語詞を和訳したTOSHI-LOWの詞がリンクしていくところがとても魅力的。
映画の切ない空気感を誘うようで、映画と合わせてPVも要チェックです。
映画「新聞記者」は人としての在り方を問いかける名作!
画像引用元 (Amazon)
映画『新聞記者』は、メディアへの露出が少なかったにもかかわらず、リアルでセンセーショナルなストーリーと役者の高い演技力から、多くの高評価を得た作品です。
この情報化社会において、フェイクニュースやデマに戸惑い、踊らされることが日常茶飯事となっています。
好奇心や正義感から、自身が誤った情報の発信源となる可能性も否定できません。
何を信じていいかが分からなくなる今の世の中だからこそ、目をつむらず情報に正しく向き合う姿勢が重要なのだと、この映画は教えてくれています。
映画『新聞記者』を観れば、情報に対するあなたの姿勢もきっと変わるでしょう。
TEXT MarSali