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音楽に魅入られた男たちの命がけのセッション
2014年公開の映画『セッション(WHIPLASH)』は、ジャズに命をかける男性たちを描く音楽映画です。
監督を務めたのは、制作当時はまだ20代の若き監督デイミアン・チャゼル。
本作は彼が、高校時代に所属していたジャズバンドの熱狂的指導者をモデルにしているそうです。
フィクションではありますが、実話をベースにしているため、リアリティのある内容で多くの人の目を釘付けにしました。
その結果、アカデミー賞で5部門にノミネートされ、J・K・シモンズの助演男優賞を含む3部門の受賞。
映画界に名を轟かせました。
プロも唸った本作の魅力を、あらすじや見どころから紹介します。
才能あるドラマーと天才教師の狂気のセッション
国内屈指の名門音楽大学シェイファー音楽院に通う、19歳のアンドリュー・ニーマン。
青年は幼い頃から、世界的ジャズドラマーであるバディ・リッチのような「偉大な音楽家」になることを夢見ていました。
その夢を叶えるために、スタジオで猛練習していた時、学内で鬼教師と恐れられるテレンス・フレッチャーが現れます。
彼は学内トップを誇るジャズバンドの指揮をしており、青年のドラムを聞いてスカウトすることにします。
彼のバンドに入れば、プロのジャズドラマーになる夢に大きく近づけるため、青年はバンドを移ることに同意。
しかし、青年を待ち受けていたのは、彼からの容赦ない攻撃でした。
天才を生み出すことに執着する彼は、常に完璧を求め、できなければ罵声や暴力で生徒を精神的に追い詰めていきます。
青年も苦悩を感じながらも、彼の狂気にあてられたようにドラムに打ち込み、恋人や家族さえ投げ打って要求に応えようとします。
青春を音楽に捧げる青年と、スパルタ教育で指導する教師の、熱い人間ドラマを描く作品です。
キャスト陣の迫真の演技に心震える
本作はたった19日という短い撮影期間で完成したとは思えない、キャストのリアルな演技に魅了されます。
主人公のニーマン役は、マイルズ・テラーが演じています。
偉大なジャズドラマーを目指す青年という役どころですが、ロックのドラムは経験があったものの、ジャズドラムに触れてこなかったそうです。
そのため、撮影の数ヵ月前から練習を行い、劇中ではほぼすべてのシーンで彼のドラム演奏が映し出されています。
脚本で「ドラムに血が付き始める」と記されたシーンでは、実際に流血してしまったほど壮絶な撮影を乗り越え、心を打つ演技を見せています。
もう1人の主人公であるフレッチャー役は、J・K・シモンズが務めました。
相手の人格まで否定する過激な役は、彼の迫真の演技により強い存在感を放ち、観る人にまで恐怖心を与えました。
大学時代に指揮を学んでいた経験が役立ったものの、ピアノ演奏には苦労したようです。たゆみない努力があったからこそ、勢いのある演技が生まれました。
攻撃することの多い役でしたが、ニーマンから反撃のタックルを受けるシーンでは肋骨を2本折った状態で撮影を続けたそうです。
ストーリーの中心となる2人は、肉体的にも精神的にも苦しみながらそれぞれの役を演じきり、熱気を感じる映画に仕上げました。
他のキャストも主人公たちの関係を演技でサポートし、より内容に深みを出すことに貢献しています。
狂気的な師弟関係と音楽にみなぎる力に圧倒される
本作でまず注目すべき点は、主人公と指導者の狂気じみた師弟関係です。
罵声や暴力の伴うスパルタ指導を介し、高みを目指そうする様子は、監督自身が「戦争映画」と呼ぶほど、心をすり減らすような激しいシーンばかり。
パワハラやモラハラが大きな問題となっている現代で、あり得ないようなやり取りです。
しかし、ストーリーが進むにつれ、2人がお互いに音楽に取り憑かれた狂人同士であることが見えてきます。
彼らの人生や考え方を変えてしまうほど強大な力が、音楽にはあるということを痛感させられます。
本作を観て、フレッチャーに対して「良い指導者」という感想を持つ人は、ほとんどいないでしょう。
しかし、彼でなければ主人公の真の才能を引き出すことはできなかったと言えるかもしれません。
ジャズと聴くと、ムードある大人の音楽というイメージを持つ人が多いのではないでしょうか。
しかし、本作で用いられているジャズの楽曲は、ジャズに触れたことがない人でも受け入れやすい選曲になっています。
だからこそ、マイルズ・テラー演じるニーマンの巧みなスティックさばきが目を引くのです。
肉体を傷付けながら生み出される音楽は、人の生き様を見ているような美しさと熱量を感じさせます。
青年の並々ならない練習の日々。偉大なことを成し遂げるには、常人では考えられないような努力が不可欠であることを思い知らされます。
たとえ狂人と思われたとしても、目指す夢のために必死になれる人こそ、一握りの成功者になれるのではないでしょうか。
本作に込められたメッセージが集約されているラスト9分19秒の怒濤の演奏に、ぜひ注目してください。
「WHIPLASH」は映画を象徴する熱い主題歌
本作はジャズバンドを描いているため、数多くのジャズの名曲が流れます。
その中でも劇中で何度も演奏され、映画タイトルにもなっている『WHIPLASH』は、本作を象徴する楽曲と言えるでしょう。
この曲は、1973年にハンク・レヴィによって作曲されました。
「WHIPLASH」とは、訳すと「むちを打つ」という意味。
タイトルを表すかのように繰り返される変拍子が特徴で、かなり高度なドラムのテクニックが求められる難しい楽曲です。
ダイナミックなドラムの音がリードするリズミカルなアンサンブルからは、音楽に秘められた説得力が感じられます。
ニーマンの激しいスティックさばきと、フレッチャーの過激な指導が重なる本作を表現するにふさわしい1曲です。
映画「セッション」は音楽映画の新たな名作!
ジャズバンドにスポットを当てた映画『セッション』は、現代では珍しい師弟関係が描かれた音楽映画です。
相手を追い詰めるような指導の仕方は、信頼関係がある間柄だとしてもあまり良い方法とは言えません。
とはいえ、精神的な強さこそが、人としても技術者としても成長するための重要な鍵であることを、本作から感じ取れるでしょう。
夢を実現させたいのであれば、強い精神力でどんな試練でも耐えてみせる。そんな気概を持って、たゆまぬ努力をし続けなければならないということです。
映画『セッション』から、心を揺さぶる音楽の魅力を感じてください。
TEXT MarSali