誰の心にも存在する「もう1人の僕」
「悲喜劇」という意味を持つSHE'Sの4thアルバム『Tragicomedy』は、「心」をテーマにして製作されたアルバムです。
その中に収録されている静かなバラード『Letter』は、任天堂のゲームソフト「あつまれ どうぶつの森」のCMソングとして注目された曲。
また、『Masquerade』『Letter』『Your Song』の3曲で1つの物語を織りなすような繋がりを感じるMVも、感動的な内容で人気を集めています。
今回は、楽曲の主人公を社会人として歌詞を読み解いていきます。
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おかえり もう 1人の僕
上手くやれたかい
うん、それなりに
想いは手離したし
我慢するのだって慣れてきた
≪Letter 歌詞より抜粋≫
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滑らかなピアノの音色に乗って、心を鷲掴みにされるようなフレーズから始まる『Letter』。
世の中の多くの人は自分の気持ちを抑えて働いていると思います。
個性を出さず、様々な理不尽にも耐えているでしょう。
そんな社会を乗り切るために生まれる、本来の自分とは違う顔をした「もう1人の僕」。
会社から家に帰り着いてホッとした時、「もう1人の僕」に「上手くやれたかい」と問いかけるこの気持ちを、社会人になれば誰もが一度は経験するのではないでしょうか。
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これでいいはずはない
けど波風はもう立てたくない
汚れた鏡に問いかけて
孤独に蓋を掛ける
≪Letter 歌詞より抜粋≫
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水滴の跡が残ったバスルームの鏡に映る自分を見つめながら、矛盾する気持ちを押さえ込んで1日を終える。
社会に出て一人暮らしをしている若者の心の葛藤と孤独感が伝わってきますよね。
井上竜馬が描く等身大の心
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大人になっていくことが
僕を狂わせてるんじゃないかって
思ったりもしたけど
≪Letter 歌詞より抜粋≫
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2020年に28歳を迎える作詞作曲の井上竜馬。
「大人になっていくことが」という歌詞とサビの歌詞は、彼が24、5歳の頃に考えたそうです。
ちょうど大人の世界への憧れと恐れが同居する年代ですよね。
当時の彼の等身大の気持ちが現れているからこそ、この歌詞は同世代の若者だけでなく、その時期を通り過ぎた大人の心も大きく揺さぶるのかも知れません。
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僕らは大切な人から順番に
傷つけてしまっては
後悔を重ねていく
≪Letter 歌詞より抜粋≫
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成長する中で、誰かのためを思ってしたことが逆にその人を傷つけてしまったという経験を持っている人は多いのではないでしょうか。
それは、恋人や友人、家族など、身近な「大切な人」に対して起こりがちなこと。
距離が近いだけに心に踏み込み過ぎてしまうからかも知れません。
そして、思いがけず人を傷つけてしまった自分を責めてしまう人もいるのではないでしょうか。
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どうかその手でもう
自分を責めて 潰さないで
摘みとった花びらは
ただ枯れて風に吹かれていく
≪Letter 歌詞より抜粋≫
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なぜ人を傷つけてしまうのかと自分を責めて、花びらを摘むように自分で自分の心を潰さないで欲しい。
潰れた心はどんどん枯れていくから自分を大切にして欲しい。
このフレーズは、井上竜馬がこの曲を通して最も伝えたいメッセージのように聴こえてきます。
歩み続けるあなたに贈る手紙
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それでも触れたくて
心の奥へ歩み寄る
あなたを覆い隠すほどの
切なさを知りたくて
≪Letter 歌詞より抜粋≫
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誰かと心が近づいたり離れたりを繰り返し、人は価値観の違いを学んでいきます。
でも、もし心が離れてしまった相手が本当に大切な人ならば、その人の心を覆っている悲しみを理解するまで諦めずに触れ合おう。
この歌詞はそう唄っているのかも知れません。
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それでも立ち籠める
霧の道を進んでいく
あなたを照らせるほどの
優しさを探している
探している 知りたくて
探している
≪Letter 歌詞より抜粋≫
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何が起こるかわからないような、霧が立ち込める未来への道。
その中で、大切な人を明るく照らせる強い人間でありたいと願いながら、人は歩み続けるのではないでしょうか。
遠い昔、校庭に埋めたタイムカプセルの中の手紙を読むように、この曲は私たちに人生で一番大切なものを思い出させてくれるような気がします。
TEXT 岡倉綾子