縛られない生き方とは?
19歳でデビューを果たしたシンガーソングライターのeill。
そんな新世代のアーティストが2020年7月1日にリリースした『踊らせないで』は、7月からスタートする新ドラマ「女子グルメバーガー部」の主題歌に起用されました。
世の中の決まりきった価値観やしがらみに縛られない生き方を歌ったこの楽曲は、シンプルながらも彼女の声をしっかりと聞かせる都会的なダンス・ポップチューンです。
リリース同日にYouTubeへ投稿されたMVは、楽曲に併せて若者たちが踊るダンスミュージックビデオとなっています。
それではタイトルに込められた意味や歌詞の内容を考察していきましょう。
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どうでもいいTシャツと
夜の街に出かけよう
騒がしい世界を置いて
Shine it up, it's Friday night
≪踊らせないで 歌詞より抜粋≫
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この楽曲の歌詞では生きることに少し疲れてしまった若者の姿が描かれており、冒頭のフレーズは気楽に生活できたらという願望を表しています。
夜の街に出かけるには、着飾らなければいけません。
化粧をして、ヘアメイクも抜かりなく。
ファッションにだって手は抜けません。
遊ぶ相手や行く場所によってそのスタイルは変わってくるでしょう。
世の中には暗黙のルールがあり、人はそのルールによって無自覚に生き方を縛られているのです。
そんなルールを主張して騒ぎたてる世界に反して、何も考えずにどうでもいいTシャツで街へ出れたら。
そんな若者の願いと生き方をこのフレーズは端的に表しています。
思いどおりに生きれないのは若者共通の悩み
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あの子みたいになれないし
慣れない靴じゃ踊れないし
上手くいかないことばっか
Nothing seems to be so right
≪踊らせないで 歌詞より抜粋≫
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続くフレーズも同様に、生き方を縛られている若者の苦悩を表しています。
ルールの外で、自分の理想や憧れの人に近づこうとしても「あの子にはなれないし」。
履きたい靴を履きたくても「慣れない靴じゃ踊れないし」。
「上手くいかないことばっか」でうんざりしてしまうのも無理はないでしょう。
「Nothing seems to be so right」は口語的に言えば「正しいと思えることなんて何もない」という意味で、これこそが今を生きる若者の本音と言えるでしょう。
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左見て右見ても足りない
目紛しく変わり果てる世界で
最後に残す言葉すら
見つからない僕らじゃダメだろう
≪踊らせないで 歌詞より抜粋≫
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どこを見ても何を見ても満たされない生活。
「最後に残す言葉すら見つからない僕らじゃダメだろう」という歌詞が印象的です。
仮に死んでしまうとしても何も言葉が出てこないというのは、「僕ら」が自分の考えを持つことができず、他人やルールに生かされていることを強く示しています。
また「僕ら」という表現から、これが一個人の悩みではなく若者全体が抱える悩みなんだという主張が伺えますね。
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We can be free ありのままで
Float in the air 裸足で舞って
操られてた糸を切ったら
Oh 溶けた魔法の味
ああ、きっと悲劇のヒロインだって
迎えるハッピーエンド
鏡に映る 明日は何模様
≪踊らせないで 歌詞より抜粋≫
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操られていることを自覚して、ありのままで生きることを決めればハッピーエンドが待っているんだと転換を促すシーンでは「魔法」や「ヒロイン」など、フィクション映画のような単語が使われています。
現実との対比として描かれる夢の世界は希望を与えてくれる強い言葉に聴こえます。
自らの意思で踊る
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Won't you please
夜空に星振らして
涙の跡に針落とした
Move it! Let's get it going!
誰かのステップで
決まったリズムで
踊らせないで
≪踊らせないで 歌詞より抜粋≫
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サビの歌詞ではタイトルの『踊らせないで』が登場し、操られていた糸を切って自由に踊る若者の姿が描かれています。
『踊らせないで』とは「誰かのステップ 決まったリズムで 踊らせないで」という歌詞どおり、ダンスとは踊らされるものではなく自ら踊るものだという意味でしょう。
誰かが決めたルールや世の中のしがらみを踊りに喩えて否定するこの言葉が、楽曲のテーマとなっているのです。
これは歌詞全体で「生き方」の表現に、踊りにまつわる言葉が使われていることからもわかります。
また「手のひらで踊らされる」という慣用句から「踊らされる」自体にも誰かに操られる、思い通りにされるという意味が使われています。
都会で生きる若者を象徴する行為としての「踊る」と言葉が持つ意味。
この二つの意味を『踊らせないで』は持っているのでしょう。
ルールに縛られた生き方や、くだらないしがらみを抱える若者の心の声を代弁しているこの楽曲。
もしかしたら、フェイクニュースや世の中に溢れる莫大な情報に、「踊ってばかり」の現代人に向けて警鐘を鳴らしているのかもしれません。
eillの『踊らせないで』を聴いて自分が踊らされていないか、考えてみてはいかがでしょうか。
TEXT 富本A吉