忘れることで守りたい愛もある!記憶を巡る哀しきラブストーリー
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2020年公開の映画『記憶屋 あなたを忘れない』は、織守きょうやのベストセラー小説が原作です。
人の記憶を消すことができる「記憶屋」という人物を巡り、様々な事情を抱えた人たちの記憶にまつわるエピソードが交差していきます。
監督を務めたのは、映画「ツナグ」「僕だけがいない街」など重厚な人間ドラマの演出に定評のある平川雄一朗。
ノスタルジックホラーに位置づけられる原作小説を、鹿目けいこによる脚本でより心に沁みるヒューマンストーリーに仕上げています。
多くの人の感動を呼んだ本作のあらすじや見どころを紹介していきましょう。
記憶屋に消された恋人の記憶の真実とは?
大学生の遼一は、都市伝説として囁かれているある人物を探しています。
それは、人の記憶を消すことができるという「記憶屋」なる人物です。
遼一は、恋人の杏子へのプロポーズに成功したものの、翌日から連絡が取れなくなり、数日後に再会した彼女は彼のことを忘れてしまっていました。
突然のことに衝撃を受けると共に、幼い頃に幼馴染で親友の真希が一部の記憶を失ったことを思い出します。
2つの出来事と記憶屋との関係を考えた遼一は、真希と弁護士の高原を加え、一緒に真相を探ることに。
実は高原は、余命わずかの命であり、死ぬ前に別れた一人娘のためにある記憶を消したいと考えていました。
杏子の記憶を消された悲しみを原動力にしていた遼一でしたが、記憶屋と関わってきた人と接する度に、その存在と行いが多くの人の人生を救ってきたことを知ります。
だからこそ不可解な、杏子の記憶が消された理由。
そこには思いがけない哀しき愛の真実が隠されていました。
実力派キャストの巧みな演技にもらい泣き
本作の主演を務めるのは、Hey!Say!JUMPの山田涼介。
愛する恋人に忘れられてしまうという複雑な役どころを表情豊かに演じ、観る人が感情移入しやすい等身大のキャラクターを作り上げています。
印象的な雨に打たれるシーンでは、1月の寒空の中での撮影にも耐え、感情が溢れ出す様子を見事に表現しました。
彼とバディを組んで記憶屋を探す高原役を、俳優の佐々木蔵之介が演じています。
記憶屋の存在を信じていなかった人物が、少しずつ観方を変えて現実のものとして捉えていく姿を丁寧に演出。
さらに、遼一の元恋人の杏子役を蓮佛美沙子、幼馴染の真希役を芳根京子が演じ、女優陣の好演も魅力です。
実力派キャストによる繊細な演技と、ストーリーの美しさに引き込まれますよ。
記憶を消した真実とそれぞれの愛に涙する
本作が観る人の心を捕らえるのは、記憶という身近なテーマを取り上げているからです。
きっと誰でも、忘れてしまいたいつらい記憶や恥ずかしい思い出を持っているでしょう。
ですが、そういう記憶はむしろ頭にこびりついて離れないものです。
そのため、本作で登場する「記憶屋」に記憶を消してほしいと思う人の気持ちが身近に感じるのではないでしょうか。
また反対に、決して忘れたくない大切な記憶ほど薄れていくのが早く感じることも、経験しているはずです。
幸せの絶頂だったはずの主人公の恋人がなぜ記憶を消すことになったのか、その真実を知ると切なさに胸が締め付けられるでしょう。
記憶屋というファンタジーな設定からなる本作のストーリーは、とても現実味のある内容です。
実際に記憶喪失によって自分が誰かさえも分からなくなったり、大切な家族や恋人に忘れられてしまうことがあります。
そんな状況に陥った時、自分には何ができるのだろうかと考えさせられるはずです。
そして記憶屋の存在は、良いものとしても悪いものとしても観ることができます。
記憶を消してもらった人と、大切な人の記憶が消された人とでは感じ方は変わりますよね。
記憶を消せることは正義なのか、それとも人の思いを無視した行為なのか。
記憶屋自身の葛藤も描かれているので、登場人物のそれぞれの立場と自身を照らし合わせて観てみてください。
「時代」は悲しい記憶を持つ人を包み込む主題歌
本作の主題歌は、中島みゆきの名曲『時代』です。
ピアノとギターによる親しみやすい温もりあるメロディのバラード曲で、これまで多くのアーティストにカバーされてきました。
そして、生きていれば避けられない別れや悲しい出来事に打ちのめされても、前を向こうとするシンプルな歌詞が美しいです。
時代が変わっても共感できる内容が、つらい経験をしたすべての人に寄り添ってくれる心地よさがあります。
中島みゆきの語りかけるような優しくパワフルな歌声で、歌詞のメッセージがより心に深く沁みます。
本作で描かれている絆や思いというテーマとリンクしていて、映画と音楽両方の魅力を一層感じられるでしょう。
「記憶屋 あなたを忘れない」は観る人の心を温かくする映画
記憶を題材にした映画『記憶屋 あなたを忘れない』は、誰でも共感できて人の温もりを感じられる作品です。
人生で迎えるのは、決して幸せな出来事ばかりではありません。
遼一のように大きな幸せの後に絶望に見舞われることもあれば、高原のように愛する人を思いながら自身の死を待つ人もいます。
しかし、様々な記憶があるからこそ、人は成長できたり前を向くことができるということを、改めて考えることができるでしょう。
きっと記憶に深く残る1作になりますよ。
TEXT MarSali