闇の深さにのめり込む衝撃作!
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014年公開の映画『渇き。』は、バイオレンスシーン満載でR15+に指定されているスリラー作品です。
原作は第3回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞した深町秋生のデビュー作『果てしなき渇き』。
2003年に未成年デートクラブの実態が発覚した「プチエンジェル事件」を基に描いた小説で、壮絶な社会の闇を描くストーリーに多くの読者を驚かせています。
そんな映像化不可能と言われたハードなベストセラー小説を、2010年公開の映画『告白』で国内外の映画ファンを魅了した中島哲也が、作品に仕立てました。
「愛する娘は、バケモノでした。」という鋭いキャッチコピーが目を引きますが、それだけでは言い表せないセンセーショナルな内容となっています。
そのため賛否両論を呼びましたが、その独特な魅力に引き込まれていく人が続出。
異色のバイオレンス映画のあらすじや見どころを紹介します。
失踪した優等生の娘の裏の顔とは?
元刑事の藤島昭和は、離婚した妻から久しぶりに連絡を受けます。
連絡の内容とは女子高生の娘、加奈子が失踪したというものでした。
自分の行いで家族も職も失ったロクデナシの父親である藤島は、もう一度家族を取り戻そうと娘の行方を捜すことにします。
加奈子は成績優秀で容姿端麗という誰の目から見ても完璧な少女で、周囲の人間を惹きつけるカリスマ性を持つ学園のマドンナ。
しかし交友関係を追っていくうちに、正反対のイメージが次々と浮かび上がってきます。
加奈子は天使の顔をした「バケモノ」なのか。
居場所も真の正体も分からない娘の姿を追う藤島の狂ったような執念は、やがて暴走を始めます。
演技派俳優陣の怪演は必見!
本作は実力派キャストが集結し、見事な演技を見せています。
主演の藤島役を務めるのは、日本映画界が誇る名俳優である役所広司。
「誰も出てくれるわけがない」という監督の予想に反して、中島作品の中でも最も最悪な藤島役を「役者冥利に尽きる」と感じ快諾したそうです。
いつも呑んだくれですぐに暴力を振るい、娘を追う様子はまさに狂気的で、おぞましく感じてしまうほど。
監督が想定する凶暴さと滑稽さを感じるキャラクターを巧みに表現し、見る人をストーリーに引き込みます。
加奈子役には、今やドラマや映画に引っ張りだこの小松菜奈がオーディションで抜擢されました。
本作が映画初出演となりましたが、美しくミステリアスな風貌や視線はカリスマ的人気のある加奈子のキャラクター像にぴったりです。
キャストの約半数とのキスや高笑いを続けるという難しいシーンが多くあったものの、新人とは思えない堂々とした存在感を見せ、確かな人気を獲得しています。
さらに、妻夫木聡、オダギリジョー、中谷美紀、二階堂ふみ、橋本愛が出演。
演技力の高い俳優陣が名を連ね、藤島と加奈子の人物像を浮き彫りにしています。
共感できないのに引き込まれる愛と狂気のストーリー
本作は多くの登場人物が関わっていますが、誰一人共感できる人物がいないという珍しい作品です。
全員が少なからず異常性を持っていて、なぜその行動に出たのか理解することができないシーンは少なくないでしょう。
しかし、本作への視点を変えると共感とは違う魅力を感じられるはずです。
もう一人の主人公である加奈子の行動の心理を読み解くには、お気に入りの本が「不思議の国のアリス」であることが重要なポイント。
つまり、加奈子にとって自分自身がアリスであり、まるで夢の中を歩くように現実社会を生きているのです。
だからこそ常に自由であり、あまりにも悪にまみれていながらも無邪気に振る舞うことができます。
簡単には真似できないその生き方は、混沌とした社会の中で美しく見え、無性に惹き付けられてしまうのかもしれません。
本作を観て少しでも加奈子を美しく感じたなら、あなたも登場人物の1人になったと言えるでしょう。
暴力と悪に染まる本作ですが、根底にあるテーマは愛です。
登場人物たちは一様に愛に飢えていて、純粋に愛されたいのに愛されていないという環境にあります。
人から愛されないことは、とても寂しく不安を掻き立てます。
そのため、加奈子の囁く愛の言葉と愛の証しのようなキスに、狂うようにのめり込んでしまうのです。
しかし、彼女自身も愛に飢えているので、周囲への愛は紛い物。
孤独な人々が渇いた心を満たすために必死になって行動していたと考えると、その人間らしいリアルな部分は理解できるのではないでしょうか。
また、各所で出てくるミスマッチなほどの明るい音楽やアニメーションが、不気味な世界観を盛り上げるスパイスとして使われており、観ていて飽きないのも見どころです。
「Everybody Loves Somebody」は映画のテーマを表す主題歌
本作のエンディング曲で主題歌となっているのは、ディーン・マーティンの最大のヒット曲『Everybody Loves Somebody』です。
ポップシンガーのレジェンド的存在であるフランク・シナトラの楽曲を1964年にカバーしたもので、邦題は「誰かが誰かを愛してる」。
ゆったりとした厚みのあるオーケストラと華やかなコーラスがムーディなポップソングとなっています。
そして、愛する人がいる高揚感を歌う甘く柔らかな歌声に酔いしれるでしょう。
歌詞に描かれるフレーズは、加奈子の持つ不思議な吸引力に引き寄せられた周囲の人々の思いと重なります。
本作のテーマが愛であることを象徴する主題歌です。
思わず聴き入る挿入歌も満載!
本作は主題歌だけでなく、多彩な挿入歌が用いられていることでも人気です。
パーティで流れる劇中歌と映画予告でも起用されたのは、人気アイドルのでんぱ組.incが歌う『でんでんぱっしょん』。
ポジティブなメッセージが詰まった歌詞が懐かしさを覚えます。
メロディに乗るパワフルな楽曲は、加奈子のダークな部分とのギャップが感じられるでしょう。
同級生たちが彼女に惹き付けられていくシーンの劇中歌では、若き女性ラッパーであるdaokoの『Fog』が使用されています。
さらに矢沢永吉や松田聖子の歌唱曲も挿入され、映像とのリンク感を楽しめます。
「渇き。」は人の真実を映す映画!
中島哲也監督の映画『渇き。』は決して楽しい作品ではありませんが、人として考えるべきメッセージが込められています。
本作で描かれる通り、人は愛に飢えると思いもよらない行動を取ってしまいます。
その様子を観ていると、人にとって愛が重要な感情であることと、愛を失えば誰でも同じ状況になり得るという事実が伝わってきます。
この恐ろしい世界観は、実は他人事ではないのです。
本作が描く、人の持つ感情や衝動のエネルギーを体感してみてください。
TEXT MarSali