完成度の高いシナリオが評価される名作映画
2012年に公開された映画『鍵泥棒のメソッド』は、銭湯のロッカーの鍵をすりかえたことで人生が入れ替わってしまった二人が織りなすクライムコメディ作品です。
本作は、よくある「入れ替わりもの」作品とはひと味違います。
銭湯で記憶喪失になった男と、鍵を奪いその男になりすます主人公。
彼らがそのまま違う人生を歩むかと思えば、予想外の展開が次々と巻き起こるのです。
監督は、映画『運命じゃない人』で国内外から高く評価された内田けんじ。
本作では脚本も担当し、第86回キネマ旬報ベスト・テンで日本映画脚本賞と芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。その他にも数々の賞を受賞しました。
さらに舞台化や、リメイクとなる映画『LUCK-KEY/ラッキー』が韓国で制作されるなど、作品の幅を広げています。
秀逸なストーリーが高い満足度を与えてくれる映画、それが『鍵泥棒のメソッド』なのです。
映画「鍵泥棒のメソッド」のあらすじを紹介
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俳優を目指すも挫折した35歳にして無職の桜井武史は、自殺できず呆然としていました。
ある日、財布の中から入浴券を見つけ、銭湯へ向かいます。
銭湯に着くと、分厚い財布を持つ羽振りのいい凄腕の殺し屋・山崎信一郎を発見します。
その後山崎は、石鹸で足を滑らせ、頭を打って意識を失ってしまうのでした。
桜井は、出来心でロッカーの鍵をすり替え、彼になりすますことにしました。
裕福な生活を手に入れた桜井を待ち受けていたのは、スリルとサスペンスあふれる裏社会。なりすました男の危険な仕事を引き受けなくてはいけない窮地に陥ってしまったのです。
一方、頭を打ったショックで記憶を無くした山崎は、所持品から自分を桜井武史だと思い込んでいました。
自分が売れない俳優だと知り、演技の勉強に取り組みます。
山崎と出会った雑誌編集長・水崎香苗は真剣に自分と向き合う彼を応援することにしました。
やがて桜井と山崎、香苗ら三人が絡み合い、物語は予期せぬ方向へ転がっていきます。
笑いとスリルが詰まった名作にあなたも心奪われますよ。
「メソッド」はメソッド演技法のこと
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『鍵泥棒のメソッド』の「鍵泥棒」とは、銭湯のロッカーの鍵をすり替えた桜井武史のことを指しており、「メソッド」とは、役柄になりきり演技するメソッド演技法のことを指します。
本作は人生が入れ替わり、それぞれになりきる2人を対比させながら展開されます。
そして記憶を取り戻した山崎と桜井が出会うことで、物語が大きく動き出すのです。
記憶喪失の山崎と香苗の関係性の行方や、山崎になりすまし裏社会の仕事に手を染めた桜井の運命がどうなるか最後まで目が離せません。
主役2人の圧巻の演技と、想像を超える展開が連続するストーリーに引き込まれるはずです。
「半沢直樹」コンビの演技力にぐいぐい引き込まれる
本作の魅力のひとつは、人生が入れ替わった男たちを演じる堺雅人と香川照之の演技力です。この二人といえばTVドラマ『半沢直樹』が思い浮かぶ方も多いはず。
ドラマでは熾烈な戦いを繰り広げた二人ですが、本作では少し違います。
堺雅人が演じるのは、所持金わずかの売れない役者である桜井武史。
演技派の堺雅人が大根役者役を自然に演じていて、演技力の高さに驚かされます。
小心者で抜けている役どころをコミカルに演じ、どこか憎めないキャラクターに作り上げました。
一流の殺し屋である山崎信一郎を演じたのは香川照之です。
鮮やかな手さばきで依頼を着々と遂行する仕事人の一面と、記憶喪失状態の一面を巧みに演じ分けています。
銭湯で宙を舞うシーンはCGを使わず撮影されており、彼の演技力の高さが分かります。
彼らの素晴らしい演技や魅力が随所に散りばめられていて、映画にぐいぐい引き込まれるでしょう。
第36回日本アカデミー賞の優秀主演男優賞と優秀助演男優賞を受賞した二人の演技に注目です。
脇を固める俳優陣の演技も伊達じゃない
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他の俳優陣も一目置く魅力があります。
主役二人の騒動に巻き込まれる雑誌編集長・水嶋香苗を演じたのは、広末涼子。
香苗は素直で完璧主義者ですが、花婿をこれから1ヶ月以内に探そうとしている少しズレた感覚の持ち主です。
広末涼子は彼女を演じるにあたって、表情を抑えたフラットな演技を心がけるよう監督から指示をされたそうです。
その抑えた表情の隙間からあふれだす、彼女の優しさや魅力に注目してください。
他にも、荒川良々や森口瑤子など豪華俳優陣が素晴らしい演技を見せてくれています。
今までの彼らのイメージと異なる振り切った演技にも注目です。
次々予想を覆される、スリルと高揚感あふれるストーリー
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本作のもうひとつの魅力は、視聴者の心を最後まで掴んで離さないストーリーにあります。
例えば、冷酷な仕事人の山崎が記憶喪失後、桜井武史として慎ましく堅実に過ごす姿に大きなギャップが生まれ、笑いを誘います。
そこに裏社会の仕事を請け負ってしまった桜井の視点も合わさり、終始面白く見ることができるのです。
また、婚活や仕事に真面目な香苗が加わることで、ツッコミたくなるコメディやハートフルな恋模様を展開していきます。
この笑いとスリルと恋愛要素の配分が絶妙で、次にどんな展開が待ち受けているのか全く予測ができません。
少し不思議に感じる登場人物の動きもありますが先のシーンの伏線であり、全て劇中で回収されるので観ていて爽快です。
二転三転していく考え抜かれたストーリーが観る者を常に騙し、驚かせます。
『鍵泥棒のメソッド』は、 ジェットコースターのようなスリルや高揚感を与え、観る人を虜にしていく作品なのです。
対比的なふたりの生き方から人生のヒントが見つかる
また、本作は生きる上で大切なことを教えてくれます。山崎になりすまし窮地に陥る桜井の姿から、自分と違う人生を演じることは簡単でないと気づかされます。
なぜなら、人それぞれ経験や習慣、考え方は異なるからです。
誰かになりきろうとしても、習慣まで同じにすることは並大抵の努力ではできないでしょう。
それでも記憶喪失になった山崎は、自分を見つめ直し地道な努力によって道を切り開きます。
努力し続けることが手間で苦手な桜井も、ここぞという場面で自分の殻を破り、成長を見せるのです。
そんな2人の姿から、本気になればいくつになっても人生はやり直せると教えられます。
自分の人生をどのように生きるか、ヒントを見つけるきっかけになるでしょう。
君を奮い立たせてくれる主題歌「点描のしくみ」
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主題歌『点描のしくみ』を歌うのは、ロックバンド『THE YELLOW MONKEY』のボーカルとしても知られる実力派ミュージシャン吉井和哉です。
この楽曲は、彼にとって初の映画主題歌となっています。
「大の大人が右往左往するお話なので、その読後感をつないでいってくれるような、大人の声が欲しい」という監督のオファーを受け、この楽曲を制作しました。
パワフルで艶のある吉井和哉の歌声やドラムの小刻みなリズム、ギターの低めの音色が大人っぽい世界を作り上げています。
サビでかき鳴らされるギターが爽快で、聞き応えも抜群。聴いているだけでしびれそうになるかっこいい曲調ですが、歌詞も魅力的です。
「当たり前の景色の中に宝物あったんだ」と、自分の日々の積み重ねの中にかけがえのないものがあることを教えてくれます。
そして自分の人生をひとつひとつ丁寧に生きること、人生を投げ出さないようにと強く訴えかけています。
悩める自分を奮い立たせてくれる、力強いロックナンバーですね。
完成度が高いこの楽曲は、ラストシーン後も冷めやらぬ興奮で胸をいっぱいにしてくれますよ。
映画のエンドロール中にも素敵な展開が待っています。耳と目にぐっとくる演出にもお見逃しなく。
あなたも「鍵泥棒のメソッド」を観て驚き体験をしよう
計算し尽くされたシナリオと俳優陣の高い演技力で、笑いとスリルとワクワクを提供してくれる映画『鍵泥棒のメソッド』。香川照之の存在感のある演技と堺雅人の味わい深い演技、広末涼子が演じるヒロインの魅力に引き込まれ、あっという間にクライマックスを迎えるでしょう。
また、台詞やBGM、効果音に至るまであらゆるシーンに伏線が張られており、最後に全て回収されていくので爽快感が味わえますよ。
驚きとスリルの連続にあふれた傑作をぜひ堪能してみてください。
TEXT Asakura Mika