マルコス’55という人間
2017年に公開された『ハイスペックニート』は、スマホゲーム「#コンパス ~戦闘摂理解析システム~」に登場するマルコス’55のキャラクターソングです。
キャラクターデザインと動画作成をたまが担当し、ボカロPである40mPが作詞作曲を手がけています。
ボカロ初期時代からの仲であるたまと40mPの最強タッグから生まれたマルコスというキャラクター。
一体どんな人物なのでしょうか。
40mPが綴る歌詞から、マルコスのストーリーを紐解いていきましょう。
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14歳で大学卒業 IQは340
タメ息出るほど容姿端麗 イケメンボーイ
体格は高身長で 運動神経バツグン
100m走も9秒台で走れんだ
ねえ、なんでこんなにも
カンペキに生まれてきたの?
≪ハイスペックニート 歌詞より抜粋≫
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まさに誰もがうらやむハイスペックっぷり。
マルコスがいかに「カンペキ」であるかが歌詞からして一目瞭然です。ニートにしておくにはもったいないほどの才能の持ち主ですね。
「ねえ、なんでこんなにもカンペキに生まれてきたの?」という歌詞が自慢のようにも聞えますが、これは自分を皮肉った一言だとこの後の歌詞から考察できます。
皮肉にも似た発言をすることからマルコスという人物は一風変わったひねくれ者のようです。
人生を生きるために必要なスペックは全て持ち合わせているはずのマルコス。
そんな彼がなぜ皮肉めいた一言を呟くのか。その一言に隠された意味を続く歌詞から見ていきます。
マルコスが探し求める「誰か」とは
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つまらない人生だ 退屈になって
もう、部屋の中で独り
I am lonely and High Spec Neet.
全てを手にしても心は空っぽ
ねえ、誰か傍にきて 抱きしめて
≪ハイスペックニート 歌詞より抜粋≫
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「つまらない人生だ」「退屈になって」という歌詞から、人生がうまく行き過ぎてうんざりしている様子が伺えます。
あまりにも簡単になってしまった自身の人生に、意味を見いだせなくなっているようです。
そうしていくうちにだんだんと部屋の中に引きこもっていくように。
どんなに名誉のある賞をもらっても、他人から高い評価を受けてもなぜか満たされない気持ちが「全てを手にしても心は空っぽ」という歌詞に表れています。
そして、ついにサビのラストで本音が溢れだします。「ねえ、誰か傍にきて 抱きしめて」と。
序盤の余裕がなくなるほどに悲痛の叫びを上げるマルコス。独りでは耐えがたい重圧の中でもがき苦しんでいる様子が伝わります。
ここから推測するにマルコスは、ありのままの彼に寄り添い、孤独から救ってくれる「誰か」を求めているようです。
しかしその声はどこにも届くはずもなく、曲は続きます。
魔法少女リリカという存在
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友達なんていらない 恋人なんていらない
大切な人はTシャツの魔法少女
≪ハイスペックニート 歌詞より抜粋≫
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「Tシャツの中の魔法少女」これはゲーム内に登場するアニメ「魔法少女リリカルルカ」のキャラクター「リリカ」のことを指しています。
一見するとリリカは単なる「推し」のようにも思えますが、「大切な人」と歌詞にあることから部屋の中で生活するマルコスにとっては、心を支える唯一無二の存在のようです。
2番の始まりでは友達も恋人もいなくていい、リリカがいてくれるならそれで十分だと言い聞かせているようにも取れますね。
このことからマルコスが「ハイスペック」であるがゆえに周りに理解されず、人間関係を諦めてしまった経緯が考察されます。
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オレンジ色のパーカー 包み隠した感情
誰ひとり僕の名前さえも知らなくて
ねえ、なんでこんなにも
心がズキズキ痛むの?
≪ハイスペックニート 歌詞より抜粋≫
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トレードマークでもある「オレンジ色のパーカー」は、キャラクターデザイン時「暗くない引きこもり」のテーマを基に決まった色。
一見明るく陽気なように見えますが、マルコスはそのパーカーに満たされない「感情」を隠しているようです。
外部との接点がなく、誰にも自分の存在を知られることがない孤独と絶望感が伝わってきます。
誰とも関わらなくていいと思っているものの、心は正直に寂しいと反応してしまう。マルコスの心の葛藤がわかります。
孤独の中に現れた一筋の希望
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12カ国語あやつって あらゆる言語話せたって
自分の気持ち伝える言葉 知らない
≪ハイスペックニート 歌詞より抜粋≫
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「自分の気持ちを伝える言葉知らない」この歌詞から、心の底で感じている寂しい気持ちをどう表現し、他人に伝えればいいのかわからず悩む姿が想像できます。
たくさんの言葉を知っているのに伝える技術がない。それは人との関わりを絶ってしまったがゆえの弊害と言えるでしょう。
コミュニケーション能力は人との関わり合いの中で培われる能力。ハイスペックなマルコスでも、手に入れるのは容易ではなかったようです。
初めての壁にぶつかり、どうしたらいいのかわからず戸惑う不器用な一面が垣間見えます。
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つまらない人生だ 退屈になって
もう、この世界で独り
I am lonely and High Spec Neet.
すべてを手にしても心は空っぽ
ねえ、誰か傍にきて 優しく包み込むように
不完全なこの僕を抱きしめて
≪ハイスペックニート 歌詞より抜粋≫
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最後「不完全なこの僕を」との歌詞から自身のことを、何かが欠けている不完全な人間だと認めている様子。
ここで欠けているのはコミュニケーション能力のことと推測します。
また、1番の歌詞に出てきた「カンペキ」を「完璧」と表記しなかったのは、不完全さを表すための演出なのでは?と考察できますね。
ここの歌詞のMVでは、思い詰めたマルコスが過去の栄光である優勝カップを床にたたきつけようと振りかざすシーンになっています。
優勝カップが手から離れそうになった瞬間、差し伸べられた「誰か」の手。
はっとしたマルコスの目線の先には「優しく包み込むように」優勝カップを手にするリリカの姿でした。
キャラクターの作成者であるたまは、マルコスの誕生秘話にて「リリカが希望になるように」と明かしています。
マルコスが捨てかけた過去の栄光を優しく拾い上げ、抱きしめるリリカの姿はまさに求めていた「希望」そのもの。
しかしリリカはあくまでアニメ上のキャラクター。現実のマルコスに優しく手を差し伸べ、希望となる「誰か」は他にいるのかもしれません。
それはゲームで共に戦うプレイヤー、ということなのでしょうか。
今後マルコスがどのように成長していくのか。それはあなた次第、なのかもしれません。
TEXT マチオカ アム