80歳の美輪明宏が2015年末の紅白歌合戦で歌唱した『ヨイトマケの唄』。2012年の紅白で歌った際は77歳での初出場でした。このような記録を作れるのも美輪明宏だけでしょう。
この曲は歌詞を聴かせたいという美輪明宏の意図で、紅白では黒髪、黒い衣装でセットも地味にしてパフォーマンスしていました。歌だけで勝負しているんですね。であるがゆえに聴く者の心に響きます。
「ヨイトマケ」とは「よいっと巻け」を語源とする掛け声。転じて日雇い労働者を指します。この労働者の歌は、鬱屈が溜まっている2ちゃんねる住人の心もとらえました。それがネットニュースにもなったほどです。
「父ちゃんのためなら エンヤコラ 母ちゃんのためならエンヤコラ もひとつおまけにエンヤコラ」このフレーズで始まるこの曲。これが日々汗水垂らして労働している人の掛け声。エンヤコラの言い方もそれぞれ変えて登場人物を表現しています。
続いて歌の主人公の現状が語られます。工事現場の昼休みにたばこをふかしていると、働く土方のヨイトマケの唄が聞こえてくる。ここのフレーズを歌う際の美輪明宏は工事現場で働く青年になって、青年の声で演じています。ここから過去を回想するんですね。
「子供の頃に 小学校で ヨイトマケの子供 きたない子供と いじめぬかれて はやされて」このフレーズを歌う際、美輪明宏は「いじめる子供」を演じます。「ヨイトマケの子供!」「きたない子供!」と悪ガキの声になるんですね。さらにこの後は涙声になる美輪明宏。
この曲は演劇的。美輪明宏の演技力をもって曲が成り立っていることが分かります。
子供の頃の主人公は母ちゃんになぐさめてもらおうと泣きながら帰ってきましたが、母ちゃんの働く姿を見て心を入れ替えます。
"姉さんかんむりで 泥にまみれて 日に灼けながら 汗を流して
男にまじって 綱を引き 天にむかって 声あげて
力の限りに うたってた
母ちゃんの働く とこを見た 母ちゃんの働く とこを見た"
ここは特に情景がよく浮かぶフレーズ。母ちゃんがどういう人かがここで分かるようにできています。男にまじって肉体労働をする母ちゃんに幼き主人公は心をうたれるんですね。そして最後、主人公はヨイトマケの唄を心に宿しながら成長してエンジニアとして働いています。今は亡き母の思いを胸に抱きまっすぐに働いている主人公の姿が目に浮かびます。
この歌は、かつて放送禁止歌にされていた時期もありました。「ヨイトマケ」という言葉が差別的ととらえられていたんですね。紅白で初披露するまでにずいぶん時間がかかったのもこういう経緯があります。日本は今、再び貧しくなってきています。だからこそ、この歌は現代日本人の心に響くんですね。
TEXT:改訂木魚(じゃぶけん東京本部)
80歳の美輪明宏が2015年末の紅白歌合戦で歌唱した『ヨイトマケの唄』。2012年の紅白で歌った際は77歳での初出場でした。このような記録を作れるのも美輪明宏だけでしょう。
公開日:2016年1月21日