人気マンガ「呪術廻戦」のファンであるEveが世界観を表現
『呪術廻戦』は、2018年から『週刊少年ジャンプ』で連載している芥見下々のバトル漫画です。
2020年10月からTVアニメが放送され、コミック累計発行部数1000万部を記録するほど人気が急上昇しています。
物語の舞台は、人間の恨みや妬みなどの負の感情から生まれた怪物により、日本全国で怪死者が続出している世界。
そんな世界で主人公の虎杖悠仁が、怪物から人々を守るために仲間と共に戦う物語です。
見始めると後戻りできなくなるストーリーや、スリル満点なおぞましい怪物との命懸けのバトルが高く評価されています。
アニメの主題歌『廻廻奇譚(読み方:かいかいきたん)』は、作品の世界観を色濃く表現した楽曲です。
この楽曲を歌うのは、シンガーソングライターのEve。
2009年にボーカロイド楽曲の「歌ってみた動画」で注目を集めて以来、動画を投稿するたびに再生回数100万回を突破する超人気歌い手でもあります。
そして、彼は『呪術廻戦』のファンであり、原作を読み込んだ上で『廻廻奇譚』の歌詞を書き上げたそうです。
それでは早速、歌詞や楽曲の意味を考察していきましょう。
たった4行だけで設定が分かる
----------------
有象無象 人の成り
虚勢 心象 人外 物の怪みたいだ
虚心坦懐命宿し
あとはぱっぱらぱな中身なき人間
≪廻廻奇譚 歌詞より抜粋≫
----------------
Aメロでは、負の感情を持つ人間のおぞましさが歌われています。
憎しみや妬みを心の内に隠したまま生きている人は、まるで怪物のように恐ろしい。
そんな人の悪意から怪物が次々生まれ、他の人々を傷つけているのでしょう。
一方、頭の中が空っぽで、世の中に何も疑問を抱かず生きている人がいることも分かります。
街にはその2種類の人間しかおらず、人の悪意をなくそうとする人がいないため、怪物による被害は後を絶ちません。
次々生まれる怪物と人知れず戦うのが主人公達なのです。
短い4行のフレーズですが、この中に『呪術廻戦』の設定が詰まっています。
変わってしまった日常と主人公に課せられた使命
----------------
寄せる期待 不平等な人生
才能もない 大乗非日常が
≪廻廻奇譚 歌詞より抜粋≫
----------------
このフレーズでは、主人公の虎杖悠仁にとって転機となった出来事が描かれています。
悠仁は、運動神経が抜群なごく普通の高校生でした。
ある日、悠仁の祖父は「手の届く範囲でもいいから救える人を救え」と言い残し、病院で亡くなってしまいます。
その病院で悠仁は、怪物を倒す力を持った高校生・伏黒恵と出会い、学校に保管されている魔除けが、放っておくと死人が出るほど危険な代物だと知ります。
魔除けとは、怪物による被害を食い止めるために病院や学校などに設置された、強い怪物の肉体の一部のこと。
そんな危険なものだと知らず、悠仁の所属するオカルト研究会の先輩は魔除けの封印を解き、怪物に襲われてしまいました。
怪物によって殺されることは正しい死ではないと思った悠仁は、祖父の遺言を守り人を助けることを決意。
「呪われた力」でしか怪物を倒せないと知った彼は、とっさに魔除けである鬼の指を飲み込み、戦う力を得てピンチを切り抜けるのです。
その怒濤の展開を「才能」「大乗」「非日常」と韻を踏みながら、流れるように歌い上げています。
「大乗」とは、全ての人間に平等な救済と成仏を願う仏教の考え方を意味します。
悪人でさえも恩恵を受ける「不平等」な人の世で、善悪問わず全ての人を救う使命を背負った悠仁。
そんな彼に課せられた使命が歌われています。
主人公の揺るがぬ使命感
----------------
夢の狭間で泣いてないで
どんな顔すればいいか わかってる
だけどまだ応えてくれよ
≪廻廻奇譚 歌詞より抜粋≫
----------------
Bメロでは、現実と理想の板挟みに苦悩する姿が描かれています。
大切な人を守れなかった悔しさや敵との実力差を感じ、挫けそうになっているのでしょう。
しかし「泣いてないでどんな顔すればいいか わかってる」と歌われるように、希望を捨てていないことが感じ取れます。
「人を救え」という祖父の遺言に応えながら怪物と戦う。
主人公の揺るぎない強い意志が描かれています。
世界から呪いがなくなるまで走り続ける
----------------
闇を祓って 闇を祓って
夜の帳が下りたら合図だ
相対して 廻る環状戦
戯言などは 吐き捨ていけと
まだ止めないで まだ止めないで
誰よりも聡く在る 街に生まれしこの正体を
今はただ呪い呪われた僕の未来を創造して
走って 転んで 消えない痛み抱いては
世界が待ってる この一瞬を
≪廻廻奇譚 歌詞より抜粋≫
----------------
サビでは、主人公達が怪物と激しくバトルを繰り広げる様子が描かれています。
「闇を祓って闇を祓って」は緩急を付けて歌われており、戦闘のスピード感をうまく表現していますね。
「相対して廻る環状線」は、上りと下りの車両が出会うように因縁の敵と何度も出会うことをたとえているのでしょう。
人々を襲う怪物がいなくなる未来を夢見て、奮闘し続ける悠仁。
1番で主に描かれていたのは、悠仁の「全ての人を守る」という使命と「怪物を世界からなくす」という夢でした。
呪いの連鎖
----------------
傀儡な誓いのなき百鬼夜行
数珠繋ぎなこの果てまでも
極楽往生現実蹴って 凪いで
命を投げ出さないで
内の脆さに浸って
どんな顔すればいいか わかんないよ
今はただ応えてくれよ
≪廻廻奇譚 歌詞より抜粋≫
----------------
2番で注目すべき歌詞は、「数珠繋ぎ」というフレーズです。
これは、「呪術」と「数珠」をかけているのでしょう。
そして人の負の感情によって怪物が生まれ、倒してもまた違う怪物が生まれる連鎖を表しているようです。
終わらない戦いの中で自分の弱さに苦悩しながら、命がけで怪物に立ち向かっていく主人公達の姿が描かれています。
原作ファンを唸らせた「五常を解いて」
----------------
五常を解いて 五常を解いて
不確かな声を紡ぐ イデア
相殺して 廻る感情線
その先に今 立ち上がる手を
ただ追いかけて ただ追いかけて
誰よりも強く在りたいと願う 君の運命すら
今はただ 仄暗い夜の底に
深く深く落ちこんで
≪廻廻奇譚 歌詞より抜粋≫
----------------
「五常を解いて」の「五常」とは、思いやりや正義、礼儀や礼節を守ること、正しい判断を下すこと、信用・信頼されることの5つの教えを意味する言葉です。
この歌詞は、悪意を持たず人として正しい生き方を心がけるようにと教えてくれています。
誰よりも強く、人として正しく生きる。
そう願いながら主人公達は強い怪物達と戦っていくのでしょう。
希望を求めてイメージのその先へ
----------------
不格好に見えたかい
これが今の僕なんだ
何者にも成れないだけの屍だ 嗤えよ
目の前の全てから 逃げることさえやめた
イメージを繰り返し
想像の先をいけと
≪廻廻奇譚 歌詞より抜粋≫
----------------
Cメロでは、どんな姿になろうとも前に進もうとする姿が描かれています。
自分の過去を変えることはできない。
もし自分が選択した行動による結果が、求めていなかったものだとしたら、恐怖心や不安を乗り越えて進まないと理想にはたどり着けません。
目の前のことに集中し、うまくいくイメージを重ねて、恐れや不安などの負の感情に打ち勝つこと。
そうすることで、きっと前より成長した自分になれると教えてくれています。
この楽曲は、始めと終わりにししおどしのような音が入っており、リピート再生ができるようになっています。
ここでも終わらない戦いを表現しているのです。
繰り返し聴くとサビが耳に残り、何度打ちのめされそうになっても希望を捨てない主人公の信念を感じ取ることができます。
自分の心の弱さを乗り越え希望を掴む主人公の姿は、応援したくなる魅力がありますね。
終わりなく繰り返される不思議な物語という意味で『廻廻奇譚』と名付けたのかもしれません。
戦いに身を置く主人公達に想いを馳せながら、『廻廻奇譚』の世界観を味わってみてくださいね。
TEXT Asakura Mika