平成を代表するアニメ主題歌
画像引用元 (Amazon)
1995年にテレビ放送されて以来、世界的な人気を誇るアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』。
物語の舞台は、西暦2015年の日本。
人類の脅威となる謎の怪物「使徒」の襲来を巨大人型兵器「エヴァンゲリオン」で阻止するバトルアニメです。
主人公は内向的な14歳の中学生、碇シンジ。
唯一の肉親である父親に人型兵器エヴァンゲリオン初号機のパイロットとして呼ばれたことから物語が始まります。
聖書の用語や世界観を盛り込んだミステリアスなストーリーや、巨大人型兵器と謎の怪物による迫力のあるバトル。
そして、繊細に描かれた心理描写など引き込まれる要素が多く、放送当時は社会現象を巻き起こしました。
その主題歌『残酷な天使のテーゼ』は、耳に残るメロディーと心に迫る歌声で、アニメを見ていない人達にも広く認知されるようになった楽曲です。
この楽曲の作詞をした及川眠子は、高橋洋子が歌うことを考えて、年上の女性や母親の目線で描いたといいます。
早速、歌詞の内容を紐解いていきましょう。
純粋な瞳が愛おしい
----------------
蒼い風がいま
胸のドアを叩いても
私だけを ただ見つめて
微笑んでるあなた
そっと ふれるもの
もとめることに夢中で
運命さえ まだ知らない
いたいけな瞳
≪残酷な天使のテーゼ 歌詞より抜粋≫
----------------
この歌詞では、我が子を慈しむ母親の姿が歌われています。
「蒼い風が胸のドアをたたいても」という言葉の響きは爽やかで、青春時代の訪れを連想させます。
つまり、母親が見つめている「あなた」は、アニメの主人公達のように年頃の子どもなのでしょう。
母親が「いたいけな瞳」と思っているように、幼児の頃の純粋さや素直さが残っているのかもしれません。
子どもにとって母親は生きていくのに必要な存在。
そして母親も子どもが笑いかけてくれることで心が満たされます。
親子の幸せな時間が描かれていますが、母親は子どもの運命を悟っているようです。
それは一体どんな運命なのでしょうか。
子どもはいつか羽ばたく
----------------
だけどいつか
気付くでしょう
その背中には
遥か未来 めざすための
羽根があること
≪残酷な天使のテーゼ 歌詞より抜粋≫
----------------
母親は、子どもには未来へ羽ばたく「羽根」が生えており、いつか自分の元から離れてしまうことに気付いていました。
愛しい子どももいつしか大人になります。
いつまでも母親のそばにずっといられるわけではないのです。
それでも母親は子どもを愛さずにはいられません。
残酷な運命を受け入れる
----------------
残酷な天使のテーゼ
窓辺からやがて飛び立つ
ほとばしる 熱いパトスで
思い出を裏切るなら
この宇宙を抱いて輝く
少年よ 神話になれ
≪残酷な天使のテーゼ 歌詞より抜粋≫
----------------
1番のサビでは、天使のような我が子がいずれ親元を離れる、という運命を受け入れた母親を歌っているようです。
子どもが反抗的になり昔と変わってしまったことが辛くても、我が子が自身の人生を歩むために必要なことだと分かったのでしょう。
年頃の子どもを持つ母親ができることは、子どもの姿を遠くから見守り、子どもが夢を叶えるまで見守ること。
離れたところから子どもを愛し、子どもの可能性を信じ続けることに決めたのでしょう。
気持ちを込めて力強く歌われることで、その決意と母親の願いの強さが伝わってきます。
「宇宙」「神話」といったスケールの大きな夢を持つ子ども。
そしてその夢を叶えて欲しいと願う母親。
『残酷な天使のテーゼ』は、大切な我が子の幸せを心から願う母親の深い愛情が歌われていたのです。
ずっとこのままでいて欲しいけれど
----------------
ずっと眠ってる
私の愛の揺りかご
あなただけが 夢の使者に
呼ばれる朝がくる
細い首筋を
月あかりが映してる
世界中の時を止めて
閉じこめたいけど
≪残酷な天使のテーゼ 歌詞より抜粋≫
----------------
2番では、眠る我が子を微笑ましく見つめる母親が描かれています。
我が子の安らかな寝顔が愛らしくて、手放したくない母親。
「世界中の時を止めて閉じ込めたいけど」の歌詞からも、子どもと一緒の時間が続いて欲しいという気持ちが垣間見えます。
遠くへ行って欲しくない気持ちを押さえ、子どもの配偶者となる人に出会う日を待っているのでしょう。
子どもの幸せは母親にとっても嬉しいことなのです。
----------------
もしもふたり逢えたことに
意味があるなら
私はそう
自由を知るためのバイブル
≪残酷な天使のテーゼ 歌詞より抜粋≫
----------------
母親は、子どもと恋人の出会いに意味があると考えました。
子どものために母親がしてあげられることは、自由を与えること。
離れることが辛くても、母親は旅立たせることが子どものためになると信じます。
子どものために子離れしようとする母親の強い覚悟が感じ取れますね。
子どもを信じる母の愛情が聴き手を奮い立たせる
----------------
残酷な天使のテーゼ
悲しみが そしてはじまる
抱きしめた 命のかたち
その夢に目覚めたとき
誰よりも光を放つ
少年よ 神話になれ
≪残酷な天使のテーゼ 歌詞より抜粋≫
----------------
いよいよ親子の別れの時が訪れます。
親元を離れた子どもは、やがて家族を持つでしょう。
愛する家族を守ろうとするわが子の頼もしい姿を見た母親が、励ましの言葉をかけているのようです。
この先辛いことがあっても、家族の幸せのために努力して輝いてほしい。
そんな母親の願いが2番を締めくくっています。
子どものために子離れすることを決意した母親は、離れた所からいつまでも子どもの幸せを願い続けるのでしょう。
この楽曲には、幼い頃から子どもに向けられていた母親の愛情がぎゅっと詰まっています。
画像引用元 (Amazon)
アニメの中でエヴァンゲリオンに乗る子ども達には母親がいません。
ではなぜ、母親目線の歌が主題歌なのでしょうか?
それは人型兵器・エヴァンゲリオンを動かす仕組みと関係があるのかもしれません。
エヴァンゲリオンは巨大な人工生命体で、兵器として思い通りに動かすためにパイロットの母親の魂が取り込まれています。
ある時、初号機がパイロットである碇シンジの命を守るというシーンがありました。
姿形が変わっても子どもを守ろうとした姿には、『残酷な天使のテーゼ』で歌われるような母親の一途な愛情を感じますね。
『残酷な天使のテーゼ』を聴いていると、まるで母親が自分の背中を押してくれる感覚を覚えます。
自信が欲しい時や頑張りたい時、この楽曲に込められた愛と勇気がきっと背中を押してくれるでしょう。
TEXT Asakura Mika