King Gnuが示す存在感
King Gnuは、常田大樹、勢喜遊、新井和輝、井口理の4人組バンドです。2015年の結成時はSrv.Vinci(サーバ・ヴィンチ)という名前で活動していましたが、2017年に現在のバンド名であるKing Gnuに改名し、今に至ります。
特徴的なハイトーンボイスで存在感を示し、彼らの楽曲を耳にする機会も度々。
常田と共にボーカルを務める井口は、TBSドラマ『MIU404』にゲスト出演して話題になりました。
他にも、音楽ナタリーにメンバーの新井のインタビューが掲載されたり、常田の密着ドキュメンタリーの放送が決定したりと、メンバー一人一人の活躍も目立ちます。
一度耳にすると癖になる音楽性で人々を魅了する『King Gnu』。
今回は彼らの楽曲から、TVドラマの主題歌になった『白日』をご紹介します。
冤罪と『白日』
King Gnu『白日』は、2019年2月22日に配信リリースされたシングルで、作詞作曲はメンバーの常田が手がけました。
坂口健太郎主演ドラマ『イノセンス 冤罪弁護士』の主題歌ということもあり、意味深なタイトル。『白日』とは一体なんのことなのでしょうか?
ドラマで描かれるのは冤罪。罪のない人が犯罪者にされてしまう、理不尽かつ身近な問題をテーマにした興味深い作品です。
人生さえも奪われてしまう「冤罪」の怖さ。そこに『白日』という意味深なタイトルの楽曲をドラマ主題歌として提供したのことには、どんな意味が隠されているのでしょう。
さっそく、気になる歌詞の内容を見ていきましょう。
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時には誰かを
知らず知らずのうちに
傷つけてしまったり
失ったりして初めて
犯した罪を知る
≪白日 歌詞より抜粋≫
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長い人生を生きていく中で、知らず知らずの内に他人を傷つけてしまうことがありますよね。
その時は気づかなくても、あとになって自分の犯した罪を知り、その重さに打ちのめされることもあるでしょう。
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戻れないよ、昔のようには
煌めいて見えたとしても
明日へと歩き出さなきゃ
雪が降り頻ろうとも
≪白日 歌詞より抜粋≫
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一度犯した罪を消すことができないように、過去はやり直すことができません。
「戻れないよ、昔のようには」という歌詞が、消えない罪の重さを暗示しているようです。
『白日』という楽曲名からは、過去の出来事を白日の下にさらす覚悟のようなものを感じます。
それはまるで、冤罪という強敵と戦う弁護士たちを彷彿させますね。
煌めいて見える美しく幸せな過去に戻りたいと思っても、前に進むことしかできない人生。
その痛みや苦しさは、冤罪と向き合う覚悟とも重なります。
雪が象徴する潔白さ
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今の僕には
何ができるの?
何になれるの?
誰かのために生きるなら
正しいことばかり
言ってらんないよな
≪白日 歌詞より抜粋≫
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自問自答を繰り返す歌詞は、日々冤罪と向き合う弁護士たちの姿を思わせます。
冤罪弁護士と聞くと、正義の味方のようなイメージが湧きますが、実際に冤罪と戦うことはたやすいことではありません。
人々を守るためにはきれい事ばかり言っていられない。そんな覚悟と決意を感じさせる歌詞ですね。
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真っ新に生まれ変わって
人生一から始めようが
へばりついて離れない
地続きの今を歩いているんだ
≪白日 歌詞より抜粋≫
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「生まれ変わる」「人生をやり直す」という言葉をよく耳にしますが、実際に他人になれるわけではありません。
どれほど悔い改めようと、一度犯した罪が消えることはないのです。
「地続きの今を歩いている」という歌詞に、人生の重さが表現されていますね。
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真っ白に全てさよなら
降りしきる雪よ
全てを包み込んでくれ
今日だけは
全てを隠してくれ
≪白日 歌詞より抜粋≫
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たとえば、大切な誰かと再会した時。人生を共に生きたいと思える人に出会えた時。
人はきっと、消えない過去の傷を覆い隠したくなるでしょう。
「真っ白」「雪」という歌詞が、身の潔白や過去を消したい心理と見事にリンクしています。
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もう戻れないよ、昔のようには
羨んでしまったとしても
明日へと歩き出さなきゃ
雪が降り頻ろうとも
≪白日 歌詞より抜粋≫
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どれほどきれいに生まれ変わりたいと願っても、人生はやり直しがききません。
「もう戻れないよ、昔のようには」と過去を振り返りながら、ぬかるむ道でも前に進むしかないのです。
雪の白さと犯した罪が対比される、見事な歌詞センスですね。
「春風」が意味するもの
▲イラスト解説:ドラマ『イノセンス 冤罪弁護士』内でえん罪として取り上げられた放火や毒殺、銃殺等をモチーフにしたイラストが背景に散りばめられています。
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どこかの街で
また出逢えたら
僕の名前を
覚えていますか?
その頃にはきっと
春風が吹くだろう
≪白日 歌詞より抜粋≫
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季節を越えて
また出逢えたら
君の名前を
呼んでもいいかな
その頃にはきっと
≪白日 歌詞より抜粋≫
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『白日』の歌詞からは「他の人間になりたい」「人生をやり直したい」という思いを強く感じます。
曲作りの段階からドラマサイドの想いが反映された『白日』は、他人に罪をなすり付けた痛み、身に覚えのないことで人生を台無しにされた痛み、そんな人々を救おうと奮闘する弁護士の覚悟という3つの要素から成り立っています。
楽曲を通して伝わってくる後悔の念や、やり直しのきかない人生の中でもがく様は、まさに冤罪の被害者や加害者を彷彿とさせます。
誰かを陥れることで罪から逃れても、罪の記憶は消えません。
身の潔白を証明されても、一度背負った罪のイメージは簡単には払拭できません。
『白日』はまさに、冤罪というものの持つ恐ろしさを見事に歌い上げているのです。
消せない罪を背負っても、地続きの人生でもがきながらも前進する人々。
そんな人を優しく包み込み、背中をそっと押してくれる。
歌詞に登場する「春風」は、冤罪の先にある希望を象徴しているのでしょう。
『白日』の歌詞に込められた願い
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真っ新に生まれ変わって
人生一から始めようが
首の皮一枚繋がった
如何しようも無い今を
生きていくんだ
≪白日 歌詞より抜粋≫
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「首の皮一枚繋がった 如何しようも無い今」というのは、冤罪が証明された人の心情でしょうか。
無罪が確定しても、世間の目や、染みついたイメージは簡単に消えません。
何も悪くないのに、汚れを押しつけられた無念さや生きづらさは、一生つきまとうのかもしれません。
この理不尽さこそが冤罪の罪深さであり、恐ろしいところです。
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朝目覚めたら
どっかの誰かに
なってやしないかな
なれやしないよな
≪白日 歌詞より抜粋≫
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目覚めたら別人になっていたいという切なる願い。
消えない罪から逃れたいという苦しみがひしひしと伝わってきます。
そんなことはできやしないと分かっていながらも、願わずにはいられないのでしょう。
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忙しない日常の中で
歳だけを重ねた
その向こう側に
待ち受けるのは
天国か地獄か
≪白日 歌詞より抜粋≫
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「歳だけを重ねた その向こう側」というのは、冤罪によって台無しにされた人の人生を暗示しているようです。
罪から解放されたとして、その先に待ち受ける人生が「天国」なのか「地獄」なのか、誰にも分かりません。
ましてや、自分の努力だけで変えることもできないでしょう。
自分の訴えが聞き入れられて報われる「天国」か、さらに苦しい「地獄」のような未来が待っているのか。
理不尽に奪われた人生の行く末さえ選べない、そんなもどかしさを感じます。
しかし弁護士たちは、一人でも多くの人を冤罪から救い出すために奔走し続けるのでしょう。
その努力が実を結ぶこと、願いが聞き届けられることを願わずにはいられません。
『白日』は、冤罪の過酷な現実を歌いながら「春風」のような希望をそっと忍ばせた楽曲なのです。
冤罪という重いテーマながら、囁くような優しい歌声に心が救われます。
TEXT 岡野ケイ