「うやむや」はボカロっぽい?SixTONESの新しいアプローチ
SixTONESはデビューから約1年経った2021年1月6日にアルバム『1st』をリリースしました。発売前からいくつかの楽曲は既にMVとして公開されており、その音楽ジャンルの幅広さからもファンの期待値は最高潮に達していました。
しかし、SixTONESが仕掛けたサプライズはそれだけに留まりませんでした。
アルバムが発売された翌日の1月7日、突如としてYouTubeに『うやむや』のMVが公開されたのです。
これを受けてファンのみならず、今までSixTONESを聞いたことのない一般層の人たちまでもが、彼らの楽曲の魅力に引き込まれました。
『うやむや』はジャニーズの楽曲では珍しく、ボカロを感じさせる要素を取り入れています。
人間の声ではなく、コンピューターが歌うことを想定して作曲されたような息の長いフレーズが象徴的です。
同じジャンルの代表曲として、爆発的な人気を博したYOASOBIの『夜に駆ける』を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
この2曲の共通点として、125~130という高いBPMや、そこかしこに散りばめられた音数の多さが挙げられます。
特に、ピアノロックと言っても過言ではないほど、存在感のあるピアノの軽快なメロディーがとても特徴的です。
また、今回公開されたMVではSixTONESは姿を見せず、全編アニメーションで構成されています。
アニメーションをえむめろ、イラストレーションを退助リチャードが手掛けました。
非常に興味深いのはこのMVの中で、SixTONESの楽曲に関連するモチーフが数多く登場することです。
主人公らしき青年の部屋には『Jungle』に登場する動物たちの絵や写真が飾られており、度々登場する写真のフレームもSixTONESにまつわるアイコンで装飾されています。
SixTONESは『うやむや』の制作を通して、過去のボカロアーティストの慣習をリスペクトしつつ、オリジナリティーあふれる世界観を作り出すことに成功しました。
そこかしこに揺蕩う人間の適当さ
『うやむや』の歌詞の内容はタイトル通り、核心を突くようなハッキリとした表現は出てきません。
それだけに、様々な解釈をすることが出来ます。
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あなどれない妄想
大の字で寝てるその隣
語彙力ないのにつぶやきます
どれどれやれやれ自己満 show
≪うやむや 歌詞より抜粋≫
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Aメロでは同じメロディーが何度か繰り返されますが、歌詞の中で描かれている情景は瞬く間に変化していくため、聴き手を全く飽きさせません。
フレーズの中に細かく詰め込まれた言葉からは、躍動感がひしひしと伝わってきます。
この歌詞は、現代のネット社会を反映しているのではないでしょうか。
例えば、代表的なSNSとして「Twitter」を例にとってみましょう。
深夜、主人公が眺めているTLでは、顔も声も知らない様々な人たちが好き勝手に呟いています。
あながち的外れではない妄想や、安心しきって眠っている人の隣で、何でもないことが適当に投稿され続ける世界。
TLの流れの中には、自己満足の塊がウヨウヨと漂っています。
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てんやのわんやの敵の頭上
不意打ち狙う悩みどころ
陣中見舞いはさてどうしよう
最後の別れといきますか
≪うやむや 歌詞より抜粋≫
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「てんやわんや」という言葉もよく耳にしますよね。これは、大勢の人々が秩序なく動き回り、語った返すことを意味します。
多種多様な人々がごった返す中、主人公は自分と相反する意見の人を見つけてしまったのでしょうか。
どうやって切り替えしてやろうかと思案しているのかもしれません。
かと思えば「陣中見舞いはさてどうしよう」と全く別のことを考え始めました。
陣中見舞いというのは、一般的に頑張っている人に対して応援の気持ちを込めて贈る物を意味します。
誰かを否定しようとする反面、肯定したい気持ちも見え隠れします。
最終的には、ブロックしてお別れするつもりの主人公。
何とも気まぐれな人物像が浮かび上がります。
MVのアニメでは、射抜くような鋭い目線でPC画面を見つめる青年が登場します。
彼は創作活動に興味があるようで、ピアノの鍵盤や本、PCのキーボードが時々映り込むことから、作曲や小説の執筆をしているのかもしれません。
このことから、言葉に重きを置いている人物の可能性があります。
なので冒頭で歌われているように、何も考えず適当に呟く人間を見下すような表現を用いているのではないでしょうか。
同時に、彼自身も見下している部類の1部であることに嫌気がさしているようにも見えます。
冒頭から登場する女性は、物語の中のヒロインでしょうか。
鏡合わせのような表現が多用されていることから、現実とフィクションの線引きが曖昧な世界線なのかもしれません。
物語性溢れる歌詞の展開
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味をしめたやつのカルマ
未来永劫 グルグルグル
遮る愛は捨てちまえなんて
思っても言えない武士道よ
≪うやむや 歌詞より抜粋≫
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「カルマ」は、業や因果応報、宿命などと訳されます。過去の良い行いも悪い行いもいずれ自分に返ってくるという思想です。
つまり「味をしめたやつのカルマ 未来永劫 グルグルグル」という部分は、かつて甘い汁を吸った者が再び良い思いをするために、過去と同じ行動を繰り返す様子を描写しています。
「遮る愛は」では、倫理観と本音の間で揺れ動くさまが見て取れます。
このBメロの歌詞は、非常に物語性を感じさせる言葉選びが特徴的です。
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うだうだくちゃくちゃ物申そう
トラウマだらけで針千本
未知数だらけの俺らの説明
gsdhiaofjisabcvlkghjhb
≪うやむや 歌詞より抜粋≫
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韻を正確に踏みながら、オノマトペも上手く取り入れられているのがこの楽曲の面白いところです。
子供の頃、誰かと約束するときに「嘘ついたら針千本飲ます」というフレーズを使ったことがある方も多いのではないでしょうか。
ここでは過去にトラウマが多すぎて、嘘を付き続けるしかなくなってしまった主人公の「歪み」のようなものが浮かび上がります。
「未知数だらけの俺らの説明」とは、SixTONESそのものを表すフレーズかもしれません。
世界を前に、アーティストとしてその地位を確立しつつある彼ら。
そのポテンシャルは常に測り知れません。最後の謎の文字列については、ファンの間でも様々な憶測が飛び交いました。
これについて髙地優吾と田中樹は、作家がうやむやな部分を表現しようと、無作為に並べた文字列で特に意味はないとラジオで話しています。
しかし、まだまだ謎の多いこの楽曲。曖昧に濁されている謎が、今後明らかにされていくかもしれません。
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真っ暗に光るは太陽
はつまりアイツは最高
なんてことじゃないのさ相棒
されどお近くへ
≪うやむや 歌詞より抜粋≫
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冒頭にも登場したサビ部分は、1度聞いたら忘れられないほど中毒性があります。
耳に入ってきた言葉を頭の中で理解したはずが、1行ごとに意味が更新され、結局何を言いたいのかよく分からなくなってしまう不思議なパートでもあります。
この『うやむや』という楽曲のすべてが凝縮された、特別なパートと言えるのではないでしょうか。
太陽のように光るアイツは闇を照らす希望のような最高の存在、と褒め称えているかと思いきや「なんてことじゃないのさ」と全て崩し去ってしまいます。
聴き手は一瞬のうちに価値観を書き換えられ、聴けば聴くほどこの楽曲の世界観に振り回されてしまうのです。
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不朽の名作誕生
そんなことはどうでもいいの
千を語るより I must go
脱走 うやむやで
≪うやむや 歌詞より抜粋≫
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どんなに素晴らしい名作を残したとしても、主人公にとって本当は何の意味もありません。
他人に自身の全てを語って理解してもらうよりも、曖昧なまま自分を更新し続け、誰にも捕まらないでいるほうがずっと素晴らしいことのように感じているのかもしれません。
「うやむや」とはSixTONESの理想の在り方
「うやむや」は漢字で「有耶無耶」と書きます。
ハッキリしないさまや曖昧なさまを表した言葉なのですが、他にも「在るのか無いのかはっきりしないこと」「いいかげんなさま」「思いわずらって胸がはっきりしないこと」という意味があるそうです。
『うやむや』とは、ファンを常に驚かせたり喜ばせたいと考えるSixTONESの理想の在り方ではないでしょうか。
アーティストとして恐ろしいほどの急成長を遂げているSixTONES。
彼らはこれからも私達を翻弄し続けてくれることでしょう。