息が詰まる様な苦しみを代弁する歌詞
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生きたいが死ねと言われ 死にたいが生きろと言われ
生きたいが死ねと言われ 死にたいが生きろと言われ
幸せ自慢はダメ? 不幸嘆いてもダメ?
図々しい言葉を避け 明るい未来のため
≪ノンブレス・オブリージュ 歌詞より抜粋≫
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『ノンブレス・オブリージュ』の歌詞には、「生きたい」や「死にたい」という言葉が何度も出てきます。
生きたくても生きにくい、死にたくても死ににくい、という八方塞がりとも言えるような痛烈な苦しみが表現された歌詞です。
幸せだと自慢すれば疎ましく思われ、不幸を嘆けば面倒に思われ、何を言っても相手から負の感情ばかり受け取ってしまう。
そんな苦しみに共感できる人にとって、この楽曲は自分の苦しみを代弁してくれるような曲だと感じられるのではないでしょうか。
同調圧力に従順な現代社会への風刺
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さんはい 「この世には息もできない人が沢山いるんですよ」
さんはい 「この世には息もできない人が沢山いるんですよ」
あちらが立てば こちらが立たず 譲り 奪い 守り 行き違い
地雷原で立ち止まり 大人しく犬になるんだワン
≪ノンブレス・オブリージュ 歌詞より抜粋≫
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「さんはい」という掛け声が印象的なこの歌詞は、大勢の人間が一斉に口を揃えて「この世には息もできない人が沢山いるんですよ」と言ってくるような怖さがあります。
この怖さは、苦しいのだという主張が「もっと苦しい人は沢山いる」という大勢の人の主張によって搔き消され、行き場を失ってしまうことから出ているのではないでしょうか。
少数派の意見が、多数派の意見に押しつぶされてしまう現代社会への風刺とも捉えられそうです。
意見は等しく尊重されるべきで、個人の苦しみは比べるものではないのに、そうはならないこの世への嘆きと、少数派が抱える苦しみを主張した歌詞だと言えるでしょう。
「ノンブレス」に込められた意味とは
タイトルの『ノンブレス・オブリージュ』の「ブレス」とは「呼吸」を指す英単語。
つまり「ノンブレス」は息の詰まるような苦しみを指しているのだと考えられます。
加えて、「ブレス」は歌う時の息継ぎを指す言葉としてもよく使われる単語です。
「ノンブレス」は息継ぎなしという意味だとも捉えられるでしょう。
実際にこの楽曲には息継ぎがなく、ボカロの初音ミクだからこそ歌える楽曲ですね。
「オブリージュ」とは「義務を負わせる」という意味の英単語です。
『ノンブレス・オブリージュ』という曲名には、息ができない状態にさせられている、といった強制的なニュアンスがあるのでしょう。
また、似た言葉として「ノブレス・オブリージュ」という言葉があります。
これは欧米で一般的な道徳観で「財産や権力など社会的地位を有する者は、それ相応の社会的または道義的義務を負わなければならない」という意味の言葉です。
息の詰まるような苦しみだけでなく、同調圧力に従順な現代社会への風刺も込められた楽曲だと考えると、
多数派は多数派の意見を押し付けるのではなく、道徳心を持つべきだというメッセージも込められているのかもしれません。
息が詰まるときに見つけた大切な存在
息が詰まるような苦しみや現代社会への風刺を込めた歌詞には、暗い雰囲気がありますが、楽曲の最初と最後は救いのある表現となっています。
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世界中のすべての人間に好かれるなんて気持ち悪いよ
だけど一つになれない教室で 君と二人 手を繋いでいたいの
≪ノンブレス・オブリージュ 歌詞より抜粋≫
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冒頭の歌詞には、「君と二人手を繋ぎでいたいの」という言葉があり、集団社会に馴染めなくても、君とは繋がっていたいという思いが感じられます。
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I love you それぞれの好きを守るため
君と防空壕で呼吸する
≪ノンブレス・オブリージュ 歌詞より抜粋≫
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最後の歌詞には「I love you」や「好き」という言葉が歌われ「君と防空壕で呼吸する」という言葉で締めくくられます。
防空壕は空爆から身を守るためのシェルターですが、歌詞の主人公にとっての安全地帯は、君がいる場所だったのかもしれません。
「息が詰まる」「息を止める」と叫びつづけた末に君にたどりつき、やっと呼吸できたのかと思うと、最後の歌詞に心が救われます。