T-STONEの“食”ラップがTikTokで大ヒット
次世代ヒップホップアーティストのトップを走る若き実力者・T-STONE。中学時代からラップを始め、高校生の頃にはMCバトルコンテスト優勝の常連として音楽界から大きな注目を集めてきましたが、今改めて高い評価を得ています。
2021年に様々なアーティストの楽曲に客演参加したことをきっかけに、2019年リリースの1st EP「APOSTROPHE」収録の『Let's Get Eat(レッツゲットイート)』がTikTokで大ブレイク。
ビルボードの「TikTok週間チャート」で全ジャンル総合1位を獲得し話題を集めました。
この楽曲は「Let's Get Eat(食べよう)」というタイトルの通り、食べることをテーマにしたT-STONE作詞の歌詞が印象的です。
また、KOTETSU作曲のUS風のビートに日本語ラップが絶妙に融合し、独自のスタイルを確立しているところも聴き応えがあります。
さっそく歌詞の内容を詳しく考察していきましょう。
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阿波で育ち
隠し味に使うスダチ
美味い話 不味い話
全部丸呑み
何も無い街から始まり
まもなく始まりが終わる
更地にさらに加え
古き良き を知り
街を叩き上げる
≪Let's Get Eat Feat. KOTETSU 歌詞より抜粋≫
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冒頭の歌詞ではT-STONEが自分自身の生い立ちを明かしています。
「阿波」つまり徳島県出身で、「隠し味に使うスダチ」と徳島県の特産品であるスダチが登場することからも地元を大切にしていることがうかがえますね。
「美味い話 不味い話 全部丸呑み」のフレーズには、良いものも悪いものも取り入れて丸ごと自分の糧にしようとするような力強い気持ちが表れています。
「何も無い街から始まりまもなく始まりが終わる」という歌詞も、都会と比べれば何もない小さな街から音楽人生がスタートしたことや、着実にキャリアを積んできたことが示されているのではないでしょうか。
彼の歌う地元ゆかりのフレーズを用いた日本語ラップは、まさに「古き良きを知り街を叩き上げる」歌詞といえるでしょう。
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食わず嫌いのレベル から
憂いも甘いも食べる
その上で嫌いなもん決め ては
好きにしてる all day
≪Let's Get Eat Feat. KOTETSU 歌詞より抜粋≫
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この歌詞によると、彼は何でもまず取り入れてみてから好き嫌いを決める性格のようです。
「食わず嫌い」をしていれば、好きなものにも出会えないかもしれません。
T-STONEの積極的な考え方が伝わってきます。
日本人なら米を食って進め
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欲のままが当然だぜ欧米
Japanese だろ米をかきこめ
その年なってお前なにしとんねん
って言う奴らをオレ歌詞にしとんねん
オレのメンタル だらだら垂れるヨダレが語る
右に行っても 左行っても 終着点 変わらず に
あばさかるぜpsychoみたく
お前ならば何をやる
俺の場合歌詞を書いて 向かう先はシャングリラ
≪Let's Get Eat Feat. KOTETSU 歌詞より抜粋≫
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「欲のままが当然だぜ欧米」とあるように、アメリカやヨーロッパではジャンクフードを好きに食べているイメージが強いですよね。
日本でもジャンクフードは好まれていますが、日本人なら「米をかきこめ」と日本の食文化を大事にするべきだという想いを歌っています。
「あばさかる」とは徳島の方言で「調子に乗ってはしゃぐ」という意味があります。
「psycho」は和訳すると「精神病者」のことなので、合わせて「気が狂っているみたいにはしゃぐぜ」という意味と解釈できます。
「シャングリラ」は「桃源郷」を表す言葉で、どの道を選んでも終着点が一緒なら自分は歌詞を書くことで思い切り楽しみながら理想の地へ向かいたいというアーティストとしての決意表明をしているのかもしれません。
なかには「その年なってお前なにしとんねん」と批判的な人たちがいるとしても、自分がしたいことを追求する生き方に勝るものはないでしょう。
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弱音諦めは二の次
言わずもがなだろ I can do it
無理にするなよやってるフリ
てか便所臭いだよ パチ物 boujee
何だよこれごめん 合わない口
俺の主食は rice か pussy
まけまけいっぱいの 水道水
ほら飯の時間だぜsit down please
≪Let's Get Eat Feat. KOTETSU 歌詞より抜粋≫
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人は目先の不安に囚われて、弱音を吐いたり諦めたりしてしまいがちです。
しかし「やってるフリ」して誤魔化すよりも「I can do it(俺はできる)」と信じて行動することの方が、はるかに価値があります。
「boujee」は英語のスラングで「ハイクラスな人や物」という意味です。
そのため「便所臭いだよ パチ物boujee」のフレーズは、ハイクラスを装って無理している人たちへの注意喚起だと思われます。
続く部分では、自分の主食は米か女だからそういうまがい物は口に合わないんだと歌っているようです。
「いっぱいの水道水」で世の中の悪い風潮を一掃して、何より大切な食事の時間を楽しもうとする姿勢も見えてきます。
弱肉強食の世界でも感謝を忘れない
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ここてか何処?
極楽浄土
神様どうもです(カッチャ)
庭ならPURPLE
TRAPのJUNGLE
狙う狩人 BANG (Bang Bang)
食われるか食うかの問題
空気で語り空間を支配
弱き者が消えてく世界
Grrra-ta-ta-ta-ta-ta-ta跨ぐ時代
≪Let's Get Eat Feat. KOTETSU 歌詞より抜粋≫
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彼は「極楽浄土」のような場所にいますが「TRAPのJUNGLE」とも歌っています。
これは良いもので満ちている一方で、多くの罠であふれている現代社会を表していると考察できそうです。
「狙う狩人BANG」は、狩人が獲物に狙いを定めて発砲する様子を表しているのでしょう。
音楽界のみならず、どの社会も「食われるか食うか」で負ける「弱き者が消えていく世界」です。
平成に生まれ令和へと時代を跨いだ彼も、現代を生き残る難しさを感じています。
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やっぱこれだね弱肉強食
切羽詰まって剥きだす本性
草食 はいつまでも装飾
口頭 より移せよ行動
男なら根性だろ勿論
ランボーみたく圧倒さすアクション
格好つけモンローばりのGIRLを
振り向かせてからが 何ぼ だろ
≪Let's Get Eat Feat. KOTETSU 歌詞より抜粋≫
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現代を一言で表すなら「弱肉強食」。
「口頭より映せよ行動 男なら根性だろ勿論」のフレーズは、体育会系のT-STONEらしいメッセージです。
自分を着飾ることにばかりかまけている「草食」系の人に、もっと周囲に目を向けて行動するべきだと伝えていると考えられます。
「格好つけモンローばりのGIRLを振り向かせてからが何ぼだろ」とあるように、どんなに着飾っても魅力的な女性を振り向かせられないなら意味がないのです。
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女々しいやつ 平成取り残されて GoodByeです
平和ボケから目を覚ませと言よるのに うっさいねん
夢あるの良いなっていや他人事かよ
みんな最初はお前と同じだ 覚えとけ
OK OK OK OK OK?
≪Let's Get Eat Feat. KOTETSU 歌詞より抜粋≫
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行動を起こさない「女々しいやつ」は、この令和の時代にまだ平成に取り残されているかのようで、生き残ることは難しいでしょう。
「平和ボケから目を覚ませ」というメッセージが届きません。
そうした人たちは「夢あるの良いな」と他人事で、自分で夢を持ったり努力したりはしないようです。
しかし、今夢を叶えている人たちも「みんな最初はお前と同じ」で、夢がないところからスタートしました。
それはいつからでも夢は持てるということ、夢を叶える可能性を誰もが持っているという希望を示してくれているように思えます。
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いただきます と ご馳走さま 言えないやつ
育ちは良くても 巣立ちが悪けりゃ意味なく
米一粒 一粒噛み締め plan 描く
イレブンバック みたく常に下克上を狙う
≪Let's Get Eat Feat. KOTETSU 歌詞より抜粋≫
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「いただきますとご馳走さま」はただの挨拶ではなく、食事に対する感謝を表す言葉です。
そんな当たり前で重要な感謝の言葉を言えない人がいることを、彼はがっかりした気持ちで見ているのでしょう。
良い環境で生まれ育つことが重視される世の中ですが、人として大切な気持ちを持つ大人になれなければ、どこで育とうが違いはありません。
冒頭に出てきた「隠し味に使うスダチ」のフレーズが、ここで「巣立ち」に変化して歌詞の隠し味になっているところもうまいですよね。
後半の歌詞からは、主食の米を噛み締めながら将来へのプランを思い描いていくことが日本人としてのあるべき姿だという考えが伝わってきます。
トランプゲームの大富豪で出てくる「イレブンバック」は11を出すと革命と似た状態になり、使い方によっては弱いカードばかりの人でも逆転が可能になるルールです。
同じように、自分の持っている力は小さくても常に逆転のチャンスを窺って食らいつこうとするハングリー精神がプランを現実に変えていくという確信が感じられます。
「Let's Get Eat」の歌詞が食の大切さを思い出させてくれる
待望の1stフルアルバムの発表を控えるなか、再注目されている『Let's Get Eat』はT-STONEのセンスと人となりを知るのにぴったりの楽曲といえるでしょう。食は生きることの基本であり、食を大切にする気持ちは人生の様々な場面に影響を与えるはずです。
感謝を忘れず、多くの糧を得て夢に向かって前進していきたいですね。