原作のあらすじから歌詞の背景を考察
2019年に『夜に駆ける』でデビューし、今や国民的バンドとなったYOASOBI。
YOASOBIの楽曲は全て小説や物語を題材にして作られています。
『ミスター』も、作家・島本理生がYOASOBIとのコラボレーションプロジェクトのために書き下ろした『私だけの所有者ーはじめて人を好きになった時に読む物語』を元に作られた楽曲です。
タイトルにつけられている「ミスター」は、アンドロイドの所有者“Mr.ナルセ”のことを指しています。
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シングルサイズの部屋で
一人きり
思い出すのはあなたとの暮らし
≪ミスター 歌詞より抜粋≫
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曲冒頭の歌詞から、主人公は今ナルセと離れて暮らしているということが伺えますね。
2人に起こった出来事と物語の結末がとても気になるところですが、まずは描かれている思い出話から主人公の心情の変化を考察していきましょう。
主人公の苦悩が表現されているフレーズ
----------------こちらのフレーズから思い出話に入っていきます。
初めて会った日のことだって
今もまだちゃんと覚えてる
≪ミスター 歌詞より抜粋≫
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この1フレーズからも主人公が大事な人との記憶を、一つずつ丁寧に思い出している様子が伝わってきますね。
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機械仕掛けの心を
無力さが包んでいった
でも
≪ミスター 歌詞より抜粋≫
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この歌詞は主人公の初期の気持ちや悩みを、一番表しているところではないでしょうか。
ただの機械の心だけではナルセを喜ばすことができなくて、どうしたらナルセの役に立つことができるのか悩み苦しんでいる様子です。
この部分の不自然とも取れるメロディーの連続転調は、主人公がプログラムされている以上のことを考えようとして、混乱している様子が表されているのではないかと思います。
最後の「でも」という言葉に、それでも諦めたくないという強い気持ちを感じます。
この「でも」をきっかけにして、主人公は普通のアンドロイド以上の感情を知っていくのだと思われます。
健気な主人公に心動かされたナルセの心情を考察
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言葉数は少なくて
いつも厳しくて
叱られてばかりで
≪ミスター 歌詞より抜粋≫
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この歌詞から、もともとナルセがとても気難しい人物であることがうかがい知れますね。
きっと無愛想でコミュニケーションが苦手なタイプの人物だったのでしょう。
しかし、気難しかったはずのナルセは、ストーリーが進むにつれて違う表情を見せてきます。
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それでも時折見せてくれた
穏やかなあの表情も
一度だけ浮かべた涙も
隠し切れずに溢れていた
優しさだった
≪ミスター 歌詞より抜粋≫
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純粋に献身的に従う主人公の姿を見て、ナルセも少しずつ心を開いてきたようです。
ナルセも主人公との暮らしの中で、「優しい心」を手に入れることができたのかもしれません。
直接描かれてはいませんが、ナルセが穏やかな表情を浮かべた時の表情や瞬間を、心に焼き付けておきたいという主人公の切ない気持ちが、この歌詞にあらわれているように感じられます。
物語のクライマックスが描かれた重要フレーズ
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あの日もそうだった
≪ミスター 歌詞より抜粋≫
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この言葉から、いよいよ物語のクライマックスが描かれていきます。
楽しい思い出話から、現実を受け止めなくてはいけない瞬間がきてしまったことが読み取れます。
いったい、「あの日」に何が起こったのでしょうか。
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あれは二人最後の思い出
暗闇でこの手を握り返して
笑ってくれた
あなたはもういない
≪ミスター 歌詞より抜粋≫
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暗闇に閉じ込められてしまうような事件に巻き込まれてしまったことがわかります。
それが2人の最後の思い出ということは、この事件をきっかけに2人は離れなくてはいけなくなったということです。
「もういない」は、ただ離れなくてはいけない事情ができてしまったのか、もしくはナルセがもうこの世にいないという意味なのか....気になりますね。
最後の歌詞の意味とは?主人公が人の心を知る瞬間
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あれは二人最後の思い出
暗闇でこの手を握り返して
笑ってくれた
あなたはもういない
≪ミスター 歌詞より抜粋≫
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上と同じフレーズになってしまいますが、ここにもう1つ大きな考察のポイントを発見しました。
「暗闇でこの手を握り返して」
この歌詞からは、「主人公からナルセの手を握り、ナルセがその手を握り返した」と解釈することができます。
本来であればアンドロイドは所有者の命令に従い行動するはずなので、ナルセが命令しないと手を握ることはないですよね?
主人公からナルセの手を握るという行動は、この時点で主人公に「自分が何かをしたい」という欲求が生まれていると考察できます。
この歌詞だけでは、自分が安心したいからなのか、ナルセを安心させたいからなのかを読み解くことはできません。
とはいえ、主人公がナルセに対して信頼と愛情を感じ、自ら行動にでた大事な瞬間と考えられます。
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今でも聴きたくて
もう一度聴かせて欲しくて
優しくて不器用な
あなたの声を 厳しい言葉を
なんて願うこの気持ちは
どんな名前なんですか
≪ミスター 歌詞より抜粋≫
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一番最後の大サビに入ると、手紙を書いている現在に戻ってきます。
ナルセを大切に思う気持ちを自分自身で受け入れ、相手にその気持ちを伝えたい。
そんな気持ちが溢れている様子を読み取ることができる気がします。
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私のこと叱ってよミスター
≪ミスター 歌詞より抜粋≫
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そしてこの最後の1行。
『ミスター』の歌詞の中では出てきませんが、冒頭の紹介文にあるようにこの物語の主人公は、それまでずっと自分のことを“僕”と言っていたはずなのです。
それなのにここでは“私”という一人称が使われています。
おそらくこの1行にたくさんの伏線が含まれているのではと感じてなりません。
2人がまた一緒に暮らせる日は来るのでしょうか?
原作の結末がとても気になります。
YOASOBI「ミスター」は3分間で語られる切ないラブストーリー
自分の使命からナルセの役に立ちたいと悩む中で「恋」という感情に気が付く主人公。大切な感情に気がついたのにもう会うことができない、そんな切ないラブストーリーが3分にぎゅっと凝縮された素晴らしい楽曲でした。
原作を読んでから『ミスター』の歌詞をもう一度読んでみると、また違う解釈ができるかもしれませんね。
YOASOBIファンの方もはじめてYOASOBIを聞かれる方も、『ミスター』の世界観を存分に楽しんでください。