天才ボカロP・Kanariaの新作は中華風ボカロ曲
2022年5月2日にリリースされたボカロP・Kanariaの新曲『酔いどれ知らず』は、ミステリアスでクールな雰囲気が魅力的なボカロ曲です。
ゆったりとしていながらベースが効いた中毒性の高いサウンドとEnglishGUMIの癖のあるボーカルに、LAMによる中華風イラストのMVの組み合わせがおしゃれですよね。
MVに描かれている女性キャラクターの圧倒的な強者感、胸元のバッヂやヘアピンといったこれまでの楽曲を連想させるモチーフなど、今作でも細部までこだわった演出が満載です。
Kanariaの楽曲には「七つの大罪」がモチーフと考えられる作品がいくつかあります。
その法則が当てはまるとすれば、この楽曲は“強欲”もしくは“怠惰”をテーマにしていると解釈できそうです。
主人公のどんな想いが描かれているのか、さっそく歌詞の意味を考察していきましょう。
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夢が覚めた 酔いどれ知らず
争いごとは 夜が明けるまで
くたびれては 酷く見える
一千の声は 声が枯れるまで
≪酔いどれ知らず 歌詞より抜粋≫
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タイトルでもある「酔いどれ知らず」という言葉は、酔っている人を知らないという意味。
この楽曲では、主人公が自分以上の酔っ払いを知らないという意味で使われているようです。
主人公は夢が覚めてから夜が明けるまで争いごとを続けていて、その疲労のせいでくたびれて声を枯らしているのでしょう。
そんな状況下で酔っぱらっているということは、お酒を飲まないと気力を保っていられないような危うい精神状態なのかもしれません。
偽りの幸せに酔っていたい
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うっちゃる幸せ ずっと醒めないで
あなたの声に耳を貸す時まで
屈する態度で 言葉さえなくて
体を染めて
≪酔いどれ知らず 歌詞より抜粋≫
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「うっちゃる」とは「投げ捨てる・放り出す」などの意味があります。
「うっちゃる幸せ」は幸せを投げ捨てないといけないような状況であったり、自分の手元にある幸せそのものが放り出したくなるような価値の低いものというような印象を受けますね。
幸せという言葉の良いイメージとはかけ離れていますが、それでも「ずっと醒めないで」と願っています。
この「醒める」という漢字は酔っ払っている状態から正気に戻ることを表す言葉です。
それで、今の幸せを感じている自分は酩酊しているかのように異常な状態であることに気づいているにも関わらず、そのわずかな高揚感がやめられず欲してしまっているのでしょう。
しかし、それも「あなたの声に耳を貸す時まで」。
「あなた」の言葉で簡単に醒めてしまうから今は意味も考えずただ屈する態度で接し、この脆い幸せをいつまでも味わっていたいと思っているようです。
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そして
泥泥 はられあられ ホウライ そう 悪くないわ
屈する 先まで ミリグラム
酩酩 重ね重ね 存外 そう 悪くないわ
酔いどれ知らずの恋敵 だから
≪酔いどれ知らず 歌詞より抜粋≫
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サビの「泥泥」はよろめいたり取り乱して前後を失ったりすることなので、泥酔のように酔っている様子を表現していると解釈できます。
酔っていると考えれば「はられあられ」のように意味の通じない造語が用いられているのも納得できるでしょう。
「ホウライ」は不老不死の仙人が住むとされる中国の蓬莱山をイメージさせます。
幸せに浸り続けるために不老不死を願う気持ちがあるのかもしれませんね。
また「屈する先までミリグラム」というフレーズは、「あなた」に屈するのをやめて幸せから醒めてしまうまであとほんの少しであることを示していると考察できます。
続く「酩酩」も酩酊と同じ字を重ねているため、酔い続けていることを表しているのではないでしょうか。
そして、そんな自分の状況を「そう悪くないわ」と受け入れていることも垣間見えます。
さらに、実在するのかも分からない「恋敵」と今日も戦っているようです。
「いっかの幸せ」の解釈とは
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ウタの声は 数知らず
迷い込んだら そこは君の××
ねぇ見てきれい 白昼夢ロンド
一千を隠して 十を吐けるだけ
≪酔いどれ知らず 歌詞より抜粋≫
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「ウタの声は数知らず」という歌詞は、数多の歌声が主人公を誘う情景を想像させます。
導かれて迷い込んだ先は見たこともないような「君」の世界でした。
「白昼夢」は目が覚めている時に夢のような映像を見る非現実的な空想のことです。
「ロンド(輪舞曲)」は音楽形式の一種で、曲のテーマとなる主題部分が別の挿入部分を挟みながら繰り返され回旋する特徴を持ちます。
つまり「白昼夢ロンド」とは、幻想が繰り返され永遠と白昼夢を見ているような状況を指していると考えられます。
現実の大部分を隠して良いところだけ見せてくれる白昼夢に酔いしれ「ねぇ見てきれい」と無邪気に楽しんでいる姿が想像できるでしょう。
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いっかの幸せ きっと晴れないで
あなたのそばに 耳を貸す時まで
屈する態度で 言葉さえなくて
心を染めて
≪酔いどれ知らず 歌詞より抜粋≫
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「いっかの幸せ」にはどのような意味があるのでしょうか?
音の響きからすると「一過の幸せ」と変換できそうです。
主人公の感じている幸せは、さっと通り過ぎて一瞬で消えてしまう一時的な幸せのようですね。
「きっと晴れないで」という言葉からも「台風一過」という言葉が連想されます。
普通なら台風が去った後の晴れは喜ばしいものですが、主人公は晴れないように願っています。
主人公にとってその幸せは一時的ではあっても台風のように存在感のあるもので、そのせいで現実の何かが壊され奪われるとしても身を浸していたいと思えるものなのでしょう。
別の意味の可能性を考えると「まあいっか」と諦められる程度の小さな幸せという意味かもしれません。
どちらにしてもすぐに失ってしまうものであることが読み取れます。
「あなたのそばに耳を貸す時」は、きっとこの幸せに価値がないことを認められる時です。
体も心も染められて「あなた」に服従する主人公の本当の幸せはどこにあるのでしょうか。
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それは
泥泥 はられあられ 将来像 悪くないわ
屈する 私は 生きている
酩酩 重ね重ね 存外 そう 悪くないわ
酔いどれ知らずの物語
≪酔いどれ知らず 歌詞より抜粋≫
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変わらず幸せに酔ったままの自分が迎える「将来像」は、そう悪くはなさそうです。
「あなた」に屈している自分も確かに「生きている」のだからそれでいいとさえ思っているように感じます。
偽物の幸せで自分を誤魔化す危うげな人生が「酔いどれ知らずの物語」だと締めくくり、これからも酔い続けていくつもりであることを示しています。
過去曲との関連も要チェック!
『酔いどれ知らず』は現実から目を逸らし都合の良い幸せだけを求める気持ちを酩酊状態とかけた歌詞が印象的です。Kanariaの七つの大罪をモチーフにしたボカロ曲シリーズもそろそろ終幕。
全てが揃った時にどんな世界が見えてくるのか、ますます期待が高まりますね。