柊キライが手がける、アルバム『狂言』収録曲
2022年1月26日に1stアルバム『狂言』をリリースした歌い手・Ado。同年4月4日には自身初のワンマンライブ『喜劇』を成功させ、さいたまスーパーアリーナでの2ndライブも決まっている大人気アーティストです。
そんなAdoが5月8日、『狂言』収録曲である『ラッキー・ブルート』のMVを公開しました。
作詞作曲は柊キライ。
『ボッカデラベリタ』や『ラブカ?』などで知られる大人気ボカロPです。
また、MVのイラストは『永遠のあくる日』や『ギラギラ』と同様、沼田ゾンビ!?が手がけています。
ダークでファンタジックなMVの『ラッキー・ブルート』ですが、果たしてその歌詞にはどのような意味が込められているのでしょうか。
「かったりいな」は反抗期女子の心情?
歌い出しは「かったりいな たらたら ブルー ブルー」。
このフレーズは曲中で何度も繰り返されます。
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かったりいな たらたら ブルー ブルー
たらたら ブルー ブルー
日々 日々 たりい たりい かったりいな 日々
意味なくても ガーリー ガーリー
気味悪い ワーニン そうこれ以上ワーニン
忌みがちのあたし ダーティ ダーティ
≪ラッキー・ブルート 歌詞より抜粋≫
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「かったりい」という言葉のチョイスから、主人公は若者だといえそうです。
毎日「たらたら」説教されて憂鬱になっている反抗期の中高生といったところでしょうか。
また「意味なくても ガーリー ガーリー」から、主人公は女性だと考えてみました。
どうやら「ガーリー(少女らしさ)」を好ましく思っていないようです。
続く歌詞は「気味悪い ワーニン そうこれ以上ワーニン」。
「ワーニン(warning)」には「忠告」や「注意」といった意味があります。
そしてそれに続くのが「忌みがちのあたし ダーティ ダーティ」です。
これらを総合すると、子供っぽい服装が嫌で制服を着崩した女子中高生が、先生からの注意を忌み嫌ってツンケンしている様子が連想できます。
主人公は「シャツを出さない」や「スカートを短くしない」といった忠告に逆らい、そんな自分自身を「ダーティ(汚れている)」と自嘲しているのかもしれません。
つまらない社会への反発
続いて2番の歌詞を見てみましょう。
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日々 日々 たりい たりい かったりいな 日々
意味なくても ガーリー ガーリー
キルが為 生きるため 喉裂いて
嫌になるまで
≪ラッキー・ブルート 歌詞より抜粋≫
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序盤は1番と同様。
主人公は意味のない「ガーリー」に嫌気が差しているようです。
そして「キルが為 生きるため 喉裂いて 嫌になるまで」と続きます。
「為」には「利益」という意味があるので、「キルが為 生きるため」は「上手に生きるためには自分を殺すことが有利に働く」というような主人公の経験則かもしれません。
また「喉」を裂いたら声は出ないので、「喉裂いて 嫌になるまで」は「全部が嫌になるまで何も主張しない」といった意味合いだと考えられます。
まとめると「社会で上手に生きていくためには、何もかも嫌になるまで自分の言葉を飲み込み続け、個性を消し去ることが必要だ」という皮肉めいた悟りが読み取れそうです。
おそらく反抗期の主人公には「個性を失ってまで社会に順応したくない」という思いがあるのでしょう。
さらに歌詞は続きます。
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きっかけなどは不利益だと
たら たり たり たる たれ とは?
≪ラッキー・ブルート 歌詞より抜粋≫
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「きっかけなどは不利益だと」の部分は、「得にならなくても楽しめることが大きな夢のきっかけになる」というような一般論だと解釈できそうです。
続く「たら たり たり たる たれ」は、古典文法の「タリ活用」を思わせます。
反抗期の中高生にとっての「全く得にならないつまらないこと」を象徴しているのかもしれません。
また、6つ目の「たれ(命令形)」がないことから、一般論や指図に対する拒絶を暗示している可能性もありそうです。
そんな「タリ活用」の後に「とは?」が続きます。
これは「得にならなくても楽しめることが大事なのに、メリットもない、面白くもないこの授業には何の意味があるの?」という、学校に対するありがちな反抗を表しているのではないでしょうか。
抑えがたい反抗期の攻撃性
ここからは最後のサビまでの歌詞を見ていきます。
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ヘイミスター
向かったり 抗いがたいんだ
そんなことはわからない?
嗚呼 あ あ あ あ 有り余るブルータリティ
黙っちゃいられない 待っちゃくれない
嗚呼 あ あ あ あ 有り余るブルータリティ
黙っちゃいられない 待っちゃくれない
それでいいのか
≪ラッキー・ブルート 歌詞より抜粋≫
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「ヘイミスター」は男性教師への呼びかけでしょうか。
立ち向かったり、抵抗したりできないことが「わからない?」と聞いています。
もしかしたら「肉体的な強さのある男性のように物理的な抵抗がしづらい不満」を訴えているのかもしれません。
次の「有り余るブルータリティ(brutality:乱暴さ)」は、そんな身体的強さで発散できない「反抗期女子の心中にあふれる攻撃衝動」なのではないでしょうか。
「黙っちゃいられない 待っちゃくれない」あふれるブルータリティ。
「それでいいのか」は、そんな乱暴な自分を許してもいいのかという自問だと考えられます。
次の歌詞を見てみましょう。
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ダダダン
無能嘆いてしょぼくれちゃ終わりなのさ
ダダダン
嫌なら今から当たり散らかしてかなきゃ
バババン
いつか繰り返し 繰り返し泣くことに
ダダダン
吠えて異 唱えよ
≪ラッキー・ブルート 歌詞より抜粋≫
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「ダダダン」や「バババン」と、机をたたくようなリズムの後に出てくる4行。
この4行は、弱気な意見と強気な意見が交互に展開されているように読み取れます。
MVを見てみると、1行目と3行目の弱気な歌詞では女の子と大人の女性が、2行目と4行目の強気な歌詞では男性と布をかぶるケモノが映し出されているようです。
何もできないまましょぼくれることへの不安感、それを避けるべく全力で抵抗しようとする攻撃性。
これらの相反する情動がぶつかり合う感覚は、反抗期の心理にとても近いように思えますね。
反抗期女子の本音?「ラッキー・ブルート」の真意とは
最後にサビの歌詞を見ていきましょう。『ラッキー・ブルート』のサビは以下の歌詞の繰り返しになっています。
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ヘイミスター
狂ったり 怒り 否 ナ ナ
下らぬ足りない望み蹴ったりしたり
ヘイミスター
ブルータリ 吠えたり 嫌 嫌 嫌
こんなことはしたくなくてよ
≪ラッキー・ブルート 歌詞より抜粋≫
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どうやら主人公は狂うことや怒ることを否定しているようです。
それでも反抗心が抑えられないのか「下らぬ足りない望み蹴ったり」している様子。
「何者かになりたい」といったぼんやりした希望を無下にしているように感じられます。
次の「ブルータリ 吠えたり 嫌 嫌 嫌」は、容赦なく(brutally)威嚇するように声を上げるのは嫌だという意味でしょうか。
何より注目したいのは「こんなことはしたくなくてよ」という歌詞です。
怒り狂って当たり散らしたり、誰もが持つ悩みや希望を軽んじたり、はしたなく声を張り上げたり。
反抗心こそあれど、心の奥にある攻撃性をむき出しにするのは、思春期の女子としては恥ずかしいのかもしれません。
また「〜したくなくてよ」という表現は、攻撃性とは対照的な品のある言い回しです。
ここでのミスターが男性全般を指すとすれば、「こんなことはしたくなくてよ」は「攻撃性を簡単にあらわにできる男子諸君とは違い、私は静かにこの反抗心を飼いならすわよ」という見栄の一言のように感じられます。
そんな主人公から見た男子たちは、ブルータリティを簡単に発散できる境遇にある「ラッキー・ブルート(lucky brute:幸運なケモノ)」なのかもしれません。
ダークでブルーなMVも必見!
以上、Ado『ラッキー・ブルート』の歌詞考察でした。大抵の反抗期に生じる、悩み苦しみイライラしながらもどこか冷めたような感覚が読み取れたのではないでしょうか。
「たり」や「たら」の言葉遊びも印象に残る、中毒性の高い歌詞でしたね。
また『ラッキー・ブルート』はMVも必見です。
妖しいブルーの血が印象的な、ダークでファンタジックな世界が展開されます。
MVの舞台や登場人物をメインに歌詞を考察していくのも、新たな発見があって面白いかもしれません。