「もみじ」は碓氷峠の景色を歌っている
秋といえば色づく紅葉が美しい季節であり、残暑が過ぎ厳しい冬を迎えるまでのわずかな期間を風情のある景色で楽しませてくれますよね。
そんな秋になると必ず耳にする音楽が童謡『もみじ(紅葉)』です。
『もみじ』は高野辰之が作詞を、岡野貞一が作曲を担当して明治44年に作られた唱歌です。
合唱曲として制作された初期の作品のため、きっと日本人なら誰もが一度は子どもの頃に合唱したことがあるのではないでしょうか。
当時群馬県と長野県の境に位置する碓氷峠の中間駅として存在していた信越本線熊ノ平駅から紅葉を眺めた高野が、その美しさに惹かれて作詞したと言われています。
現在は駅はありませんが、旧碓氷峠見晴台から眺める紅葉と夕日との景観は今なお絶景スポットとして人気です。
短い歌詞の中にどんな情景が描かれているのか、言葉に注目しながら「もみじ」の意味を解説していきたいと思います。
山を彩る自然の美しさ
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秋の夕日に照る山紅葉、
濃いも薄いも数ある中に、
≪紅葉 歌詞より抜粋≫
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まず1番の前半からもみじの美しさが表現されていますね。
そもそも“もみじ”とは特定の植物を指しているわけではなく、秋になると赤や黄色に色づく植物のことをまとめて表す総称です。
冒頭に出てくる「山紅葉」は日本庭園や盆栽でもおなじみの植物で、もみじの代表格と言えるでしょう。
きっと秋の真っ赤な夕日に照らされて、いっそう色鮮やかに輝く山もみじの赤が目に飛び込んで来るかのように感じたのだと思われます。
山全体を見渡すと、植物の種類によって同じ赤でも色の濃淡がそれぞれ違うことが分かります。
たくさんの色が入り交じって、その山の美しさを作り出していることに気づかされるものです。
この歌詞はまさにそのような景色を表現しているのでしょう。
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松をいろどる楓や蔦は、
山のふもとの裾模様。
≪紅葉 歌詞より抜粋≫
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後半の歌詞に出てくる「楓」や「蔦」も、もみじの定番の植物です。
太陽がよく当たる山の上の方は紅葉する植物が多いようですが、山のふもとには松の木の緑も見えます。
紅葉した楓や蔦に緑の松が彩りを添えるふもとは、まるで着物の「裾模様」のように色とりどりで紅葉の魅力をより引き立てているという様子を示しています。
川の流れさえ絹織物のよう
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渓の流に散り浮く紅葉、
波にゆられて離れて寄って、
≪紅葉 歌詞より抜粋≫
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1番では遠くの山を眺めていたのに対し、2番では身近な景色を見ていると解釈できそうです。
「渓の流」は山の谷間から流れる川のことなので、おそらく橋の上から川を見下ろしているのでしょう。
山を美しく装うもみじもやがては散ってしまい、その散ったもみじの葉が川に浮かんで流れていく情景を歌っています。
「波にゆられて」いるので葉の動きは変則的で、互いに「はなれて寄って」を繰り返しています。
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赤や黄色の色様々に、
水の上にも織る錦。
≪紅葉 歌詞より抜粋≫
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散ったもみじも「赤や黄色の色さまざまに」川を彩っていて、山とは違う美しさを見せてくれますよね。
「錦」とは織物の名称で、刺繍や後染めの技法は使わず多彩な先染めの絹糸や金銀糸を使って地色や文様を織り成す最高峰の絹織物のこと。
つまりもみじの流れる川が、繊細で精巧な美しさを持つ錦織の反物が広がっているかのように見えたということです。
葉や花が散る光景は、どちらかといえば切なさや悲しさといった感情と結びつけられることが多いですよね。
しかしこの曲では、散った後も人の心を満たしてくれる「もみじ」の美しさと、秋の豊かさに気づかせてくれます。
秋の気分を盛り上げる名曲を聴こう
童謡『もみじ』は普段何気なく楽しんでいる紅葉の風景を切り取りながらも、秋にしかないその美しさを改めて感じさせる名曲です。秋の風景を着物の色彩に例えているところに、日本人ならではの感性が表れています。
ぜひこの歌詞の表現を噛み締めながら秋の紅葉を楽しんでくださいね。