自分の歌詞を見るのに…
──本日はよろしくお願い致します!UtaTenはご存知でしたか?VALSHE:UtaTenさん、結構、見ますね。なんなら自分の歌詞を見るのに使ったりします(笑)。
ノラ:あるあるですよね(笑)。僕も本当にお世話になっていますね。ボカロ版とか作るとき、自分のリリースした曲の歌詞を見ながら、ボカロに打ち込ませて歌わせているので。
──ありがとうございます。今夜、あの街からのデジタルシングル『クウフク (starring VALSHE)』について伺っていきたいんですけど、この曲にVALSHEさんを迎えようと思ったのは?
ノラ:まず、僕の中にVALSHEさんとコラボがしたいっていうのがずっとありまして。去年の9月にVALSHEさんのライヴを観させていただいたんです。その時に、とにかく歌のパワーにすごく惹かれて。こんなにストレートにガツンとくるボーカルがいる、と。すごく衝撃を受けたんです。で、終演後にご挨拶をさせていただいたんですけど、そのとき「いつか是非一緒に作品をコラボさせてください」なんて話をさせていただいて。
──いきなりくどいたわけですね。
ノラ:そうです(一同笑)。パワフルな、直接ドカンとくる声に魅力を感じて、オファーさせていただいたのが最初ですね。同時に、ちょうど「(名探偵)コナンのエンディングを書いてみない?」って話をいただいていて、挑戦してみようと。で、その曲の制作期間に、VALSHEさんのライヴを観たんですね。それから、いろんなことが偶然にかみあっていって、じゃあ今作っている曲をVALSHEさんとやろう、と。そしたらコナンのタイアップが決まったんですね。
VALSHE:ライヴの日「ノラくんが来るよ」っていうのは聞いていて、直接お会いするのは、初めてだったんですよね。で、その時には、コナンのコの字も出てなかったので、ただただ純粋にコラボレーションのお話をいただけて、是非という感じでしたね。純粋に、自分自身がノラくんと制作を一緒にやってみたいなっていうのが1番の動機だったんですよね。
密なやりとり、じっくり
──制作はどのように進んでいったんですか?ノラ:作詞、作曲、編曲は自分が一通りやって。ワンコーラス作ったところでお渡しして。「こういう曲でどうでしょう」ってお話して、歌っていただきたいですって感じでした。僕がVALSHEさんのパートも歌った音源を用意して、それを参考にしつつ歌っていただく感じで。レコーディングは別々で、僕自身、宅録のアーティストなので、いつものように僕は自分で自宅で録って、その後、VALSHEさんはスタジオで歌ってもらいましたね。そこには僕も立ち合いさせていただいて。結構、いろいろと……こういう風に歌うとか、こういう作品にしたいというのをすごく入念に話し合った上で、結構時間かけていただいて。何度もやりとりさせていただいて、レコーディングして。その歌データをまた僕がいただいて、ミックスしてっていう感じで作っていきました。
──VALSHEさん、最初に『クウフク (starring VALSHE)』を聴いた時の印象は?
VALSHE:面白いなと思いましたね。自分自身、いろんな楽曲を歌ってはきているものの、まだ自分が開拓できていないサウンド感だったというところに、すごく魅力を感じたし、ノラくんの仮歌が入っているところに対して、自分のボーカルワークでどういうアプローチをしたら面白いんだろうってところを探す…この過程は普段の自分の制作行程にはないものだったので。自分が考えて自分が曲を作るんだったら、歌詞を書いて自分の思った通りに歌うことで完結する。でもそうじゃない作品に対して、自分が料理される側というか、素材として身を預けるっていうのも面白かったし、楽曲のファーストインプレッションの中からも面白さを感じて。
──今まで歌ったことがないサウンド、具体的に言うと?
VALSHE:ジャンルで大きくわけたら、テクノポップと呼ばれるような……、そういうサウンド感の楽曲って意外と作って来なかったなっていう。それこそポエトリーリーディングとか、フレンチポップだったりとか、そういうところにはいっているのに。そういうハッとするようなサウンド感と、でもやっぱり耳馴染あるサウンドっていう。なんかそういうところがすごく新鮮に感じましたね。
──ありがとうございます。
VALSHE:で、ノラくんからいただいた曲を受けて、プリプロダクションを挟んでレコーディングに臨んでいるんですけど、そのプリプロの前にどうしてもノラくんに1回お逢いしたいっていう風にこちらからお願いして、じっくり話をしたんです。その中でいろんなコンセプトだったりとか、歌詞だったりとか、そういうところに、どういう気持ちがのっかっているのかっていうのをヒアリングさせていただいて、それでプリプロに。じっくり作ったっていう印象がありますね。
ノラ:そうですね、じっくりやらせていただきましたね。しかもすごくたくさん、いろんな歌い方のパターンを出していただいて。VALSHEさんなりに曲をかみ砕いてくださったものを、本当にいろいろ出してもらったんです。表現の仕方っていっぱいあるじゃないですか。同じ歌詞でも、歌い方ひとつで違ってくる。それを結構たくさんパターンを送ってくださって。
──おぉおおお。それは贅沢ですね。
ノラ:ほんっと、贅沢ですよね。そういう中で、僕が思うこの曲に1番いいものを選ばせていただいたりとか。あと、VALSHEさんからも、こういうのは?みたいに言っていただいたり。すごく、密にやりとりしてじっくり作った曲にはなっています。
高いジェンガが出来た
──VALSHEさん、歌うにあたり、最初に考えたことは?VALSHE:ノラくんが、アーティスト・VALSHEのイメージなのか、CV・VALSHEのイメージなのかというところですかね。今夜、あの街からというユニットは、それ自体が“物語”なので、そのイメージによって、その中のレイラという役どころの向かっていく方向が結構変わるなと感じていて。その部分がプリプロに入る前に、ノラくんから聞けたっていうのが大きくて。ボーカルを作っていく中での中核になっているのかなと思いますね。
──ノラさんには、なんて言われたんですか?
VALSHE:CVっていうよりは、レイラっていう既存のキャラクターをイメージしてる、と。その人ならではの個性っていうのはあるんだけど、そこにとらわれずに、VALSHEとしてのボーカルワークで臨んで欲しいって。じゃあ、いつも通り、自分の視点でレイラさんを解釈してのっからせてもらう形がいいのかなっていう。ノラくんとの最初の話の中で、そこが見えて来たのがすごく良かったですね。1人で歌うのと2人で歌うっていうので、根本的に人数の違いはあると思うんですけど、1人で歌うときって、好き勝手歌うっていうのが醍醐味だと思うんですよね。
ノラ:はい。自分を出すというか。
VALSHE:そうなんです。でも今回の曲は、2人揃った時に個性で殴り合っているっていうよりは、お互いの個性を尊重しながら、足し引きのバランスを考えてひとつ作品を作っている。そこが、この曲の醍醐味……、面白さだと思っていて。例えば、ノラくんの歌っているボーカルに対して、自分が思いっ切りビブラートかけまくっている、みたいな……
ノラ:(笑)
VALSHE:つぶしあっている、殺し合ってるようなボーカルワークでは成り得ないサウンドだと思うんです。それがちゃんとノラくんの仮歌、ノラくんのボーカルワークはこういうんだなって受けて、自分は自分でそこに対してアプローチする。そこに対して、さらにノラくんがまたアプローチしてくるっていう。
ノラ:VALSHEさんのボーカルをうけて、また僕もそれに対して、歩み寄る感じで歌い直したり。何回かやりとりしましたね。
VALSHE:ちゃんとこう…ジェンガが高いところにいった、みたいな。そういう手応えがありましたね。
ノラ:お互いの1番いいところを探っていった感じ。コラボするって決まるまでは早かったと思うんですけど、実際の制作はじっくりいろいろとやったかなと思っています。
強さ、優しさ、クールさ、大砲
──ノラさんは、この曲でVALSHEさんの声をどう解釈し、どう生かしたいと思いました?ノラ:そうですね……さっきも言ったんですけど、最初お逢いしたのがライヴだったのもあると思うんですけど、歌の力強さやクールさがすごく魅力的だと思っていて。でもただ強いだけじゃない、優しい部分もある。その優しさの中に強さがある……僕はそういうのをVALSHEさんの歌から感じとって。今夜、あの街からっていうユニットの活動は、僕がノラを演じて、もう1人はレイラを演じてっていう設定を守っていかなくちゃいけない。そう考えたときに、強さと優しさを兼ね備えた女性っていうのが、レイラの設定なので、そこにすごく通じる歌声を持っていた。そこが僕にとってはすごく大きいですね。僕よりすごく歌唱力のある方なので……
VALSHE:(いえいえ……と、顔の前で右手を振るジェスチャー)
ノラ:だから、僕が(VALSHEのボーカルを)潰すことはないとは思いつつも、そこを活かせるように。編集の面とか自分の歌唱の面も結構考えたんですね。
──VALSHEさんは、歌う際にいろんなアプローチをしたっておっしゃってましたが、この曲をどう解釈して、どういう風に歌おうと思ったのか、そこをもう少し詳しく教えてください。
VALSHE:「クウフク (starring VALSHE)」を表現する時に、いわゆる力強さってところだけで、空腹感を表現するのか、もう少し焦り、焦燥感みたいなところでアプローチしていくのかというところですね。でも結局、蓋をあけてみたときに「クウフク」っていうタイトルがついている時点で、情緒的にはすごく揺れているよねっていう。だからこそ、ボーカルワークもすごくお互いがクールに掛け合っている部分もあるけど、サビになった瞬間<アイムハングリー>で、すごく逼迫した緊張感あるボーカルになっていたり。わりと情緒不安定さみたいなのが、見え隠れしたらきっと面白いよねっていうのは思いながら、ボーカルを考えていきましたね。
──ちょっと話が変わってしまうんですが、ご自分の歌声についてはどういう印象をお持ちですか?
VALSHE:大砲(一同笑)あははははは(笑)。なんか大砲みたいだね、とはよく言われるんですけど(笑)。どうなんですかね、自分の歌声がどうみたいなのって、あんまり考えたことないかもしれない。
──歌っていて「うわ、今、私、声出てるなー」って思ったりは?
VALSHE:……なんか、たまにレコーディングしているときに「自分の声うるさっ」って思うとき、あるんですけど(笑)。
ノラ:はははは(笑)
VALSHE:自分のボーカルアプローチって、すごく女性的でもないし、かといって、ちゃんと聴いたら男性のボーカルでもない。すごく中間地点の成分が多い声をしていると思っているんです。そこの帯域っていろんな方と一緒に歌わせたりしていただいている中で、経験則として、すごくなんかこう他人の歌声に混ざれるっていう。最近得た情報なんですけど、わりといろんな人に歩み寄れるタイプの声質だったりするかもって思う機会が多かったんですね。なので、このコラボレーションの中でも、歩み寄る余地があって、お互いがお互いを尊重し合えるような作品作りが出来るならって思うところが大きかったです。
ノラ:この『クウフク (starring VALSHE)』って曲は、VALSHEさんとじゃなきゃ歌えない曲だと思うんです。僕の書く曲って、わりと音域が広くて。
──確かに。しかもキーが同じ。
ノラ:そうなんです。サビのユニゾンとかありますからね。
──なのに、2人ともファルセットとか使ってない。だからすごく力強く聴こえる。
ノラ:そうですよね。キーもそうですけど、音域も広い。そこを無理なくクリアできたのは、VALSHEさんの技量があったからだと思うんですよね。僕、作っている時、あまりキーのこととか考えなかったですから。
好きな歌詞、そして正月
──では、好きな歌詞を教えてください。ノラ:難しいですね、自分で作っているので、みんな好きなので。かなり精査して、言葉も絞っているので。難しい…。
──申し訳ありません……。
ノラ:いえいえ(笑)核心になるのは<幸福に触れるほど喉が渇いていくんだ>ってところですね。ここが1番この曲を表すフレーズだと思います。ここ、最後まで決まらなかった部分なんですよ。例えば、日々の中でなんとなく疑問に思うこととかあるじゃないですか。僕の場合、それを曲の中で解消されないと、歌詞が完成しないんですよ。だから、最後まで埋まらなかったところに、いつも核心になるフレーズが入るんですけど。この曲は、すごく簡単にまとめると、食べても食べても満たされない曲。それから、愛情とか親愛とか、愛の曲でもある。たくさんあるからこそ、なぜか満たされない感じというか。
そういうのがカギになっている曲なので。愛情とかって、個人差があって、こうやって話すのも難しいんですけど、たくさんもらっているのに気づけなかったりとか。だからこそ足りなく感じる……とかもあると思うんです。で、それが本当の愛なんだろうかとか……いろいろ考えるんですね。そう思った時に、ハングリー、クウフク、なんか足りない……なんか満たされないっていうのがすごくある気がして。きっとそういうのって、みんな持っていると思うんです。コナンの登場人物とかもそういうこと思ったりするのかなんて考えながら歌詞を書いていましたね。
VALSHE:そうですね……今、すごく悩んでいました。歌詞として文章として好きな部分というのはたくさんあるんですけど、個人的にすごく共感するなって意味で惹かれるのは<泣いて笑ってわかんなくなって/わかったふりして笑えなくなった/あれ何をやっていたんだ?>って部分がすごく好きですね。自分に重なる部分が詰まっていると思うし、空腹というものの根幹にあるような……こういうことが積み重なった上での空腹というような。満たされないという感情の一歩手前に、積み重なっているものだと思う。
たぶん、みんなが笑いたい時に笑っているわけでもなくって…泣きたいけど泣けない時もあって。みんな、すごく自分の感情に蓋をしながら日々を生きている、愛情なのか友情なのか家族愛なのか、いろいろあると思うんですけど、感情に対して抑制している、それが無意識で起こっている。で、フとした時に「何やってんだろ」みたいな、そういう感情がフッとくるというか。この歌詞を最初に見た時に共感できるなって思ったんです。
──では、最後の質問を。今、抑制ってキーワードが出たので、その言葉を拝借した質問です。最近、自分が抑制から解き放たれた、解放された瞬間……と聞かれ、パッと思い浮かぶのは?
ノア:いやぁ、この質問も……難しいですね。
──あぁ、続けて難しい質問に……。ごめんなさい。
ノア:いえいえ(笑)。面白いこと言えないんですけど……僕は、『クウフク (starring VALSHE)』が名探偵コナンのエンディング曲に決まったっていうことですかね。これまでずっと、僕はいいものを作れているんだろうか、これは受け入れられるんだろうかっていうのをずっと考えながら活動してきたんですね。
今夜、あの街からっていうユニットって、基本は全部自分で作るので。制作は1人でやっていて。ずっと1人でやっているから、いろんな不安もあるし、これでいいんだろうかっていうのもずっとあったんですけど、そういう意味では、今回、この曲をタイアップにしていただいたってことが、こう……自分がこれまでやってきたこと、作って来た音楽を肯定してもらえた気がしたので、なんか……『クウフク (starring VALSHE)』って曲の完成は、僕にとってはすごく達成感があった。音源が完成した時に、バッと世界が開けたように感じましたね。
VALSHE:解放された瞬間……正月ですかね(一同爆笑)。すみません、ノラくんがすごくいいこと言ったのに(笑)。
──いやいや、全然。お正月はゆっくり休めたんですか?
VALSHE:活動の中において、自分が解放された瞬間って、間違いなく昨年のアニバーサリーツアーだったんです。でもやっぱり、VALSHEとして活動する中で、どんなに自分が楽しい瞬間でも、ある一定の緊張感っていうのはずっと持っていて。例えばライヴに来てくれる人は、すごい時間を費やして来てくれている。だからこそ楽しんで欲しい、楽しませなければ、みたいな……。使命感があるっていうか。すべての活動に、自分も含めていろんな人の想いも一緒に乗っかっている分、緊張感があるんですね。で、本当に素の状態で解放されるときって、やっぱり寝てる時なんです。なので最近の中で、本当に寝たって思えたのが、正月だったんで、正月としか出てこなかった(一同笑)。
──でもありますよね、良く寝たぁ、脳みそすっきりしたぁ、みたいな感覚って。
VALSHE:そうそう(笑)。自分の活動スタイル的に、自分をオフるタイミングが無かったし無くていいと思ってずっと活動してきたタイプで。なんか休むのは……悪……じゃないけど、なんかね……
ノラ:ありますよね、そういう気持ち。
VALSHE:なんか止まっちゃったら……
ノラ:そうです。戻れないっていうか。
VALSHE:そう、そこでもう止まったままかも、みたいな。
ノラ:ですね、そこから戻れない気がして、休むのが怖くなりますよね。
TEXT 伊藤亜希
商品情報
[配信]今夜、あの街から 7th Digital Single『クウフク (starring VALSHE)』
2023年2月18日(土)ストリーミング&ダウンロードスタート
▷ストリーミング&ダウンロードはこちら
作詞/作曲/編曲/MIX:ノラ
歌唱:ノラ、レイラstarring VALSHE
ジャケットイラスト:ぜんさい
[CD]
今夜、あの街から 『クウフク (starring VALSHE)』名探偵コナン盤(完全生産限定)
2023年4月12日(水)リリース
収録曲:
1,『クウフク (starring VALSHE)』
2,『クウフク (ANIME EDIT version)』
3,『クウフク (VOCALOID version)』
4,『クウフク (INSTRUMENTAL version)』
仕様:「工藤新一&宮野志保」オリジナル描き下ろしジャケット&アクリルスタンド封入
価格:¥2,000+税
品番:JBCZ-6124
Official Site YouTube Channel 010 年 9 月にコンセプトミニアルバム「storyteller」でメジャーデビュー。 少年のような中性的なハスキーボイスを持つデジタルロックシンガー。 主にアニメファン層やネットユーザーを中心に人気を獲得し現在に至る。 デビューから2013年までは、CD ジャケ···