テレ朝系土曜ナイトドラマ「6秒間の軌跡~花火師・望月星太郎の憂鬱」主題歌
『友よ ~ この先もずっと…』や『さくら』などの代表曲で知られる4人組音楽グループ・ケツメイシ。ラブソングや友情ソングをはじめ、人の一生に寄り添うような楽曲でリスナーを魅了する、言わずと知れた大人気アーティストです。
2023年2月1日には、ニューシングル『夜空を翔ける / 自分が思っていたよりも / One step』、メジャーデビュー20周年記念ツアーのライブBlu-ray&DVD『ケツの穴...さだまらへん』が同時発売されました。
今回考察するのは、ニューシングルの表題曲『夜空を翔ける』。
テレビ朝日の土曜ナイトドラマ『6秒間の軌跡〜花火師・望月星太郎の憂鬱』の主題歌に起用されている楽曲です。
リリースに先立ち、ドラマの本編映像とコラボしたMVも公開され、大きな話題を呼びました。
美しく切ない花火の映像に彩られた『夜空を翔ける』。
その歌詞には、果たしてどのような意味が込められているのでしょうか。
亡き父に会いたくなる夜
今回の考察では、『夜空を翔ける』の主人公を「父親が亡くなったばかりの人」と仮定してみました。
急逝した父親がひょっこり姿を見せるというドラマの設定にもマッチしそうです。
それでは1番から考察していきましょう。
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追いつけないほどずっと遠くに
気づけないほどもっと近くにいるようで不思議
話し足りないことばかりでも
話し足りないぐらいの方が伝わってる気がしてさ
≪夜空を翔ける 歌詞より抜粋≫
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遠くにいるような近くにいるような、家族との距離感は微妙なもの。
特に、子にとっての父親は、肩を並べられないほど遠くに感じられながらも、その大切さに気づけないほど近くもある「不思議」な存在だといえるかもしれません。
また「話し足りないぐらいの方が伝わってる気がして」という歌詞からも、家族特有の絶妙な距離感が伝わってきますね。
次の歌詞を見てみましょう。
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思い出せないのさ初まりも
居て当たり前だからないがしろ
にしてきたのに今じゃ会いたいと
思う日々、無いのさ張り合いも
また会いたいと 泣きたい夜
落としてくれ僕にカミナリを
夢の中でまた再会を
≪夜空を翔ける 歌詞より抜粋≫
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家族の長い付き合いの中で「初まり」を意識することは、あまり多くはない気がします。
それはきっと、生まれたときから互いに「居て当たり前」だったから。
ただ、続く歌詞には「ないがしろにしてきたのに今じゃ会いたいと思う日々」とあります。
失って初めて気づく大切さというものがありますが、どうやら主人公はそれを切に感じているようですね。
父親を亡くし、ぽっかり心に穴が空いたような張り合いのない生活。
今となっては大声で怒鳴られることさえ恋しく、せめて夢の中で「父に会いたい」と、主人公は涙を呑んでいる様子です。
いつも心に父の笑顔を
続いて、2番の歌詞を見ていきましょう。
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夜空いっぱいにあなたを探す
"何泣いてんだ"とあなたは笑う
「ありがとう」と言えたから
星の影から笑顔見えたらな
泣きそうになると笑いそうになるの
頑張るよと誓った覚悟
あなたの声響く胸の中で
いつか会えるかな夢の中で
暗闇に光る涙星
ぼやけて見える万華鏡のように
見上げた夜空にあなたが ah…
≪夜空を翔ける 歌詞より抜粋≫
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冒頭は「夜空いっぱいにあなたを探す」。
涙を浮かべながら亡き父を想っている主人公の姿が想像できますね。
そしてそんな自分に「何泣いてんだ」と、父の幻影が笑っているようです。
そしてそれに対して「ありがとう」と言えたとのこと。
続く歌詞「星の影から笑顔見えたらな」を考慮すると、このとき以来、主人公は父を想って夜空を見上げることが増えたのかもしれません。
「泣きそうになると笑いそうになる」のは、泣きたい夜に大切な人の笑顔を思い出し続けたからなのではないでしょうか。
そしてそんな夜を迎えるたびに「頑張るよ」と、主人公は気持ちを新たにしてきたのでしょう。
ただ、胸の中に父の声を響かせても、寂しさや恋しさは簡単に消えるものではありません。
「いつか会えるかな夢の中で」と、主人公には「会いたい」という強い気持ちが依然として残っている様子です。
涙をたたえて見上げた夜空。
「あなたが」で途切れる歌詞は、父はもういないという現実をふと悟ってしまったかのようですね。
それでも、主人公はしっかり前を向きます。
それがよく示されているのが、Cメロの歌詞です。
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あなたに会いたくなって
なぜか笑顔になれて
なのに涙溢れて
想いは夜空を翔けたままで
あの時ああすりゃ良かったなんて
今更 戻ろうとは思わないね
未だ浮かんでくる その笑顔
釣られ微笑んでいるのさ今朝も
だから「遠く?」とか「どこに居る?」とか
大切じゃないと思い知るのさ
薄れる事なく 思い続ける
そうすれば今日も一歩進める
≪夜空を翔ける 歌詞より抜粋≫
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どれほど父に会いたくなっても、あのときに戻れたら…といった後悔はしていない主人公。
心の中で父が生き続ける限り、遠くのどこかや夢の中にその姿を求める必要はありません。
「薄れる事なく思い続ける」というフレーズには、「父の笑顔を胸に留め、彼を慕い続けよう」という決意が込められているように思えます。
そうすることによって、主人公はまた「今日も一歩進める」のでしょう。
あなたに「特別な誰か」はいますか?
最後に、サビの歌詞と締めの歌詞を考察します。
ここまでは「あなた」を「亡き父」と解釈してきましたが、サビや締めの部分では私たち「リスナー」と捉えた方がよさそうです。
自分自身が問いかけられているイメージを持って、サビの歌詞から見ていきましょう。
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雲一つ無いこの夜空に
あなたは誰が見えますか?
それはあなたにとって何よりも
大切な人ですか?
想いは夜空を翔けめぐる
ずっと幸せでありますように
胸の中で…
≪夜空を翔ける 歌詞より抜粋≫
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主人公は、亡き父の笑顔を夜空に投影していました。
それと同じように「雲一つない夜空に大切な誰かが見えますか」と、私たちリスナーに投げかけているようです。
「想いは夜空を翔けめぐる」は、大切な人のイメージが夜空に映し出されるような感覚を表しているのかもしれません。
また『6秒間の軌跡』のストーリーを考慮すると、大きく弾けた花火が夜空を彩っている情景とも解釈できます。
いずれにせよ、大切な人の幸せを切に願う、尊い表現描写ですね。
続けて、2番のサビも見てみましょう。
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星もまばらなこの夜空に
あなたは何が見えますか?
それは自分の事より何よりも
大切な事ですか?
願いは夜空を翔けめぐる
ずっと幸せでありますように
胸の中で…
≪夜空を翔ける 歌詞より抜粋≫
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「星もまばらなこの夜空」というフレーズは、涙でぼやけた星空や都会の寂しい星空、花火と花火の間の一瞬の夜空など、さまざまなシーンが想像できます。
そういった夜空を見上げたときに、私たちはどのようなことを考えるでしょうか。
仕事のことや将来のことを考える人もいれば、家族や恋人の幸せを願う人もいるでしょう。
「願いは夜空を翔けめぐる」という歌詞は、同じように夜空を見上げている人の願いが、花火のように弾けているイメージかもしれません。
それでは、いよいよ締めの歌詞です。
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未だに会いたくなったり
未だに話したくなったり
するけど心は繋がって
いるから気持ちは伝わってる
守られてるような気持ちになって
時に負けそうな気持ちに勝って
そんな特別な誰かいますか?
あなたの心に誰がいますか?
≪夜空を翔ける 歌詞より抜粋≫
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主人公にとっての亡き父は、ふとしたときに会いたくなったり話したくなったりする大きな存在でした。
同時に、そばにいなくても繋がっているような、苦しいときでも見守ってくれているような特別な存在です。
そんな「特別な誰か」がいる人生は、きっと心の底から幸せなものなのでしょう。
それに気づかせてくれるかのように、この歌は最後に問いかけます。
「あなたの心に誰がいますか?」
「夜空を翔ける」で、気持ちを軽く
今回は、ケツメイシ『夜空を翔ける』の歌詞の意味を考察しました。主人公にとって大事な「あなた」の描写を通して、私たちリスナーも「特別な誰か」について考えさせられる尊い1曲でした。
離れ離れになることの切なさ、それでいて近くに感じられる不思議な感覚などは、多くの人が経験するものでしょう。
そんな人生の繊細な1コマを絶妙に織り上げたような歌詞は、どこか心に染みるものがありましたね。
「特別な誰か」を思い浮かべつつ静かな夜に聴いてみると、心が浄化されて気持ちが軽くなりそうです。
ちょっと心が疲れたなというときには、『夜空を翔ける』を聴いて大切な人を思い出してみるのもいいかもしれません。