音楽活動10年目の新作を徹底解釈
シンガーソングライターでベーシストのキタニタツヤが、活動10年目となる2024年5月13日に新曲『ずうっといっしょ!』をサプライズリリースしました。数多くの歌い手やVTuberによってカバーされている注目曲で、YouTubeで公開されているMVは投稿から約5ヶ月で早くも1200万回再生を優に超えています。
今作はタイトルの通り愛する人といつまでも一緒にいたいという愛情が表現されていますが、歌詞を見てみると純粋な愛とはいえない重くて複雑な感情と関係性が垣間見えます。
どのような内容を歌っているのか、さっそく歌詞の意味を考察していきましょう。
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充電器を貸して!またあなたのせいであたしすり減った
終電見逃してまたあたしのせいで帰れなくなった
繋がっていようね、消耗戦に持ち込んで
お互いに足を引っ張ったアオハル
沈殿した思い出でずうっといっしょ!
≪ずうっといっしょ! 歌詞より抜粋≫
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主人公の「あたし」は「あなた」の存在によって、自分は「すり減った」と感じているようです。
だから回復するために「充電器を貸して!」と訴えています。
続く部分には「終電見逃してまたあたしのせいで帰れなくなった」とあるため、これまで何度も終電で帰ろうとしていた恋人を彼女が引き止めて夜を共に過ごしていることが分かります。
つまり、彼女は被害者感情で恋人にすり減らされたと言いつつもそれを平然と受け入れていて、自分の方も彼を縛っているメンヘラ気質な女性だと読み取れるでしょう。
「お互いに足を引っ張ったアオハル」という言葉からは、この関係性が決して健全ではないことを理解していると取れます。
彼女は自分の青春を彼に捧げ、重く「沈殿した思い出」の中で築いてきた関係に満足している様子も窺えます。
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参観日にだって誰からも見られていない気がしたんだ
散々シニカって昼の街に期待しないようにしたんだ
そうやって守った孤独さえめちゃくちゃになった
≪ずうっといっしょ! 歌詞より抜粋≫
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「参観日にだって誰からも見られていない気がしたんだ」のフレーズにより、彼女の幼少期の様子が垣間見えるでしょう。
愛を感じられない苦い幼少期を過ごしたために、愛に関する見方が歪んでしまったのだと思われます。
また「散々シニカって昼の街に期待しないようにしたんだ」という表現からは、成長してからも愛されない自分をシニカルに見つめて夜の街に生きるようになった現在の様子が伝わってきます。
彼女がそのように生き始めたのは孤独な自分を守り期待しないためだったようですが、彼と出会って愛を知ったために孤独に耐えられなくなったと解釈できますね。
間違いを犯したあたしとあなたはずうっといっしょ!
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あたしいつだって死にたくて仕方ない
こんな顔だいじにしたいと思えないもん
共に過ごした日々が
ささやかな幸せが
かけがえのないトラウマになってたらいいな
はなればなれなんて誰かが吐かせたバグだよね?
≪ずうっといっしょ! 歌詞より抜粋≫
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幼少期からたくさん傷ついてきた彼女は「いつだって死にたくて仕方ない」とこぼします。
「こんな顔だいじにしたいと思えないもん」と歌われているため、愛されないのは顔のせいだと感じているのか、自分を愛してくれない両親に似ている顔に苦しんでいるようです。
それでも愛を与えてくれる彼と出会いました。
そんな彼に対し、「共に過ごした日々」や「ささやかな幸せ」が「かけがえのないトラウマになってたらいいな」と語っています。
トラウマは心理的に強い負荷を感じるセンセーショナルな出来事で、できることなら経験したくないものです。
しかしここでは自分との時間が彼にとってトラウマになってほしいと願っていて、それほど強烈に心に刻みつけたいという仄暗い感情が見えてきます。
その気持ちが強いのは、彼と「はなればなれ」になっているからでしょう。
おそらく彼にとって彼女は本命の恋人ではなく浮気相手にすぎず、彼女の心には恨めしさが募っていると考えられます。
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あなたの一生の後悔として添い遂げるよ
Q. 大切なものって、なあに?
A. 今失くしたそれ
あたしと間違いを犯しちゃったんだ
取り返しがつかないね
健やかなるときも病める時も
グロい履歴の中でずうっといっしょ!
≪ずうっといっしょ! 歌詞より抜粋≫
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彼の「一生の後悔として添い遂げる」ため、彼女は大切な純潔を彼に捧げたようです。
既成事実を作ることで、明確に取り返しがつかない間違いを犯させました。
そうすれば彼がどんな状況にいても「グロい履歴の中でずうっといっしょ」にいられるからです。
「健やかなるときも病める時も」と結婚の誓いの文言を使っていることで、彼女の想いの強さが感じられます。
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もうちょっとふつうに悲しいこと悲しいと思いたかった
長調のチューンに感情委託して楽になりたかった
「せいぜい一生懸命に生きてくださいね」
あたしいつだって死にたくて仕方ない
あんな歌の言いなりになっていたくないの
≪ずうっといっしょ! 歌詞より抜粋≫
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どこにでもいる女の子のように「もうちょっとふつうに悲しいこと悲しいと思いたかった」というのが本音です。
また「長調のチューン」は短調よりも明るいイメージのため、もっと人生を楽しく生きたかったと思っていることも読み取れます。
愛を知らずに育ち今もなお歪な愛しか知らない彼女は、心の奥で平凡な幸せを願いながらも自分にはもう得られないものと諦めているのでしょう。
「せいぜい一生懸命に生きてくださいね」と言うかのように生を説く歌は数多くありますが、絶望的な人生により「言いなりになっていたくない」と死へ願望が強まっていることが垣間見えます。
あの夜からあたしは壊されたんだよ
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あなただけひとりで
あたしの目を盗んで
幸せになろうなんて思わないで
髪を乾かしてくれた夜から
あたしは壊されたんだよ
≪ずうっといっしょ! 歌詞より抜粋≫
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彼女はいよいよ感情を露わにし、自分のいない場所で「幸せになろうなんて思わないで」と告げています。
間違いを犯したのだから、不幸でしかいられない自分と同じように彼も不幸であるべきだと考えているようです。
「髪を乾かしてくれた夜」は何気ない触れ合いのように思えますが、親からの愛も受けられずに育った彼女にとってはかけがえのない愛情表現だったのでしょう。
彼が愛を示してくれたから、自分は彼を深く愛した。
その瞬間から「あたしは壊されたんだよ」と彼の責任を説いています。
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あなたの一生の後悔として添い遂げるよ
外れなくなってしまった指輪みたいに
何度もずっとフラッシュバックしている、最低だよ
一緒に居た時の方があたし可愛かったなあ
≪ずうっといっしょ! 歌詞より抜粋≫
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彼はもうそばにいないのに、「外れなくなってしまった指輪みたいに」彼との記憶が「何度もずっとフラッシュバック」しています。
「最低だよ」という一言は、自分を捨てた彼に対する言葉であり、そんな男を愛して傷ついている自分の状況に対する言葉でもあるのでしょう。
思い返せば「一緒に居た時の方があたし可愛かったなあ」と感じます。
もう手に入らないものへの羨望や哀しみ、空虚な諦めの気持ちなど複雑な感情がこのフレーズに詰まっている気がします。
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健やかなるときも病める時も
他の誰かと眠っていても
お揃いの悪夢でずうっといっしょ!
≪ずうっといっしょ! 歌詞より抜粋≫
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彼は今頃、「他の誰かと眠って」幸せに過ごしているのかもしれません。
そうだとしても彼が犯した間違いは一生消えないもので、彼の人生にずっと付きまといます。
一緒にはいられなくても「お揃いの悪夢でずうっといっしょ」にいようねという狂気じみたメッセージが表現されています。
キタニタツヤの音楽の世界に浸ろう!
キタニタツヤの『ずうっといっしょ!』は、愛や温もりに飢えた女性の歪んだ愛を描いた楽曲です。重たい恋心を全面に出しつつも子どもっぽい表現が使われていて、愛されなかった幼少期を引きずって執着する主人公の切ない半生を感じられる点も秀逸です。
知的で美しい歌詞表現とアップテンポのサウンドが癖になるキタニタツヤワールド全開の『ずうっといっしょ!』を楽しんでくださいね。