「別れ」から始まる物語
では、歌詞を冒頭から見ていきます。----------------
お別れしたのはもっと 前の事だったような
悲しい光は封じ込めて 踵すり減らしたんだ
君といた時は見えた 今は見えなくなった
透明な彗星をぼんやりと でもそれだけ探している
≪ray 歌詞より抜粋≫
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冒頭で描かれているのは「別れ」について。
主人公は、「君」と別れたことを語ります。
そして、そのことを抱えながら「踵をすり減らした」といいます。
この「踵をすり減らす」という表現は、「生きる」ということの比喩と捉えられるでしょう。
主人公は別れの経験を抱えながら生きている。
『ray』の歌詞における主人公の状況が端的に語られています。
この「歩く」ということ、「生きる」ことの比喩として用いる表現は、『ray』の歌詞を読み解く上で大きなキーワードとなります。
そして主人公は「別れ」によって、それまで見えていた「彗星」が見えなくなってしまったといいます。
そして、その見えなくなった彗星だけを探して、生きているのです。
ここで注目したいのは「彗星」という言葉。
なぜ「お別れ」が「彗星が見えなくなること」につながるのか、一見とても難解です。
しかし、言葉の意味をしっかりと捉えれば、その考察は可能でしょう。
彗星は、太陽や月のように常に輝き続ける星ではなく、一瞬の輝きを放って見えなくなってしまう星のことです。
つまり彗星は、もともと「見えなくなる」もしくは「失くなってしまう」性質をもっているもの。
このことを歌詞と重ね合わせて考えると、「彗星」は主人公が「君」といたときにのみに感じることができた感情や思い出の比喩だと捉えることができるでしょう。
そして、消えてしまった彗星「だけ」を探していきている主人公の行動からは、「君」との別れによる喪失感や悲しみが強く感じ取れます。
冒頭の歌詞をまとめると、主人公は「君」との別れを悲しみ、「君」といるときには見えていた「彗星」だけを探しながら生きている、ということがわかるでしょう。
ちゃんと寂しくなるということ

続く歌詞を見ていきましょう。
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しょっちゅう唄を歌ったよ その時だけのメロディーを
寂しくなんかなかったよ ちゃんと寂しくなれたから
≪ray 歌詞より抜粋≫
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ここで注目すべきはやはり「ちゃんと寂しくなる」ということが、「寂しくなんかない」ことにつながるという部分でしょう。
一見矛盾するような内容であり、かなり難解です。
前後の歌詞と合わせて考えてみましょう。
主人公は、「君」と別れたことを悲しみながら生きています。
「彗星」だけを探しながら生きている主人公は、別れによる「寂しい」気持ちに埋め尽くされていると捉られます。
果たして、これ以上に「ちゃんと寂しくなる」ことがあるでしょうか?
なぜなら、主人公は別れた「君」のことだけを考えながら生きているからです。
ずっと寂しさを抱えているということは、別れてしまった「君」のことを考えたり感じ続けたりしているということ。
主人公と「君」はお別れしてしまいましたが、別れてしまったからこそ「君」についてより深く、強く感じていると捉えることもできます。
つまり、主人公は別れを経験し、そのことだけを考えるくらいになっています。
それは何よりも「ちゃんと寂しくなる」ということ。
それは、ずっとそのことだけを考えたり、感じたりできるという意味で「寂しくなんかない」と考えることができるのではないでしょうか。
悲しみは消えないから、大丈夫

続く歌詞では、こう歌われます。
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いつまでどこまでなんて 正常か異常かなんて
考える暇も無い程 歩くのは大変だ
≪ray 歌詞より抜粋≫
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冒頭で使われていた、「歩く」ことを「生きる」ことの比喩として使う表現が、ここでも用いられています。
それに当てはめて考えてみましょう。
どれだけ長生きしたり、どこに行き着いたりするかはわからない。
そして、その生き方が正しいか異常なのか、ゆっくり立ち止まって判断する暇もないくらいに「生きる」のは大変なことだという主人公の考え方が語られていると捉えることができます。
続く歌詞では、
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楽しい方がずっといいよ ごまかして笑っていくよ
大丈夫だ あの痛みは 忘れたって消えやしない
≪ray 歌詞より抜粋≫
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と歌われています。
「痛み」が続くことは本来ネガティブなことのように思えます。
しかし、主人公はそれを「大丈夫だ」と肯定的に捉えている。
これはなぜなのでしょうか?
ここには、「君」との別れに対する主人公の捉え方が現れていると考えられます。
主人公は、「君」と別れたことだけを考えながら、その寂しさ=「痛み」を抱えて生きています。
つまり、「痛み」が消えないということは「君」を考えたり感じたりすることができることでもあるのです。
たとえ「君」との記憶自体は忘れてしまったとしても、「痛み」が残り続けるのであれば、「君」と別れた寂しさが消えていないということであり、それは主人公と「君」が共にいたことを示す何よりの証拠となるのです。
そういった意味で、主人公は「痛み」が消えないことを、肯定的に捉えているのではないでしょうか。
「別れ」が証拠になる

別れによる悲しみや痛み、寂しさをむしろ肯定的に捉えるという歌詞はこの後も度々登場します。
最もわかりやすいのが、
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お別れした事は 出会った事と繋がっている
あの透明な彗星は 透明だから無くならない
≪ray 歌詞より抜粋≫
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というフレーズ。
出会っていなければ、別れることもできません。
つまり、「別れた」という事実があることは、そのまま「君」と出会ったことがあるという事実を証明しているのです。
主人公が「君」といたときには見えていた「透明な彗星」は、別れたことで見えなくなってしまったけれど、それは「君」といた事実や時間が無くなってしまったことを意味するのではありません。
つまり、別れによる寂しさがある限り、「君」といたことがずっと主人公の中に残り続けるのです。
主人公は、これからも「寂しい」気持ちを抱えて生きていくのでしょう。
しかし、その寂しさがあるからこそ、主人公は「君」とつながっていることができるのだと思います。
喪失と向き合う
ここまで見てきたように『ray』は誰かや何かを失ってしまった悲しみや寂しさについて歌った楽曲です。その歌詞から見えてきたのは、たとえ誰かや何かを喪失してしまったとしても、そのことに対して「寂しさ」を感じている限りは、それらを心の中で失うことなく持ち続けられるという前向きなメッセージ。
『ray』は、喪失感を抱えて生きる全ての人に、やさしく寄り添い、その寂しさを肯定してくれる楽曲なのではないでしょうか。
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