今の渋谷はビルが満月を隠してる
「櫻坂46」は「欅坂46」が改名して生まれたグループです。まず、「欅坂46」は2015年8月に「乃木坂46」に続く「坂道シリーズ」第2弾のグループとして結成されました。
1stシングルから女性アーティストオリコン初週売上の歴代1位を獲得し、デビュー8か月で第67回紅白歌合戦に初出場を果たします。
そんな「欅坂46」が2020年7月に配信ライブ「KEYAKIZAKA46 Live Online, but with YOU!」を開催し、同公演内で10月のラストライブをもって活動休止と改名を発表します。
そして、同年9月に新グループ名「櫻坂46」が渋谷駅前の街頭ビジョンでサプライズ発表されました。
以降、「櫻坂46」は生の情動にあふれた歌やパフォーマンスで多くの人を魅了してきました。
改名した年に紅白歌合戦の出場を果たし、2025年も出場すれば「欅坂46」の出場回数4回を上回ります。
そんな櫻坂46が2025年1月9日に11thシングル『UDAGAWA GENERATION』を発表しました。
二期生・森田ひかるがセンターを務める本楽曲は櫻坂46として初めてのワンカット撮影に挑戦したMVが話題になりましたが、彼女たち「櫻坂46」の始まりの街、渋谷を真正面から歌った歌詞も注目ポイントでした。
改名して4年が経った彼女たちが何を思って今の渋谷を歌ったのかを今回は考察していきましょう。
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何で?何で?何で?
意味不明 どうしてここにいちゃいけないの?
今宵はFull moon ビルに目隠しされて
手探りで歩く人混みよ
≪UDAGAWA GENERATION 歌詞より抜粋≫
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歌いだしから戸惑いが伝わってきます。
繰り返しの「何で?」のあとに「意味不明」と続きます。
「どうしてここにいちゃいけないの?」と尋ねていますので、意味は分からないけれど、「ここにいちゃいけない」ことだけは分かっています。
そのあと「今宵はFull moon ビルに目隠しされて」とあります。
「Full moon(満月)」は自然の象徴です。
それが「ビル」という人工物によって意図的に隠されてしまった印象を持ちます。
結果「手探りで歩く人混みよ」と、月の光を頼りに歩いていた人たちは行き場を失います。
そして、「何で?」と戸惑っている彼女も、手探りで歩かざるおえなくなった一人なのでしょう。
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いいじゃん いいじゃん いいじゃん
何をしたって・・・傷ついたって・・・
好きに生きたい
≪UDAGAWA GENERATION 歌詞より抜粋≫
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ここでも繰り返しです。
戸惑いと同時に「ここにいちゃいけない」ことに混乱しているようにも受け取れます。
更に、続く歌詞から彼女が「いいじゃん」と主張する「ここ」は、傷つく可能性を孕んだ場所だと分かります。
彼女はそれを理解した上で、「好きに生きたい」と思っています。
傷つくとしても「ここ」にいたいんです。
では、この「ここ」とはどこでしょうか?
それは後の歌詞に出てくる「ハロウィン」から予想するに、渋谷です。
であれば、タイトルの「UDAGAWA」は宇田川町のことでしょう。
宇田川町を調べると「渋谷区の中央付近に位置し、繁華街としての、いわゆる「渋谷」を代表する町域」と出てきます。
そんな繁華街で彼女は「好きに」生きることを求めます。
未来を忘れて遊びたい

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ホントの年齢より 大人に見えるように
Make me up! Yeah Yeah Yeah
こんなバカをできるのも
若さのせいにできるまで
≪UDAGAWA GENERATION 歌詞より抜粋≫
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渋谷にいるために彼女は「大人に見えるように」メイクをします。
そして、それを「バカ」なことだと理解しています。
ここには彼女の賢さが伺えます。
ありのままの自分で渋谷に行けば、厄介なことになると彼女は分かっているのでしょう。
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イリーガルって その線踏まずに・・・
ギリギリがいい 刺激的な日々
どっちに転ぶか?
どこまで行くのか?
Unknown Unknown
誰かのマイルストーン
≪UDAGAWA GENERATION 歌詞より抜粋≫
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「イリーガル」は「違法な。非合法的な」という意味です。
彼女はやはり賢いです。
「その線踏まずに」しつつ、「刺激的な日々」を楽しみます。
そして、そんな自分の賢さを試すように「どっちに転ぶか?」「どこまで行くのか?」としつつ、「誰かのマイルストーン」と歌います。
「マイルストーン」は「里程標」のことで「物事の推移・発展の一過程を示すしるし」という意味を持ちます。
歌詞では、その前に「誰かの」とつきます。
誰かが残した最後まで成し遂げられなかった「発展の一過程を示すしるし」を彼女は意識して、渋谷で刺激的な日々を過ごそうとしています。
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変わらないって最高じゃない?
いついつまでも遊んでいたいよ
だって・・・ずっと・・・
他に何があるのか?
未来・・・
We are UDAGAWA GENERATION
≪UDAGAWA GENERATION 歌詞より抜粋≫
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「マイルストーン」を残した誰かを意識したような歌詞です。
おそらく、その誰かは変わってしまったのでしょう。
「遊んでいたいよ」という願望を歌っているため、その誰かは遊びを忘れた大人になったのかも知れません。
そして、彼女は自分もいつか大人になることが分かっています。
その上で未来に「何があるのか?」と、落胆の色を示したあとに曲のタイトルが続きます。
「We are UDAGAWA GENERATION(私たちは宇田川世代です)」あえて、渋谷世代と言わないところに彼女の抵抗が伺えます。
「誰かのマイルストーン」は渋谷にあります。
そのマイルストーンと私達は違う、という主張とも受け取れます。
では、宇田川世代と渋谷世代はどう違うのでしょうか。
奪われた騒ぐだけの日常

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Z世代なんて言葉は
誰かが作ったマーケティング
私は私だ Yeah Yeah Yeah
≪UDAGAWA GENERATION 歌詞より抜粋≫
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「Z世代」という言葉は2021年に「ユーキャン新語・流行語大賞トップ10」に選出されました。
定義は曖昧な部分もありますが、おおよそ1990年代後半から2012年頃に生まれた世代を指します。
ちょうど「櫻坂46」が活動をはじめた1年後からメジャー化された言葉であり、メンバーはまさに「Z世代」と名指される年齢です。
しかし、それは「誰かが作ったマーケティング」に使われる言葉です。
少なくとも「欅坂46」だった頃に、グループのメンバーを「Z世代」と括られることはありませんでした。
歌詞の彼女は変わらないのに、世間からは「Z世代」だと突然名指されるわけです。
それは「私は私だ」と反発したくもなります。
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ここで騒ぐことすら 今じゃできなくなりました
ハロウィンなんかもうどうでもいい
浄化作戦 追い出されてしまう
≪UDAGAWA GENERATION 歌詞より抜粋≫
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彼女がいる渋谷は以前の渋谷ではありません。
それは最初の「今宵はFull moon ビルに目隠しされて」からも分かりますし、「浄化作戦」という単語からも伺い知ることができます。
彼女が見ていた渋谷の景色が変わってしまったのです。
その上で、彼女の望みは以前の渋谷にいた若者たちと変わりません。
「若さのせいにできる」範囲でバカなことをして、刺激体な日々を送りたいんです。
その望みは「ハロウィン」のようなイベントではなく、ただ騒ぐだけの日常的なものだったのでしょう。
「誰かの」と「うちらの」しるし

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ただただ歩いているだけなのにさ
嫌でも目に付く いいこと悪いこと
≪UDAGAWA GENERATION 歌詞より抜粋≫
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最初の「何で?」や「いいじゃん」を繰り返し、「手探りで」歩いていた時より彼女は落ち着いています。
そうすることで「いいこと悪いこと」が目につきます。
冷静になったからこそ、でしょう。
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うちらのランドマーク
離れた街で憧れて来た
≪UDAGAWA GENERATION 歌詞より抜粋≫
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「ランドマーク」は「塔・記念碑など、その地域を特徴づけ、目印となる物」という意味です。
歌詞の中に似たフレーズがありました。
「誰かのマイルストーン」です。
この「ランドマーク」と「マイルストーン」は同一のものです。
ただし、渋谷世代を宇田川世代とずらして呼ぶように、ここでも名称をあえて変えて、過去と今の違いを表そうとしているんです。
それがせめてもの抵抗とでも言いたげに、です。
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疲れた朝陽 何度見ただろう
そんな・・・こんな・・・
自由とは愚かかい?
You know! I know!
何も期待してない
Forever
We are UDAGAWA GENERATION
≪UDAGAWA GENERATION 歌詞より抜粋≫
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ビルに隠された満月の中で「手探りで歩く」夜は終わり、何度も見慣れた「疲れた朝陽」が訪れます。
朝陽を前にして「自由とは愚かかい?」と問い、自ら「you knoe! know!(知ってるよ! 知ってるよ!)」と答えます。
そして、全てを諦めたように「何も期待してない」「Forever(永遠)」と言い、ラストフレーズ「We are UDAGAWA GENERATION」で歌詞は終わります。
底にはちゃんと「愛」がある

かつて渋谷は「世界で唯一退屈じゃない街」でした。
しかし、今の渋谷は何も期待できません。
その落胆を示す言葉が『UDAGAWA GENERATION』です。
なんと悲しみに溢れた歌詞でしょうか。
ただ、すべて悲壮感に包まれる内容でもありません。
そのキーワードは曲のタイトルになっている「UDAGAWA(宇田川)」です。
「宇田川」は言葉通りの川という意味でも検索で引っかかりました。
「東京都渋谷区を流れる河川。暗渠化されている」
とのことです。
暗渠化は「水路を地下に埋没したり、ふたをしたりして、地表から見えなくする改修のこと」です。
渋谷世代という言葉を使わず彼女たちが「宇田川世代」にこだわったのは、ふたをして見えなくなったとしても、その底には渋谷という「世界で唯一退屈じゃない街」があったのだと言うことは忘れない、という決意にも思えます。
本楽曲のセンターを務めた森田ひかるはレギュラー番組の中で「たくさんの方に愛をお伝えして、そしてたくさんの愛をいただけるようなシングルを作りたい」と答えています。
彼女たちが歌う渋谷の底には「愛」があります。
『UDAGAWA GENERATION』には様々な気持ちが込められています。
渋谷を知っている人も知らない人も、退屈じゃなかった街に思いを馳せながら聴いてみるのも一興ではないでしょうか。