涙ばかりの波乱の人生
2025年がメジャーデビュー20周年イヤーとなるRADWIMPSの書き下ろし楽曲『賜物』は、2025年度前期のNHK連続テレビ小説『あんぱん』の主題歌に起用されています。第112作目となる朝ドラ『あんぱん』は、アンパンマンの生みの親であるやなせたかしと妻の小松暢をモデルに、生きる意味さえ失うような苦悩の日々の中でも夢を諦めず生き抜く夫婦の姿を描いた物語です。
その主題歌として『賜物』を制作するにあたり、作詞作曲を手がける野田洋次郎は「朝、出たくない布団から這い出す力が湧くような“効き目”があること」 「のぶに負けぬ瑞々しい生命力を持った曲であること」「挑戦と冒険をすること」を主眼にしたとコメントしています。
煌めきを感じるようなストリングスを取り入れたバンドサウンドはまさしくポジティブな空気感を演出していて、毎日の朝を明るく照らしてくれるでしょう。
そんな前向きな音楽に乗せてどのようなメッセージが歌われているのか、歌詞の意味を考察していきましょう。
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涙に用なんてないっていうのに やたらと縁がある人生
かさばっていく過去と 視界ゼロの未来
狭間で揺られ立ち眩んでいるけど
≪賜物 歌詞より抜粋≫
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冒頭の歌詞は、日常に降りかかる悲しみや苦難について語っています。
当然誰でも悲しんだり苦しんだりしたくないと感じ、「涙に用なんてない」と思っているでしょう。
しかし「やたらと縁が ある人生」とあるように、主人公の人生はつらい境遇にあるようです。
「かさばっていく過去と視界ゼロの未来」というフレーズからは、過去も未来も問題が山積みの状況が読み取れます。
歳を重ねる中でどれほど苦難と戦ってきても、次の苦難から逃れることはできません。
むしろ先行きへの不安が重くのしかかり、明るい未来をうまく思い描けずさらに苦しむこともあるでしょう。
そのせいで過去と未来の狭間にある“今”をどう生きていいか分からなくなり、「立ち眩んで」います。
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「産まれた意味」書き記された 手紙を僕ら破いて
この世界の扉 開けてきたんだ
生まれながらに反逆の旅人
≪賜物 歌詞より抜粋≫
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一つの命が形作られ、この世に産まれてきたからには、誰もが「産まれた意味」を持っているはずです。
しかし、人生の中でその意味に悩んでしまうのは、産まれてくるときに「産まれた意味が書き記された手紙」を自ら破ってしまったからなのかもしれません。
「生まれながらに反逆の旅人」といわなければ説明がつかないほど、人生は苦痛に満ちています。
問題ばかりの毎日に、主人公はどのように立ち向かうのでしょうか。
苦しくても前向きな気持ちを忘れない

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人生訓と経験談と占星術または統計学による
教則その他、参考文献 溢れ返るこの人間社会で
道理も通る隙間もないような日々だが 今日も超絶G難度人生を
生きていこう いざ
≪賜物 歌詞より抜粋≫
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今やインターネットから様々な情報が手に入れられる時代です。
今の問題を乗り越えるために、他人の「人生訓と経験談」を探ってみる人もいるでしょう。
または「占星術」に頼って行動の参考にしたり、過去のデータを基にした「統計学による教則」を調べたりする人もいます。
今の社会ではそうした「参考文献」があふれているのに、実際に直面する日々は納得できないような不条理なことばかりです。
「超絶G難度」と表現されるように、挑むのも躊躇したくなるほど複雑で困難を極めます。
しかし、それで諦めてしまうと何も残りません。
だから主人公は、現実を受け入れて「今日も超絶G難度人生を生きていこう いざ」と前向きな気持ちを表しています。
大切なのはどのような状況や境遇にいるかではなく、自分がどのような心持ちでいるかだというメッセージが伝わってきますね。
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いつか来たる命の終わりへと 近づいてくはずの明日が
輝いてさえ見えるこの摩訶不思議で 愛しき魔法の鍵を
君が握ってて なぜにどうして? 馬鹿げてるとか 思ったりもするけど
君に託した 神様とやらの采配 万歳
≪賜物 歌詞より抜粋≫
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悲しいことですが、誰の人生にも平等に「命の終わり」はやってくるものです。
「明日」が来れば、また一日終わりへと近づくことになります。
とはいえ「明日」と聞くと、不思議とポジティブで輝かしいイメージを持つことが多いのではないでしょうか。
それはきっと未来に希望や期待を抱かせてくれる大切な人がいるからです。
そのことが「この摩訶不思議で愛しき魔法の鍵を君が握ってて」という歌詞で表現されています。
未来へ続く扉の鍵は大切な「君」が持ってくれているから、「君」さえいれば希望を捨てずに前に進んでいけるという愛のこもった想いが読み取れるでしょう。
時にはそんな自分の考えを「馬鹿げてるとか思ったりもする」とも語っています。
それでも「君に託した 神様とやらの采配 万歳」という言葉から、愛する人との運命的な絆や人生を共にする大切な人と出会えた喜びが感じられます。
君と生きる明日のために炎を燃やす

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この風に乗っかってどこへ行く
生まれたての今日が僕を呼ぶ
「間違いなんかない」って誰かが言う
「そりゃそうだよな」とか「ないわけない」とか堂々巡れば
悲しいことが 悔しいことが この先にも待っていること
知っているけど それでも君と生きる明日を選ぶよ
まっさらな朝に 「おはよう」
≪賜物 歌詞より抜粋≫
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風に揺られるように、不確かな毎日を生きています。
迷ったり失敗したりして落ち込んでいると、「間違いなんかない」と励ます誰かの言葉や歌が耳に届くでしょう。
「そりゃそうだよな」と受け止めて前を向けるときもあれば、「ないわけない」と否定的な気持ちになるときもあります。
その本当の答えは誰も知りません。
ただ知っているのは「悲しいことが 悔しいことが この先にも待っていること」だけです。
それが人の運命なのか、間違った行動の結果なのかは分かりません。
どちらだとしても、主人公は「君と生きる明日を選ぶよ」とはっきりと伝えています。
「まっさらな朝に おはよう」といい合える人がいるというだけで、人生は素晴らしいものです。
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感情線と運命線と恋愛線たちが対角線で
交錯して弾け飛び火花散り 燃え上がるその炎を燃料に
一か八かよりも確かなものは何かなんて言ってる場合なんか
じゃないじゃんか いざ
≪賜物 歌詞より抜粋≫
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手相で「感情線と運命線と恋愛線」は、それぞれが交差する位置にあるとされています。
感情と運命と恋愛が複雑に絡み合う様子は、まさに人生そのもの。
それらの摩擦によって生まれるのが情熱や愛なのかもしれません。
そうして心についた「炎」を燃料にし、理屈ではなく心に従って行動することの大切さが読み取れます。
借り物の命をどう生きるかは自分次第

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どんな運命でさえも二度見してゆく 美しき僕たちの無様
絶望でさえ追いつけない 速さで走る君と二人ならば
「できないことなど 何があるだろう?」 返事はないらしい なら何を躊躇う
正しさなんかに できはしないこと この心は知っているんだ
There's no time to surrender
≪賜物 歌詞より抜粋≫
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自分たちの人生は無様なもので、運命の方が二度見していくほどではないかとさえ思えます。
それでも「美しき」と表現していることから、自分の人生を悲観しているわけではないようです。
「君と二人」でいれば力が湧いてくるから、迫り来る絶望よりも速いスピードで前進し続けられると信じています。
一緒にいて「できないことなど 何があるだろう?」とこれまでの人生を振り返ってみても、今のところできないことは見つかっていません。
だから、行動を躊躇う必要はないのです。
正しくあることにこだわっていては自分の可能性を狭めてしまいます。
人生は短いので、「There's no time to surrender (降伏する時間はない)」でしょう。
それなら知らないことや見えないものに振り回されず、心の信じるままに行動すべきなのではないでしょうか。
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時が来ればお返しする命 この借り物を我が物顔で僕ら
愛でてみたり 諦めてみだりに思い出無造作に 詰め込んだり 逃げ込んだり
せっかくだから 唯一で無二の詰め合わせにして返すとしよう
あわよくばもう 「いらない、あげる」なんて 呆れて 笑われるくらいの
命を生きよう
君と生きよう
≪賜物 歌詞より抜粋≫
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ここで死は、命を与えてくれた神に命をお返しするときと捉えられています。
いわば「借り物」の命を人間は我が物顔で扱い、愛でることもあれば頑張ることを諦めて楽しさだけを追求することもあるでしょう。
生きている限り、命をどう扱うかはその人に委ねられています。
主人公は「せっかくだから 唯一で無二の詰め合わせにして返すとしよう」と考えているようです。
それは良いときも悪いときもひっくるめて、自分にしか送れない人生を満喫することだと解釈できます。
「あわよくばもう いらない、あげる なんて 呆れて 笑われるくらい」、波乱万丈な人生を生き抜きたいという想いが見えてきます。
それが“命を生きる”ということであり、そのためには隣に「君」が不可欠です。
「命を生きよう 君と生きよう」というフレーズに、人生に対するポジティブで力強い気持ちが表れています。
“賜物”の価値を思い出させてくれる人生の歌
RADWIMPSの『賜物』はどれほどつらく険しい人生でも、自分の命と心から愛せる人という“賜物”を手放さない限り強く生きていけることを教えてくれる楽曲です。たった一人で孤独に戦っているように感じても、きっと大切な人がすぐそばにいて愛と勇気を与え支えてくれているはずです。
『あんぱん』のストーリーや自分自身の人生と重ね合わせながら聴いて、今を生き抜く力にしてくださいね。