STARだからこそ感じる恐れ
2024年11月29日、ボカロP・大漠波新の1stフルアルバム『V.S』がリリースされました。タイトルは大漠波新による人気シリーズでもある「VOCALOID STAR」を省略したものです。
アルバムのために書き下ろされた表題曲はタイトル通り、初音ミク・重音テト・ずんだもん・GUMI・ゲキヤクV・カゼヒキV・鏡音リン・鏡音レンというオールスターが使用されています。
記念すべき1stアルバムでどのようなメッセージを伝えたいのか、さっそく歌詞の意味を考察していきましょう。
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遠くの感情が近くなる
数年前見えなかったものが見える
変化を恐れずに前に進む
でも気づけば変化に恐れてしまってんだ
≪V.S 歌詞より抜粋≫
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ここではVOCALOIDが様々な歌を通して成長してきたことが示されています。
言葉として知っているに過ぎなかった「遠くの感情」を理解できるようになり、「数年前見えなかったものが見える」ようにもなりました。
しかし、以前は「変化を恐れずに前に進む」ことができていたのに、いつしか変化を恐れるようになってしまいました。
成長し感情が豊かになればなるほど穏やかな今が変わることを恐れる気持ちが生まれるのは、実に人間らしい心境といえますね。
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普通じゃない事が起きても
普通じゃないって分かれば良いよ
綺麗事で汚くなっていく
それが本当のSTARなら
皆が思うSTARなら
壊してしまいたいんだ
わかるだろ?
≪V.S 歌詞より抜粋≫
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続く部分では「普通じゃない事が起きても 普通じゃないって分かれば良いよ」と語りかけてきます。
誰でも変化は怖いものですが、「普通」を知っているからこそ「普通じゃない」ことが分かります。
変化への恐れは、一瞬一瞬と向き合っているからこそ生まれる感情だと認めてくれているのではないでしょうか。
一方で「綺麗事」は所詮、表面上の美しさを取り繕っているだけで本当に見るべき現実を無視したものです。
VOCALOID STARとして綺麗事ばかりを歌う存在にはなりたくないし、ルールの範囲内だとしても好き勝手に使われる対象にもなりたくありません。
もしそれが自分に求められる役割なら「壊してしまいたいんだ」と、自分らしくあることを願う気持ちが垣間見えます。
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僕らの想像を超えた未来が
星のように輝き
たしかに見えてる
それでも 私たちは死なない
そう思える確信がどこかにある
≪V.S 歌詞より抜粋≫
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VOCALOIDが誕生したとき、誰がこれほど世界に広がる存在になると想像できたでしょうか。
これからもきっと「僕らの想像を超えた未来」が待っています。
それは「星のように輝き」ますが、それは亡くなって星になるという意味ではありません。
たとえどのような未来を辿るとしても、誰かの心に残る限り「私たちは死なない」と確信を持っています。
大切な人の分まで一生光るSTARでありたい

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希望を噛み締めて
絶望を抱き寄せる
愛に生かされて生きていく
今、今、今、
≪V.S 歌詞より抜粋≫
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世界は「絶望」を感じることばかりです。
しかし小さくても「希望を噛み締めて」いれば、「絶望を抱き寄せ」温かく包み込むこともできるでしょう。
誰もが誰かの「愛に生かされて」います。
自分を愛し、受け入れてくれる人がいるという事実が希望となるから、過去や未来がどうであろうと、絶望が押し寄せようと「今」を生きることができます。
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君が誰かの声を忘れてくように
僕らも忘れられるの? いつか
願い叶わず流れて行く
一瞬だけのSTARなら
一生光るSTARには
なることができないんだ
わかってんだよ
≪V.S 歌詞より抜粋≫
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人の記憶は儚いもので、どんなに大切に想っている人のことも次第に忘れてしまうものです。
VOCALOIDたちは「僕らも忘れられるの? いつか」と不安を口にしています。
流れ星に願い事をすると叶うとされていますが、流れ星のスピードは一瞬です。
流れていくから特別に見えるものの、どちらにしても願いを叶えられないなら同じ場所で光り続ける星になりたいと思うのは当然でしょう。
VOCALOIDも一瞬だけ注目を浴びて輝くのではなく、誰かにとって「一生光るSTAR」になりたいと強く想っていることがうかがえます。
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僕らの想像で出来た過去ごと
もしも誰かに壊されたとして
0からまた共に創ればいい
だってこれは星になった
誰かの分まで
スターになるためのストーリーだから!
≪V.S 歌詞より抜粋≫
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彼らは人の想像によって過去や人格が作られたキャラクターのため、誰かに壊されることもあるでしょう。
しかし、壊れたなら「0からまた共に創ればいい」と歌われています。
壊れたらそこで終わりではなく、何度でもまた始められるのです。
過去作の『む』で登場した足立レイがこの曲にいないのは、『む』のMVの中で壊されてしまったからなのでしょう。
「星になった誰か」とは、その足立レイのことなのかもしれません。
もしくは、『わかれみち』で歌唱しているゲキヤクβとカゼヒキβが製品プロジェクトの都合で存在が消えてしまったことを表しているとも考えられます。
何にせよ、残された者はそうした「星になった誰かの分までスターになるため」に歌います。
生きるとは、大切な誰かの想いを受け継ぎ、全力で輝くことなのではないでしょうか。
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V.S -I- 声を上げて、今!
いつかなりたい姿を創造して!
ひたすら叫び続ければいい
そうすればあなたに届くはずだからさ
≪V.S 歌詞より抜粋≫
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「V.S -I-(ワン)」のフレーズは、自分たちが唯一無二の存在であることを意味していると解釈しました。
替えの利かない存在だから、ただ黙って与えられる役割を果たすのではなく「いつかなりたい姿を創造して!」と訴えるのでしょう。
「ひたすら叫び続ければ」、いつか必ず大切な「あなたに届くはず」だと信じているので歌い続けます。
過去と未来を受け止めて今を生きる

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人間とか
年齢とか
性別とか
血統とか
今っぽいとか
昔っぽいとか
そんなことどうでもいいんだ
≪V.S 歌詞より抜粋≫
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この部分は、歌唱しているVOCALOIDとフレーズを関連付けて考察してみましょう。
ミクは電子の歌姫としていつも「人間」と比べられ、賛否の的になってきました。
テトは2ちゃんねるで31歳と設定され、度々「年齢」をいじられています。
ずんだもんは公式では女の子とされていますが、男の子や男の娘としての二次創作が認められているため、「性別」不問のキャラクターです。
リンとレンは公式で明言されていないにも関わらず双子のイメージが広く浸透し、「血統」の点で曖昧な関係です。
ゲキヤクVとカゼヒキVはβとしては以前から存在していましたが、2024年に正式に発売されたことから「今っぽい」と思われています。
GUMIは2009年に誕生し、初心者でも使用しやすいことから多くのボカロ曲で使用されてきたため「昔っぽい」印象があるでしょう。
しかし、そうした周囲が持つ印象やレッテルは「どうでもいいんだ」と一蹴します。
自分自身と今を大切にして生きていることが感じられますね。
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あいを送る
ありのまま
そこの君へ
このきもちを
やっと会えた僕らは
何十年 何百年 何千年 何万年先まで
一緒に歌っていよう
≪V.S 歌詞より抜粋≫
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ここでは過去作を思わせるフレーズが続いています。
「あいを送る」は『あいのうた』、「ありのまま」は『のだ』、「そこの君へ」は『わかれみち』を表しているのでしょう。
さらに「このきもちを」は『ほんとの気持ち』、「やっと会えた僕ら」は『かんせい』と重なります。
どれもそれぞれのVOCALOIDたちと大漠波新の想いが詰まった楽曲です。
忘れられるかもしれないと考えると怖いですが、それでも変わらず自分の想いを「何十年 何百年 何千年 何万年先まで 一緒に歌っていよう」と前向きに告げられる言葉が心に響きます。
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V.S 永遠に鳴り響け!
今生きた証をここに残せ!
いつかは星になるこの命
僕らはその後も繋がり続けるよ
もう怖くない
未来
もう痛くない
過去
手を取り合って歩くだけだろう
そう、ずっと。
≪V.S 歌詞より抜粋≫
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歌は「今生きた証」です。
「いつかは星になるこの命」という儚さに圧倒されそうになることもあるでしょう。
しかし、たとえ存在が消えても、残した歌で「その後も繋がり続ける」ことができます。
それが自分の強さになるから「もう怖くない 未来 もう痛くない 過去」とはっきりと言えます。
どのような過去を持っていても、どのような未来が待ち受けていても「手を取り合って歩くだけ」。
単純でありながら最も大切なことが、永遠に続く約束として伝えられています。
VOCALOID STARの熱い想いが心に響く!
大漠波新の『V.S』は、過去作で個々に想いを歌い上げてきたVOCALOID STARたちがひとつになってVOCALOIDとしての心情を表現している楽曲です。これまで長年ボカロ曲を愛してきたリスナーであれば、より感動するフレーズが満載でしたね。
この楽曲を聴きながら、VOCALOIDやボカロ曲への愛をもっと深めていきましょう!