男女の別れを雨になぞらえて描いた「かみばく」のデビュー作
「神が残した夢を喰う。」(通称「かみばく」)は、晴-haru-が手掛けるソロプロジェクト。2023年に、『雨』のリリースを皮切りに活動をスタートさせました。
前身バンドであるNon Stop Rabbitでボーカルを務め、当時のバンドメンバーであるTAITAIを含めた3名がサポートメンバーとして参加しています。
活動期間は短いものの、すでに15作品のデジタルシングルを世に放ち、存在感を示す彼ら。
今回は、デビューシングルの『雨』を掘り下げていきます。
誰しもが経験するであろう大切な人との別れを、雨になぞらえて描く世界観が秀逸。
彼らの音楽が持つ魅力を、歌詞に寄り添いながら徹底考察していきます。
背中越しの「さよなら」が象徴する二人の距離感

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Flashback頭の中に
こびりついて離れてくれない
何も見えないんだずっと
耳を塞いでも聞こえるきみの
「ずっと一緒」
≪雨 歌詞より抜粋≫
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『雨』という楽曲は、男性と女性、それぞれの目線で別れが描かれています。
最初のパートは男性目線で、彼女の笑顔と言葉が焼き付いている様が歌われていますね。
大切な人を失ったあと、その人と過ごしたかけがえのない時間がフラッシュバックして、頭から離れない経験をした人は少なくないでしょう。
二度と戻らぬ時間だからこそ、愛おしい。
手を伸ばしても戻れない過去だから、脳にこびりつくのです。
愛おしく、苦しい記憶。
消えて欲しいと願えば願うほど、胸を締め付けるのでしょう。
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最後まで笑ってた
きっと最初からわかってた?
今はきみが居ない広い部屋で
きみにつけるはずだった
指輪眺めてる
≪雨 歌詞より抜粋≫
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別れを迎えるその時まで、ずっと笑っていた「君」。
もしかすると、突然の別れに戸惑っているのは自分だけなのかもしれない。
別れることを最初から分かっている人など、普通はいないでしょう。
それでも、そう思えてしまうほど、二人の別れに衝撃を受けていることが伝わってきます。
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「さよなら」背中で聞いた声
あの時きみを
注いだ愛が溢れて僕は
きみが見えなくなっていたんだな
≪雨 歌詞より抜粋≫
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「さよなら」の言葉を背中で聞いたということは、二人はすれ違っていたのかもしれません。
気持ちが離れていたのか、彼女の方が、「僕」と向き合おうとしなかったのか。
どちらにせよ、背中越しに告げられた別れのシーンが、二人の心の距離感を感じさせます。
たっぷりの愛を注いだつもりだったのに、溢れかえった愛情で、肝心の「君」が見えなくなる。
愛は盲目だとよくいわれますが、見えなくなるのは相手の悪い部分だけではないのかもしれません。
自分が求める理想の姿を相手に当てはめて、いつしか虚像と向き合うようになる。
「僕」はずっと「君」を見ていたつもりで、本物の彼女とは向き合えていなかったでしょうか。
つけるはずだった指輪だけが形見のように残っているシーンが、ちくりと胸に刺さります。
好きだった人の面影を追いかける日々

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Flashback心は常に
あなたから離れてくれない
何をしてたってずっと
耳を塞いでも聞こえる
≪雨 歌詞より抜粋≫
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二番では、別れを告げた女性目線で歌われています。
自分から別れを告げたはずなのに、「僕」と同じように、二人の時間がフラッシュバックしている現実。
見切りをつけて次の恋に向かったわけではなさそうです。
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愛情に縋ってた
分かり合いたいと思ってた
今はよく知らない人の部屋で
あなたが好きだった映画を眺めてる
≪雨 歌詞より抜粋≫
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二人で築いてきた愛情にすがり、甘んじて、正しい向き合い方を見失ったのでしょうか。
自分から別れたのに忘れられない人。
新たな居場所にいるはずなのに「よく知らない人の部屋」という表現が、虚しさをかき立てます。
大好きだった人から離れて見ているのは、その人が好きだった映画。
ちっとも離れられていないのです。
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「さよなら」あたしが告げたのに
今更だよね わかってるよ
結んだ糸が解けて僕ら
今が見えなくなっていたんだな
≪雨 歌詞より抜粋≫
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自らさよならを告げたのに、二人で過ごした時間が忘れられないという矛盾。
今更戻れやしないのに、後悔がにじみ出ています。
二人を結んでいた糸は解けて、大切な「今」を見失った先にあるのは、愛する人を失った虚しさでしょう。
「よく知らない人」という言葉には、相手に対する愛情は感じられません。
自分の気持ちを紛らわすための恋。
愛情のない、形ばかりの新たな恋を始めてみたのかもしれません。
「雨」のように降り注ぐ後悔と愛情の物語

『雨』という楽曲の歌詞を見ていると、「僕」も「君」も、別れに対して強い未練を抱えていることが分かります。
別れを告げた側も告げられた側も、今でも相手のことを深く愛し、求めているのです。
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重ねた愛もその温もりも
いつか2人は忘れていくんだね
離れた今が正しいって
思えるまでは少しかかりそうだよ
≪雨 歌詞より抜粋≫
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どれほど愛おしい日々も、いつしか当たり前になり、そのありがたさを忘れてしまう。
失った時に味わう後悔も胸の痛みも、やがて忘れていくでしょう。
それでも、二人が別れたことが間違いではなかった、正しい選択だったと思えるには、もうしばらく時間がかかりそうです。
自分から別れたのに、そんな気持ちを抱えてしまうのは、二人が本当の意味で分かり合えていなかったということなのかもしれません。
「僕」は愛情で「君」の姿を見失い、彼女もまた、分かり合いたいと願いながら、今はからっぽの恋愛をしている。
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溢れた愛をまた掬いあげて
解けた糸を結び直せたら
争う夜も許し合う朝も
きみを想って素直に愛せたかな
≪雨 歌詞より抜粋≫
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こぼれ落ちてしまった愛も、解けてしまった糸も、また結び直すことができたら。
もしかしたらあったかもしれない、幸せな未来は、幻のまま終わります。
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重ねた愛もその温もりも
きみは忘れて幸せになってね
≪雨 歌詞より抜粋≫
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重ねた愛をあの温もりを
きみも忘れて幸せになってね
≪雨 歌詞より抜粋≫
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興味深いのは、互いが互いの幸せを願っているように見える歌詞です。
二人で重ねた時間も愛情も温もりも忘れていい。
ただ、幸せになって欲しい。
この歌に溢れているのは後悔と、相手に対する深い愛情です。
別れの歌なのに、未練はあっても恨み辛みはありません。
タイトルにある通り、別れた二人の心には雨が降り、それが晴れる日はまだ来ないようです。
耳を塞いでも消えない声、二人の時間。
幸せだった日々や温もりが心を満たしていたから、それを失った今、雨のように降り注ぎ、脳裏を離れないのです。
恋愛はいつか終わるもの。
その切なさや温かさを、「雨」というタイトルで表現しているところにセンスを感じます。
二人の心を雨から守ってくれる傘は現れるのか、雨はいつ止むのか。
互いを思いやる二人に、幸せな未来が待っていることを願わずにはいられません。