キラキラしている人になりたかった

──まずは夜々さんの音楽ルーツについて聞かせてください。
夜々:両親が音楽好きということもあり、物心ついたときから音楽が流れている環境でした。ディスコミュージックや母が好きだった中森明菜さんなど、たくさんの音楽が身近なところで流れていました。そんな中で自分のルーツはなんだろうと考えると、『ハンナ・モンタナ』と出会ったこと。当時はあまり目立つのが得意なタイプではなかったんですけど、『ハンナ・モンタナ』と出会ってからキラキラした舞台でパフォーマンスする姿に憧れるようになったんだと思います。
──それが音楽的な原体験であると。
夜々:自宅でなりきって歌っていたりもしたので、そこがルーツなのかなと思います。サンタさんに『ハンナ・モンタナ』DVDセットを頼むくらい好きだったんですよね。そこからは兄の影響でAAAのライブDVDを観て、「私もそっち側に行きたい!」と思ったのが今の世界を目指すキッカケでした。
──なるほど。
夜々:キラキラしている人に惹かれていたんだと思います。それこそ、『ハイスクール・ミュージカル』も好きだったし、『ビクトリアス』も、出演していた『アリアナ・グランデ』も大好きだった。ステージで輝きながらパフォーマンスをしている姿に感動して、私もそういう人になりたいと思うようになりました。
──ディスコミュージックや海外ドラマなど、洋楽のエッセンスも夜々さんの中にはあるんですね。
夜々:そうですね。当時は歌詞の意味は分かっていなかったんですけど、耳心地のいいサウンドのものが好きでした。学生時代ダンスを習っていたのもあって、ノリのいいサウンド感も好き。ダンスのおかげで人見知りも改善していきました。
──あらゆる音楽にタッチしていったと思うんですが、中でも夜々さんの中でグッときたジャンルはあるんですか?
夜々:幼少期から聴いていて今でも好きな曲もたくさんありますし、年齢や環境、その時見た景色や過ごす時代によって聴いていくジャンルは徐々に変化していっています。多種多様にいろんなジャンルの音楽を聴きますね。最近はR&Bを好んで聴くようになりました。
表現したい オーディションを受ける日々
──ダンスをキッカケに殻が破れていった、夜々さんが音楽の道を志した理由はなんだったんですか?夜々:学生時代仲のいい友人とギター部という部活動に入部したんです。ひたすらにアコースティックギターを弾く部活なんですけど、初めて弾き語りをしたときに、自分の歌を届けることの楽しさを知って。声がマイクを通して会場に響き渡る、それを聴いてくださる方が「よかったよ」って声を掛けてくれたことが嬉しかったのを憶えています。ダンスの発表とはまた違った高揚感がありました。
──なるほど。
夜々:それまでは、将来の夢はダンスの先生だったんですけど、ギター部に入ってからは、自分を表現する方法って、歌って届けることだなと。それが私の宿命だと思いました。
──それまで、楽器に触れたことはあったんですか?
夜々:ギターが初めてです。本当にダンス一筋の生活を送っていましたから。とはいえ、ギター部と並行してダンスも続けていたので、部活とダンスのレッスンの日々を送っていましたね。だから当時はAAAさんのような、歌って踊れるアーティストになりたかったです。
──そこから今のスタイルになるキッカケは?
夜々:それは、出会いとご縁があってのことですね。とにかくオーディションを受けまくっていたんですよ。たくさんのオーディションも受けましたが、もちろんすぐに受かるわけでもなく……。月日を重ねて、今がある感じです。
──とにかくオーディションを受けた。
夜々:はい。それこそ『ハンナ・モンタナ』に憧れて、ダンスで人見知りも改善して人前に立ちたいという気持ちが表に出てきた。当時はまだ何になるか定まってない状態だったけど、最初はとにかくまずスタートラインに立ちたくて、いろいろなオーディションを受けていました。ギター部に入ってからは、音楽系のオーディションを受けるようになりました。音楽ユニットのオーディションだったり、本当にたくさん!私にとってギターは、歌って届けるというキッカケを与えてくれた、夜々のルーツなのかもしれません。
研ぎ澄まされた感覚が生み出す夜々の楽曲
──目標が定まり、夜々の誕生前夜。オリジナル楽曲に挑戦するタイミングが訪れたのはいつ頃ですか?夜々:楽曲制作に取り組んだのは、音楽活動を始めてからなんです。夜々はデビュー前に1年くらい制作期間があって、夜々としてどういう音楽をやりたいのか考えて作り始めたのが、1曲目にリリースした「Lonely Night」(25年1月リリース)。こういう曲がやってみたいと思って一番最初に提出しました。
──初制作楽曲が、「Lonely Night」ですか?!
夜々:ギター部のときに1曲だけ作った「ベーコンフランス」という「Lonely Night」とはかけ離れた可愛いパンの歌があるんですけど……。きちんと制作したと言えるのは、「Lonely Night」が初作品。楽曲制作に関しては、語彙力もまだまだないですし、天才型というよりは努力型というか。まだまだ自分の中で定まった制作法もないですし、歌詞に関しても勉強中です。
──制作法は定まってないとのことですけど、普段はどのように曲作りをしているんですか?
夜々:ダンスをやっていたのも影響しているかもしれないですけど、自分の中での聴き心地みたいなものを大事にしていて。歌詞よりメロディから先に浮かぶんです。そこからメロディと歌詞がマッチするタイミングがふと訪れる。だから基本的にはサビが浮かんでそこから肉付けをしていって、ブラッシュアップしていく形が多いです。2曲目の「センセーショナル少女」(25年4月リリース)は、自分がライブをするときに「どんな曲を歌いたいかな?」と想像して出来た楽曲。だから頭で考えるよりイメージで作るタイプだと思います。頭で考えるのが苦手で、感覚型だと思います……(笑)。
──テーマやコンセプトを設けることもあまりない?
夜々:それもまちまちなんです。こういう曲を作りたい、こういうテーマで作ろうと思って制作に取り組むこともあるし、ふと思い浮かんだり、自分がライブで歌っているのを想像したときに出てきたり、定まってないんですよ!
──定めないことが夜々さんの最適解なのかもしれない。歌詞についてはどうですか?
夜々:今までは自分の中で表現したいものを歌詞として伝えるときに、聴き心地、韻とか、ライミングを意識して作っていたんですけど、今回の「I Hope」は少し違って。いしわたり淳治さんと一緒に作らせて頂いただいたんですけど、最初にお話をしたとき、「歌詞は料理していくものなんだよ」「歌詞は聴いている人に伝わって初めて歌詞になるから、ちゃんと想像できる言葉を使った方がいい」と教えてくださったときに感銘を受けまして。
今まで自分の中では伝えられていると思っていた歌詞との向き合い方が、今回の共同作業で見直すことが出来たんです。メロディも歌詞も感覚で作っていたんですけど、「I Hope」は自分の音楽人生の中で、いちばん自分と向き合った作品になったと思います。新たな細胞が生まれた感じです。
──夜々さんの歌詞は、ポジティブなエネルギーよりもネガティブなエネルギーをもとに紡がれている気がしているんですけど、そこに関してはどうですか?
夜々:そうなんです。幼少期は人見知り、ダンスを機にポジティブで社交的な性格になって何事も前向きに捉えられるタイプなんですけど、私が書く歌詞って「幸せになってほしい主人公」が存在するんですよ。自分の中にいる人って、ネガティブから構成されているのかなと歌詞を見て気付いた。自分ではポジティブだと思っていたんだけど、本当は幸せになりたいのかなと……。
──それって面白いですね。意識してないということですもんね。
夜々:気づいたらそういう歌詞になっているんですよ(笑)。
誰かの日常の1Pを彩りたい
──最初に作った「Lonely Night」でメジャーデビューを果たした夜々さんですが、当時の心境はいかがでしたか?夜々:本当にずっと夢だったので。というかまだ夢のような気分なんですけど、嬉しい気持ちもあった反面不安な気持ちももちろんありました。自分を表現したいという夢が叶うことは幸せですし、責任感も生まれましたね。「幸せです!」と言い切りたいところですけど、デビュー後の葛藤もありました。
──具体的にどのようなところに葛藤を?
夜々:「Lonely Night」、「センセーショナル少女」、「I Hope」とリリースしていく中で『夜々としての軸はこんな曲』というものがないことが弱みなのか、強みなのか、そこに対して考えた時期があって。
今は自分の気持ちと向き合えるようになって、「音楽って、自由じゃない!?」と思えるようになった。こうならないといけないということはないし、音楽に正解はないと思ったときにどれも私がリリースしたくて好きだなと思った楽曲だから、そこには自信を持ってパフォーマンスしたいという気持ちに辿り着いてから、表現者として、夜々としての気持ちの向き合い方が確立出来たなと。
──闇を抜け出したタイミングで聞きたいんですけど、夜々って言語化するならどんなアーティストですか?
夜々:夜々は、私の希望でもあるんですけど、「心に明かりを灯せるアーティスト」だと思います。音楽に救われた経験が多々あって。喜怒哀楽を音楽が彩ってくれたというか、音楽は私の人生の一部なんです。
私もどこかの誰かが何かのタイミングで聴く音楽の一部になれたら、いいなと。少し悲しいとき、いい日じゃなかったと思うときに夜々の音楽を聴いて、明日も頑張ろうと思ってもらえる、それだけで幸せだと思うから。ただ「あなたの救いに」というふうには思ってなくて、どこかのタイミング、日常の1ページでもいいから寄り添えたらいいなと思っています。
──その信念と夜々さんが見つけた音楽性はマッチしていると思います。日常にはいろんな場面があって、それぞれ思うこともやることも違う中で、さまざまなカラーを持つ夜々さんの楽曲はきっと日常の1ページを彩ると思う。
夜々:うわあ! ありがとうございます!
自分と音楽と向き合い完成した「I Hope」

──6月18日に3rd Digital Single「I Hope」がリリースされました。先ほどいしわたり淳治さんのお話も出てきましたけど、歌詞はいしわたりさんとの共同作業でした。制作はいかがでしたか?
夜々:お会いする前に初稿は完成していたので、それをまずいしわたりさんに見て頂いて、「夜々ちゃんはどういうことを伝えたいんですか?」と言われて、“とある夏の気持ち”を書きましたと言ったときに、「夏だったらもっとこういう言葉を入れたらいいんじゃないかな」とアドバイスをくださったり。本当に緊張しました。
プロの作詞家の方で、いろんな楽曲を書いている方に自分の歌詞を見ていただくのもありがたいですし、プラスアルファで制作をご一緒させていただくって、こんな贅沢なことはない。夜々という人生を歩み始めてから、「夢か?」と思う瞬間がたくさんあって、その中で自分がどう乗り越えていくのか、楽しんでいかないといけないと思う反面、日々喰らいつつ、折れつつ、筋肉痛を感じつつ、成長を繰り返しています。
──いしわたりさんに歌詞を見ていただくって、緊張しますね。
夜々:すごく緊張しました。でも、私の中にしかなかった言葉がいしわたりさんのエキスが入ったことで、歌詞の中の世界をリアルに想像できるようになったと思います。私だけでは絶対に表現できなかった歌詞になりました。
──この曲を「I Hope」というタイトルになるというのがまた憎いというか……。「Hope」という単語のイメージって希望の側面が強い気がするけど、この曲を聴けば確かにそういう側面もあると腑に落ちたんですよね。人に期待するってある種希望で、ある種残酷な部分があると思うけど、その隠の部分が上手く表現されているなと。
夜々:本当にその通りだと思います。
──ただダウナーな雰囲気には一切なってないんですよね。それは鳴るサウンドの妙だと思う。
夜々:こういう曲を作ろうと思ったときに、ひたすらDオンコードで今回は作ったんです。本当にひたすら(笑)。だからこの曲のサウンドも感覚なんですよね。
──夏から想起してあの広がりを持たせたサウンドが生まれると考えると、素晴らしいですね。では、今作は夜々さんの抜群の感覚といしわたりさんの教えから生まれた曲ということですね。
夜々:ありがとうございます。でも、もっと音楽的なロジックを勉強しないといけないなと思います……。楽曲のリファレンスでも「ここでワーッとなってほしいです」としか言えないので(笑)。もっと、共通言語を持ってお話出来たらいいなとは思いますね。
──なるほど(笑)。
夜々:「ここは表参道じゃなくて、新宿っぽく!」とか、そういう感じで言っちゃうんですよ。「それでは分からないです」って言われちゃったりとか……(笑)。
──それが言語化できるようになったら強いけど、夜々さんにはそうなってほしくない気もしますね。
夜々:あはは(笑)。
──改めて、「I Hope」が完成して、夜々さんにとってどんな作品になりましたか?
夜々:音楽を好きになってから随分経つんですけど、初めて自分と音楽と向き合った制作期間でした。その結果、すごく大好きな曲になりました。リリースしたらいつも楽曲が我が子のように思えるんですけど、「I Hope」は聴くと背筋が伸びるというか、自分の曲なのに包み込まれている感覚になるんです。また違った大切な1曲で、過去の2作品とは違った愛情の注ぎ方になっています。
──それってなんでなんだろう?
夜々:いしわたりさんのおかげだと思います。音楽が好きだからこそ悩んだし、音楽が好きだからこそもっと面白いと思いたかった。ここを乗り越えたらもっと音楽が楽しくなるなと思ったのが、今作でした。
──表現することへの欲求がより表に出てきた?
夜々:はい! 最近は音楽楽しい!!と思いながらさらに音楽を好きになれました!
私は死ぬまで歌い続ける
──ここで恒例の質問をさせてください。UtaTenは歌詞を扱うサイトなので、「I Hope」の歌詞の中からお気に入りのフレーズを教えてください。夜々:悩んだんですけど、〈そんな人を好きになったのに なぜか君にまだ 恋してる〉。ここが人間すぎるなと思うんです。この曲って失恋の曲ではなくて、その気持ちも全て肯定して未来に持っていってあげたいという思いがこもった曲なんですね。
このフレーズって幸せになれないことを理解しているし、期待しちゃダメなことも分かってるのに、まだその人のことを好きなことを自分で認めてあげているんですよ。そこがこの曲の伝えたいことだなと思ってて。タイトルのように期待しちゃう、望んじゃうという側面はあるんですけど、自分の気持ちに気付いていて、恋をしてる自分を認めてあげることによってその気持ちを浄化できるというか。このフレーズは好きですね。
──深いですね。リリースして少し経ちましたけど、リスナーの反響も上々なんじゃないですか?
夜々:女性から共感してもらえる声が多くて。ありがたいことに声質を褒めていただくことが多いんですけど、「夜々さんの声にマッチしていて、沁みます」という感想をいただいたり。今まで聴いてくださっていたリスナーさんももちろんですが、今回は特に初めて聴いてくださる女性の方の共感が多い印象があります。
──今作でリスナーの層も広がったと。今後、夜々さんの世界観をより多くの人に広げていくにはどのようなことが必要だと思いますか?
夜々:音楽も大事なんですけど、さまざまな表現の仕方を極めたい。音楽だけじゃなくSNSや映像など、「夜々はこうやっていきたい」ということに明確にピントを合わせて、さまざまな表現方法でリスナーさんに共有していきたいです。「夜々はこうだ」とちゃんと表現できるようになればもっと多くの人に届くのかなと思います。
──これからが楽しみですね! 目標や展望で考えていることはありますか?
夜々:自分に嘘をつかずに日々アップデートしていきたい。ちゃんと自分を届けられるようになりたいです。私にできることは音楽を届けること、だから、私は死ぬまで歌います!
TEXT 笹谷淳介