世代もジャンルも越えた、真夏の午後の音楽体験
天草の海がやさしく波打つ「四郎が浜ビーチ」。白い砂浜の上に組まれた特設ステージを囲むように、子ども連れのファミリー、ティーンの友達同士、カップル、仲間同士などが思い思いに腰を下ろしていた。音楽ライブの開催機会がそう多くない天草に住む人々にとって、こうしたイベントは日常の中の“ご褒美”のような時間。まだ演者が登場する前から、どこか心が踊っているような予感に満ちていた。
その空気が徐々に色づいていく。世代もジャンルも異なる3組のアーティスト──寺中友将(KEYTALK)、SUGARSOUL、nobodyknows+が織りなす音楽の波に、観客たちはぐんぐんと引き込まれていった。
知らない間に手が上がり、声が漏れ、リズムを取っている。音楽は、聴く人の中にある“なにか”を、そっと解放してくれるのだ。
寺中友将(KEYTALK) アコースティックの温度で届ける“また会える喜び”

トップバッターは、熊本出身の寺中友将。KEYTALKは活動休止中だが、その間も全国各地でソロ弾き語りライブを重ねており、KEYTALKファンにとっても「また会える喜び」を届けてくれる存在だ。
熊本のステージに立つ彼は、どこかホーム感をまとっていた。

MCで「さざ波フェスタ、そしてお祭りということでKEYTALKのお祭りソングから盛り上がっていきましょう!」と告げ、「MATSURI BAYASHI」を披露。
アコギ1本でも迫力ある演奏が砂浜に響き渡り、観客はすぐに引き込まれる。途中、「むむむ、このコード進行は…?」とつぶやきながらギターを鳴らすと、nobodyknows+の代表曲「ココロオドル」のワンフレーズを投下。
まさかの選曲とアドリブセンスに、客席にはざわめきと笑みが広がったが、それ以上に感じたのは彼の音楽的な勘と、アコギ1本、生音・生声で“その場で完璧にキメてくる”本物の実力だった。

音楽そのものの持つ快感がリアルタイムで観客の中に流れ込むと「ENJOY!」とお決まりのコールも自然発生。
"はい最高!"と観客を巻き込みながら、「MATSURI BAYASHI」コール&レスポンスへとつなげた瞬間、会場が一体となってライブをつくりあげた高揚感に包まれていた。
「Monday Traveler」では「ダメな自分よ強くなれ」という冒頭の歌詞が詩情豊かな歌声に乗せ胸に染み渡る。
そしてイベントMCより“モノマネが得意”という紹介を受けたことに対して「せっかく優しいフリをいただいたので…」と平井堅とMr.Children・櫻井和寿の二人が歌う「瞳を閉じて」を披露。会場が一瞬で和む、遊び心あるパフォーマンスだった。

そのまま「summer tail」「ブルーハワイ」へ。特に「ブルーハワイ」のサビのメロディは、胸をギュッと掴まれるような切なさの中にそれぞれが感じる懐かしさがあり、会場後方からも惜しみない拍手が送られた。
そして「桜花爛漫」。NHK Eテレ系テレビアニメ『境界のRINNE』オープニングテーマとして起用されていたこともあり、"この曲知ってる!"と顔が晴れ、体を揺らす姿からも楽曲の魅力が伝わってきた。
KEYTALK未体験の来場者たちが自然とステージへ近づいていく、そんな光景が印象的だった。

ラストは「MONSTER DANCE」で締めくくり。イントロの勢いに合わせて歓声とともに手が上がり、ダンスのリズムがビーチを揺らす。
この曲はKEYTALK初期のヒット曲で「musicる TV」「新しいカギ」「FNS27時間テレビ38 日本一たのしい学園祭!」のテーマソングなどに起用されていたこともあり、ビーチ全体に一体感を生み出した。ステージ降壇直前、寺中は有明海をバックに生ビールを豪快一気飲み。観客からは惜しみない拍手が沸き起こった。

SUGARSOUL “生きてる私たち”に語りかける、魂のR&B

2番手に登場したのは、熊本と縁の深いSUGARSOUL。1曲目「s.u.g.a.r.s.o.u.l」でグルーヴィーに空気を温めたあと、「みんなの知ってる曲やろうかな!」と呼びかけると、観客からは大きな"イェーイ!"の声。
「Siva 1999」「Ho-oh〜女神のうた〜」と続く流れは、いわば“大人のパーティー”。開放感と高揚感が同居するような心地よさに、会場全体がゆるやかに揺れていた。

続く「今すぐ欲しい」では、昼間の海辺でありながら、ぐっと色香を帯びた大人のムードに。10代の頃にドキドキしながら聴いたこの曲を、今の自分だからこそ沁みる言葉とメロディがあった。
ガキレンジャーを知ってる人?と問いかければ、観客からははーい!と両手が上がりジャンプする人も。アカペラで餓鬼レンジャー結成地である熊本大震災を受け制作された渾身のメッセージソング「ONE」を披露。その圧倒的な歌唱力に、会場のざわめきがすっと収束していく。

「respectyourself」では「皿洗っただけでも、自分のこと褒めてね!」と笑顔で語りかけながらも、目には鋭くまっすぐな強さが宿っていた。
1日100万回、自分を褒めよう。そんなaicoの言葉に、うんうんと頷く観客の姿が各所にあった。

ラストパートにはアンコールに応えて「いいよ」、そして代表曲「Garden」へ。
ステージ前に観客が集まり、aicoが前方に腰かけて歌えば、空と海、そして音楽が一体化したような美しい空気が流れた。サビ前に「カモン!」と煽れば、会場中が歌声で応える。
曇り空に「みんなが太陽だからちょうどいい」と語ったaicoの言葉が、この場所に確かな“光”を灯した。

しかしその時、音響トラブルが発生。けれどaicoは慌てる様子もなく、「カット!」と温かく言葉を投げると、コール&レスポンスを挟みラストのサビをアカペラで力強く歌い上げ、"愛の庭に"を"愛の天草に"と変えて歌ったラストには、会場中から拍手と指笛、そして感動の声が上がった。
「ハレルヤ!」と締めたのち、「ライブはナマモノ、トラブルはツキモノ。でもみんなと私がいれば大丈夫!」という言葉を残し、凛とした背中でステージを後にした。
アクシデントを“伝説”へと昇華させるその姿に、まさに本物のアーティストとはこういう人のことを言うのだと、誰もが胸を打たれたはずだ。

nobodyknows+ 全世代を巻き込む“ヒップホップお祭り騒ぎ”

DJ MITSUがフロアを温めると、待ってましたとばかりに観客がステージ前へ雪崩れ込む。
お祭りのような高揚感の中、メンバーが次々と登場。その姿が見えるたびに歓声が重なり、1曲目Hero’s Come Back!!」のイントロが鳴った瞬間、フロアは完全に“パーティーモード”に突入した。

アニメ『NARUTO -ナルト- 疾風伝』のオープニングテーマとして知られる「Hero’s Come Back!!」。
冒頭のシャウトで観客のテンションは一気に爆発し、誰もが拳を突き上げる。天草でのライブは初めてというnobodyknows+だが、青春時代のヒーローたちが戻ってきた!と曲名の通りにnobodyknows+世代やその子供世代まで一気に巻き込み会場は開幕から熱狂に包まれた。

間髪入れずに2曲目「Let’s Dance」へ。軽快なビートに合わせて観客が身体を揺らし始める。ヤス一番?のキレのあるラップがフロウで引っ張り、ノリ・ダ・ファンキーシビレサスが独特のリズム感で畳みかける。
ノリノリで歌う坂梨の高速フロウからCrystal Boyの妖艶なパートへ移りヤス一番?へとバトンがつながっていく様子は音楽的にも技術的にも引き込まれるものがある。
メンバーがクラップを煽ると、それに呼応して観客もリズムを刻む。フェスらしいグルーヴ感が会場全体に広がっていた。

続く「Winds of Wins」がスタートするとCrystal Boy、ノリ・ダ・ファンキーシビレサスが高くジャンプ。アッパーで攻めたサウンドが印象的で、観客も上下に身体を揺らすしながら振り落とされないように食らいついていた。
ラップの応酬が続く中でも、4人のコーラスが重なるサビが炸裂。重厚でアンサンブル感のある構成は、まるで“ヒップホップ版アベンジャーズ”のような迫力だ。

4曲目は軽快なサウンドに雰囲気を変え「ワサワサ」へ。ノリノリで歌う坂梨が「みんな知らない曲だって知ってるからどんどん行くから!」と笑わせながら突入。
タイトル通り、観客が両手を振りながらワサワサと揺れる光景が広がる。なじみが薄い楽曲でも、観客の反応が良かったのは、nobodyknows+のライブスキルとエンタメ性の高さゆえだろう。曲の終わりには突然の無音に。メンバーたちが一斉に水を飲むという“吸水タイム”に突入するも、無言でそれをやるシュールさが逆に笑いを呼ぶ。

一拍おいて、メンバーがステージ前に直立し、「なんだ?」という空気が漂ったところで、突然「撮影タイム終了でございます。」と宣言。そんな遊び心もまた、nobodyknows+のライブの魅力のひとつだ。
その後のMCでは、ノリノリで歌う坂梨が「実は僕、熊本の阿蘇で生まれたんですよ」と明かすと、客席から「おおー!」という反応。観客との距離を一気に縮めた流れで、「夏の思い出に…それじゃ行くぜ!『ココロオドル』!」と叫ぶと、歓声とともに曲がスタート。

クラップ、ステップ、ジャンプと、全身を使って盛り上がる観客。リリックに込められた「心躍る瞬間」がこの場に確かに存在していた。1番のラップが終わると、自然な流れでリミックスバージョンへと接続。
「ココロオドル(Remix)」では、よりテンポも上がり。DJ MITSUのミックスによるドロップで一気にボルテージが再上昇。観客は手を挙げ、「ENJOY! IT'S JOIN!」とコール&レスポンスに応じ大人も楽しい祭りの空気が支配する、まさにクライマックスだった。

そしてラストの7曲目「イマイケサンバ」へ。南国テイストのサウンドに合わせ、ステージ上のメンバーが陽気に盛り上げる。
終わるのが惜しくてたまらない時間を全力で楽しむ大人たちの姿が印象的だった。
エンタメ性とヒップホップの本質を絶妙なバランスで融合させ、老若男女問わず観客を楽しませるnobodyknows+のライブは、この日も例外なく“最高”。
まさに「心が踊る」時間を提供してくれたステージだった。

いつかまたこの場所で──天草に残る“さざ波フェスタ”の記憶
2025年で30回目を迎えた、さざ波フェスタ。その節目を祝うスペシャルライブは、ただの記念イベントにとどまらず、天草に集まった人々の胸に深く刻まれる特別な午後となった。親子で手を取り合ってリズムを刻む姿、初めてライブに触れて目を輝かせる子どもたち、青春の真ん中で肩を組んで声をあげる友人同士。どの瞬間にも音楽を感じざるを得ない力があった。
この日ビーチに響いた歌声や手拍子、そして観客たちのまなざしが、"またこの場所で、音楽と出会いたいという"何よりのメッセージだった。
Photo&Text 愛香
アーティスト情報

nobodyknows+
名古屋在住。Crystal Boy、ヤス一番?、ホクロマン半ライス!!!、ノリ・ダ・ファンキーシビレサス、DJ MITSUの、4MC+1DJからなるヒップホップグループ。
2004年、1stフルアルバム『Do You Know?』がオリコンチャート初登場より2週連続1位を獲得、80万枚を超える大ヒットとなり、代表曲「ココロオドル」で NHK紅白歌合戦にも出場。HIP HOPアーティストとしては史上初となる全国47都道府県ツアーも実施。
2011年より地元名古屋のSigma Sounds Studioに移籍。中日ドラゴンズの優勝における複数年のコラボレーション、東海地区の音楽文化活性に注力。
2020年、大人気アニメ「ヒプノシスマイク」に楽曲提供した『Bad Ass Temple Funky Sounds』がオリコン他音楽チャートで軒並み1位を獲得。
また代表曲「ココロオドル」がスカイピース、kiki vivi lilyなど若い世代に絶大な人気を誇るアーティストによってカバー/リリースされ、2022年 YouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」で披露した『ココロオドル』は公開後2ヶ月で2,000万回を超える再生回数を記録するなど、全世代に渡り親しまれるグループに。

SUGARSOUL
1997年にFLAVA RECORDSよりHIPHOPSOUL、R&Bユニットの先駆けとして「Those Days」でインディーズデビュー。
「今すぐ欲しい」でシーンを轟かす。
1998年に朝本浩史氏プロデュースの「悲しみの花に」でAicoのソロとしてメジャーデビュー。
その後も「Garden」がトータルミリオンヒット、「respectyourself」など名曲を出し続け、常にシーンの架け橋となりながらQUEEN of DIVAとして君臨。
鬱の悪化で2000年頃から活動休止状態だったが、十数年のブランクを経て、運命に煽られ徐々にSUGARSOUL AICOとしての活動を再開し、現在はLIVEや客演など呼ばれるまま、氣の赴くままに活動している。
いつも愛と自由の羽ばたく方へ

寺中友将(KEYTALK)
東京・下北沢発4人組ロックバンドKEYTALKのボーカル&ギター。通称、巨匠。
小学校5年生の頃に、音楽デュオ『ゆず』の影響を受け、独学で演奏法を習得するほか、軽音部でコントラバスを演奏するなど、子供の頃から音楽をたしなんでいた。
高校時代には、ギターから離れてボクシングに邁進するも、卒業後は音楽大学へ進学。
KEYTALKとして武道館・横浜アリーナ・幕張メッセ(360°センターステージ)でのワンマンライブを敢行。
2024年8月KEYTALKのバンド活動一時休止に伴い、ソロ活動を中心に活動。
アコースティックライブや大型フェスに積極的に参加し、音楽も人生も止まらずに走り続けている!!