つらく悲しい人生のリアル
2025年7月23日にリリースされたRADWIMPSのデジタルシングル『命題』は、3月31日より日本テレビ系情報番組『news zero』のテーマソングとして書き下ろされました。"未来をプラスに変える"を番組のコンセプトとし、ニュースを深く知ることで明日をより良くし行動を変えるきっかけになることを目指す『news zero』。
作詞作曲を手がけた野田洋次郎は『命題』について、「2025年を生きている僕らのドキュメントとして歌いました」とコメントしています。
いま起きているニュースを自分ごととして捉えるという意味でも、番組と楽曲とのリンクを感じられるでしょう。
どのような内容なのか、さっそく歌詞の意味を考察していきましょう。
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僕たちは見えない明日を一日も休まず
受け入れながらヒビ割れながら 自らツギハギで直して
もしかして明日になれば何か変わるかもなんて
なんて健気でなんて怠惰で なんて幼気な生き物
時に愚かで 稀に狂気に犯されるのも仕方がない
≪命題 歌詞より抜粋≫
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人は誰しも「見えない明日」と向き合い、不安や失敗に耐えながら毎日を懸命に生きています。
その苦労を身に染みて知っているにも関わらず、「もしかして明日になれば何か変わるかも」と希望を捨てきれません。
しかし「なんて健気でなんて怠惰で なんて幼気な生き物」とあるように、人は無力で弱く期待を裏切られてばかりです。
その姿は「時に愚かで」、世の中の「狂気に犯されるのも仕方がない」ことなのかもしれません。
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だけど僕らは「諦めない」をこの遺伝子に刻まれて
呼吸のたびに希望探し求めるよう形作られ
こんなちっぽけな自分だけども誰かのための何かに、なれるよう
願ったんだ
≪命題 歌詞より抜粋≫
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とはいえ、どれほど現実がつらくても遺伝子に組み込まれているかのように強い「諦めない」心を持っています。
「呼吸のたびに希望探し求めるよう形作られ」たのだと思えば、現実がどうあれ前向きでいられるのではないでしょうか。
「ちっぽけな自分」の無力さを感じながらも「誰かのための何かに、なれるよう願ったんだ」という言葉のとおり、自分ではなく他者に目を向けたときに生きる力は湧いてくるように思えます。

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はじめて産まれてきたの 右も左も知るわけないだろう
悲しみとこんなとこで 待ち合わせたつもりなどないけど
どれだけ道迷ったか よりどれだけ間違えなかったか
それが生きた証ならば そんな世界に用などこちとらないから
≪命題 歌詞より抜粋≫
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人生は皆一度きりのため、右も左も分からない状態で産まれてきます。
悲しい出来事に直面したいと思う人は一人もいません。
それなのに短い人生の中で悲しみや苦しみを数多く経験します。
人生の良し悪しが「どれだけ道迷ったか よりどれだけ間違えなかったか」にかかっているのだとしたら、良い人生は空虚なものかもしれません。
そうではなく、何度も道に迷い間違えながらも諦めずに進み続けることこそが生きた証なのだと訴えかけているように感じます。
理不尽な世の中でも君がいるなら生きてみたい

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この世に産まれ堕ちていくらか時が流れたが
世界は僕を見知らぬそぶり 呼び出しといてそりゃないだろう
てめぇのインチキがバレりゃ他所 に五万といると
光の速さ 開き直りで自己避難かわすスルーパス
≪命題 歌詞より抜粋≫
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歳を重ねていくうちに、疎外感や孤独感を覚えることもあるでしょう。
周囲から理解してもらえなかったり、相容れないせいで傷つけられたりもします。
「呼び出しといてそりゃないだろう」と嘆いているように、自分が望んだわけではなく世界に望まれて産まれてきたはずなのに「見知らぬそぶり」をされるのは理不尽です。
産まれてきたからには愛され大切にされたいという純粋な想いゆえの不満が言い表されていますね。
ある人は「インチキ」がバレると、すぐに「他所に五万といる」と開き直ります。
そうして「自己避難」ばかりしているせいで、チャンスの「スルーパス」を自らかわして得られるはずのものを得損なっている人も少なくないでしょう。
関心を向けられることを願うのであれば、自分自身がどう行動するかも大切だという考えが垣間見えます。
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人生上級者たちがまるで幅利かす時代
「白」か「黒」かの二元論が横行 ゆらめきさえ許さず
原告席に溢れ返る人、被告席はもぬけの殻
言葉に刃つき立ててぶん回すようなこの時代に
「平気な顔が上手い選手権」 強制参加の時代に
それでも君がいてくれるなら 明日も生きてみたいと、そう心から
願ったんだ
≪命題 歌詞より抜粋≫
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この世界では「人生上級者」を名乗る人たちが、自分の正義を基準にした「「白」か「黒」かの二元論」を唱えています。
人の心は複雑なのに迷うことも許されないため、生きにくさを感じるのは当然です。
「原告席に溢れ返る人、被告席はもぬけの殻」のフレーズは、理不尽に他者を非難する人が多いことを表しているのでしょう。
自分には無関係のことでも憤り、誰も悪くないことを無責任に責め立てます。
何気ない一言さえ取り上げてあれこれ非難する現代ではどれほど無関心でいられるかを試されていて、まるで「平気な顔が上手い選手権」に強制参加させられているかのようです。
そうした混沌とした世の中にあっても、大切な人がいてくれるなら「明日も生きてみたい」と思えるでしょう。
人との繋がりが生きる意味や勇気になることが示されています。
明日を生きるために続ける希望ごっこ

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諦め方、いなし方 呆れ方と誰かのくさし方
それが時代の装備だって信じる君のその笑い方
いつか消えてしまうのは 憎しみも愛しさも同じだろう
その声の主に僕は今 どんな言葉をかけられるんだろう
悲しみの 先にも
君の声は
トゥールル トゥットゥ トゥールル トゥットゥ
聞こえてくるよ
≪命題 歌詞より抜粋≫
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世の中があまりにも悪いため、主人公の希望だった「君」でさえ諦めたり他人を悪く言ったりすることが世渡りに必要だと信じるようになってしまいました。
「いつか消えてしまうのは 憎しみも愛しさも同じ」です。
主人公は以前憎かった人や愛しかった人に対し、気持ちが変化した今「どんな言葉をかけられるんだろう」と考えています。
大切な人が変わってしまったことを悲しく感じても、その人の声はまだ聞こえています。
善か悪か、好きか嫌いかで決めつけず、変化を受け入れながらそれぞれの想いを知ろうとする姿勢が大切なのではないでしょうか。
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誰もが幸せになれるわけではないこの世界
これを超える真実がどうにも見当たらなくて目眩がする
世界に溢れるほとんどの夢なんか叶わない
それをなんで入学して一番最初の授業で教えない
≪命題 歌詞より抜粋≫
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「誰もが幸せになれるわけではない」というのがこの世界の厳しい現実であり、変えようのない真実です。
誰もが「世界に溢れるほとんどの夢なんか叶わない」ことを痛感しているでしょう。
それなのに学校ではそのことを教えてくれません。
希望を持たせるだけ持たせておいて、厳しい現実に放り出されることへの絶望感と怒りが垣間見えます。

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「君が無駄にした今日は 誰かが生きたがってた今日だ」と
言われたとこでビクとも しない夜だってザラにあるけど
広い海に一滴の 目薬ほどの違いだとしても
僕がここに生まれてきた意味の 一雫を探して彷徨うような日々
「君じゃないと」が聞きたいの 君と僕の(くすぐったいよ) 希望ごっこ
≪命題 歌詞より抜粋≫
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「君が無駄にした今日は 誰かが生きたがってた今日だ」という言葉は、確かに真実です。
この言葉を聞いて心を打たれ、時間を無駄にしないように生きようと思うときもあるでしょう。
しかし、死を身近に感じていないときや気持ちが荒んでいるときには、何とも思わないこともあります。
理屈だけでどうにかなるほど、心も人生も簡単ではありません。
だから「僕がここに生まれてきた意味」を探すのではないでしょうか。
広い海に一滴の目薬を落としてもほとんど何の影響もないものの、その前と後では確かに違いがあります。
見つけようとしている存在理由は、そのような小さくて些細なものなのでしょう。
それでも誰かから一度でも「君じゃないと」と求められたなら、人生はきっと様変わりします。
他人にとっては無意味な「希望ごっこ」かもしれませんが、苦しい日々を少しでも明るくしたいという“諦めない”人間らしい願いが読み取れます。
自分自身の人生をどう生きる?
RADWIMPSの『命題』は世の中の問題をリアルに描きながらも、小さな希望や前向きな見方を教えてくれる楽曲です。タイトルの「命題」とは客観的に真偽を判断できる文章を指す言葉であり、この曲に対してどう感じるかはリスナーに委ねられています。
自分自身の人生をどのような想いでどのように生きるかをじっくり考える判断材料にしてみてください。