宮本浩次×まふまふ×Adoによる日常を彩る歌
Adoの新曲『風と私の物語』は、映画『沈黙の艦隊 北極海大海戦』の主題歌として製作されました。
大沢たかお主演映画『沈黙の艦隊 北極海大海戦』はかわぐちかいじ原作の実写続編で、壮大なスケールが見どころの「北極海大海戦」と「やまと選挙」が描かれています。
その主題歌となる『風と私の物語』の作詞作曲を務めたのは宮本浩次で、女性アーティストへの楽曲提供は本作が初。
制作するにあたってAdoが散歩が好きというエピソードを聞き「Adoさんの目にうつった町のきらめきや、頬に感じる風をイメージ」したと語っています。
また、編曲は今回でAdoとのタッグが三度目となるまふまふが担当しています。
宮本浩次らしい力強いメッセージを含んだ懐かしさを感じるバラードとなっていて、まふまふの編曲により映画にマッチする壮大さを保ちながらも大らかで心地よい響きを含んだ楽曲に仕上がっています。
そして、歌詞ごとに歌声のニュアンスを使い分けるAdoの歌唱が聴く人の様々な心情に寄り添ってくれるでしょう。
楽曲の中にどのような世界が描かれているのか、歌詞の意味を考察していきましょう。
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風と空と雲と街と私
ああ きらめく光と夢抱きしめて私は走る
≪風と私の物語 歌詞より抜粋≫
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冒頭の歌詞では主人公が目線を上げて「風と空と雲」を感じ、目線を下ろして「街」を眺め、最後に自分自身を見つめている様子が見えてきます。
それは自分が自然と社会の中で共存して生きる存在だと意識していることを意味するのでしょう。
人間の手には負えない大きな世界において、自分の価値を大切にする姿勢が垣間見えます。
そして「きらめく光と夢抱きしめて私は走る」という表現から、希望を持って未来へ進んでいくイメージも伝わってきます。
明るく清々しい前向きな心と強さが表現された歌詞です。
あなたと歌が走るための力をくれる

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青く澄んだ空に向かって出かけよう
風に誘われ髪をなびかせて行こう
青く澄んだ空に向かって歌うよ
今の私の全てをあなたに伝えたいから
≪風と私の物語 歌詞より抜粋≫
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「青く澄んだ空に向かって」というフレーズには、開放的な感情が込められています。
その言葉に続く「出かけよう」にも「歌う」にも、前向きな行動力を感じます。
また「風に誘われ髪をなびかせて行こう」の歌詞から、穏やかな情景が思い浮かぶでしょう。
この風を追い風と捉えると、主人公の背中を押す推進力と自由を表していると思われます。
さらに「風に誘われ」という表現には、向かい風の側面もあるのかもしれません。
圧力や困難という風にさらされながらも立ち止まらず進み、状況を切り拓いていく決意が垣間見えますね。
そして「今の私の全てをあなたに伝えたいから」歌うのだと伝えています。
この歌への想いは、次の歌詞にも表現されています。
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子供らがはしゃぐ公園のベンチに座って
幼き日の豊かなメモリー 思わず口ずさんだあの頃の歌
目を閉じて空気を吸い込んで
≪風と私の物語 歌詞より抜粋≫
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この部分では、子供たちの元気な声が響く公園で自分の子供時代の思い出を振り返っているようです。
その思い出には「あの頃の歌」が密接に結びついています。
歌が人生に深く根づいていると感じているからこそ、今の自分のことを大切な人に伝えたいと思うのでしょう。
それほど歌を大切なものと見ていることがわかります。
この楽曲でタッグを組んだアーティストたちの歌に対する想いと、映画における主題歌の持つ意味を感じさせてくれます。
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風と空と雲と街と私が 今ひとつに溶け合って
やさしい光が包む交差点 そう歌とあなたと夢と私の物語
好きさ 風の街 ああ 私は走る
≪風と私の物語 歌詞より抜粋≫
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自然と文化と人の営みが「ひとつに溶け合って」成り立っているのが社会です。
「交差点」は文字通りの道の交差点であると同時に、個人の人生と運命が交わる様子を示してもいます。
「あなた」と「私」が育む絆。「歌」と「夢」が織り成すハーモニー。
どれかひとつでは決して生まれなかった奇跡のような出会いを繰り返しながら、世界は進んでいきます。
「やさしい光が包む」とあるように、そこには明るい希望があります。
現実は幸せなことばかりではありませんが、自分が生きるこの世界を「好き」と思う気持ちが大切です。
「私は走る」というフレーズから、世界の一員として懸命に生きようとする熱い想いが読み取れます。
広い心で全部全部愛したいよ

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私は欲張り 風も雲も木々もあなたも
全部全部抱きしめたいよ 全部全部愛したいよ
一切合切がまるでサヴァイヴする為だけにあるような世界
光と風に包まれた今日の私のやさしい気持ちだけで
ああ あなたを そう抱きしめたいよ
≪風と私の物語 歌詞より抜粋≫
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「欲張り」というと否定的なイメージのある言葉です。
しかし、主人公は「全部全部抱きしめたいよ 全部全部愛したいよ」という想いを欲張りだと表現しています。
その気持ちは言い換えれば、平和を望んでいるということ。
人が出会えば対立し、社会があれば分断が生まれる世の中でその意思を貫くのは難しいことです。
「サヴァイヴ(survive)」は「生き残る」や「存続する」という意味の言葉のため、この世界があまりに過酷で必死に生き抜いていくしかない状況であることを表していると解釈できます。
そんな世界の全てを愛したいと願うのは、確かに欲張りなのかもしれません。
それでも「光と風」、つまり希望と自由に包まれている今の主人公は「あなた」という存在を尊く感じ「抱きしめたい」と思っています。
たとえこの純粋な「やさしい気持ち」でいられる瞬間は少ないとしても、その一瞬一瞬の想いを大切にして全てを受け止めたいと思う心の広さが、人には必要なのかもしれません。
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行き交う人がまぶしい きっとそう私も輝いてる
すれ違いざま子供らに思わず手を振るよ
そう行こうよ 明日へ 夢と私の物語
好きさ 光る街 ああ 私は走る
≪風と私の物語 歌詞より抜粋≫
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「行き交う人がまぶしい」と思うとき、心には少なからず羨ましさがあるでしょう。
しかしここでは「きっとそう私も輝いてる」と続いていて、人を羨む気持ちに飲み込まれず自分を肯定しているのが印象的です。
そうできるのは、きっと自分自身と向き合いながら努力を積み重ねているからです。
「すれ違いざま子供らに思わず手を振る」というシーンは、子供を通して見る自分の過去を受け入れる気持ちと未来への温かな希望、人との繋がりを尊ぶ心情などが込められているように思えます。
たった一人で必死に今を生きているように思えるときも、そばにはふと交わる誰かの人生があり、その先に明日という未来が待っています。
だから前を向き、行動することをやめるなと訴えかけているかのようです。
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強く高くもっと遠くへ 揺るぎない優しさと強さで ああ
届けあなたに私の愛と、そう歌よ
≪風と私の物語 歌詞より抜粋≫
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「揺るぎない優しさと強さ」があれば、誰もが「強く高くもっと遠くへ」進んでいけるはずです。
主人公はそう信じているから歌い続けます。
この言葉を聴いている「あなた」に真っ直ぐに歌を届けたい、そして愛を感じてほしいという切なる想いが心に響きますね。
愛と幸せが詰まった物語を味わおう

Adoの『風と私の物語』は、愛を持って前向きに生きることの素晴らしさと大切さが感じられる楽曲です。
一人ひとりのささやかな幸せが結び合わさって世界の大きな幸せに繋がっていくというメッセージが伝わってきて、日常の情景を捉えながらも壮大なスケールを感じられます。
誠実で“やさしい気持ち”になれるこの歌の魅力を存分に味わってください。
