Fabulous Town 歌詞 降谷建志 ふりがな付

経験したこと、感じたことすべてが、歌い、奏でる音楽になるすべてが音楽になる。
『Everything Becomes The Music』と銘打たれたその一枚は、降谷建志という一人の音楽家の初めてのソロ・アルバムとして世に放たれる。

幕開けに鳴り響く、PC の起動音を模した和音とキーを打つ音。やがてそれはリズムとなり、Dragon Ash のフロントマンであり、数々のプロデュースやコラボレーション、サイドユニットなど、その多様な音楽活動を通して、シーンに大きな軌跡を残して来た彼の新たな一人旅の始まりを告げる。

「出したい音があるからね。使命感でも、強迫観念にかられてやってるわけでもない。単純に創作欲求を押さえられないんだと思う。
しかも、やればやるほどその欲求はどんどん強くなる。そういうすべてを音楽に変換したくなるし、ひとつのものを作ってると次のアイディアが浮かぶ。その繰り返しなんだよね。映画を観てても街を歩いてても、誰かと話しててもそう。

それが孤独で苦しい時もあるけど、作った時の達成感は他のマテリアルじゃ埋まらない。中毒としか言いようがない。Dragon はラウドバンドだし、ダンサーもDJ もいて、良くも悪くも条件が多い。でもソロなら何をやってもいいわけだからね。長く音楽をやっていて、まだ新しいことにチャレンジすることを許されてるのは幸せなこと。だからこれは、プライベートワークでもサイドプロジェクトでもなく、真剣にこの音楽でやっていくという感覚なんだよね」

　なぜソロを始めたのか？　誰もが最初に抱くであろう疑問に、10 代にして音楽界の寵児となった彼はそうきっぱりと答えた。
人として、男として、そして音楽家として、「まだ自分の器を決めたくない」という思いも、彼の意識をソロへと駆り立てた。

「この数年、バンド史上一番なくらいバンドと向き合って、戦うようにツアーをして、『THE FACES』というアルバムを作って、フェスやイベントに出て得た自信も大きい。今このタームで Dragon の曲を作っても『THE FACES』のようなものにはならないだろうし、その自信もない。Dragon をやってることは幸福だし、辞める気もないよ。
誰かとのプロジェクトも今後またやっていくだろうから、じゃあ俺は一人でどういう音楽をやるんだろうという好奇心もあった。

それに、今までやってなかったのがソロだけだったんだよね」
　解き放たれた好奇心が作り上げた『Everything Becomes The Music』。彼がこれまでに経験したあらゆる出来事や感情。
それらがポストロックやフォークトロニカの要素に形を変え、削ぎ落とされたオルタナティヴなギターやピアノの音色となり、メランコリックな旋律を奏でる。英語というコーティングが施されてはいるが、降谷建志の音楽に背中を押されて来た人、今も何かを探し続けている人の魂にまっすぐ響く美しい言葉となり、聞き手の心を魅了して止まない歌声と共にエモーショナルにあふれ出す。いつしかそれは、誰もが胸の奥にしまい込んだ小さな歪みにインクのように滲んで広がり、聞き手それぞれの仄かな希望となるだろう。

「カート・コバーンが使ってた SMALL CLONE っていうエフェクターをアルバムのほぼ全編で使ってるから、もろにオルタナというか、グランジな音になってる。アンビエントやフォークトロニカの要素もあるけど、あくまでもポスト・オルタナティヴロック、みたいなところにきちんと意志を込めた作品が作れたと思う。

歌詞は大半が英語だけど、Dragon よりも音像がひずんでないから歌のニュアンスが出やすいし、すごくメロディックだから、Dragon よりもはるかに聞き易いんじゃないかな。とにかく、自分でも何度も聞けるアルバムに出来たことが良かったと思う」
　Dragon Ash もデモ音源の段階までは彼一人の手で制作されるが、『Everything Becomes The Music』は詞や曲、歌はもちろん、チューニングからすべての楽器演奏、歌録り以外のレコーディング、エディットまでの全作業を降谷自身が一人で行なっている。

しかもそれこそが、ソロとして彼が最も形にしてみたかったことであり、音楽家人生をかけて追求してみたいことでもあった。
「Good Shepherd」や「Dances with Wolves」など、映画の題名を彷彿とさせる曲名もあるように、つまり今回のアルバムは、音楽家、降谷建志の主演、脚本、監督による、自身の人生を描いたロードムービーのようなものと言えるのかもしれない。

「ロードムービー的なアルバムだとは自分でも思う。Dragon Ash が馬車を何台も連ねて旅をする大人数のサーカス団なら、ソロはバックパック一個で、どんな辺境の地でも自分の脚力さえあれば行ける感覚。せっかく英語で歌ってる曲が多いから、アジア圏でもいいし、行けるところに行きたい。願わくば、表面的にも受け入れてもらえて、奥深く聞く洞察力がある人に対しても、何か良さが感じられるアートであればなと思う。キャッチーだけど、知れば知るほど裏側のカオスが怖いぐらいにあるような、ね」

「作りたい曲があり過ぎて、時間も曲数もアルバム 1 一枚では全然足りない。だから出来るだけ早く２枚目のアルバムを作って、ツアーをしたい」と、始まったばかりの彼のソロという旅路は、すでに次の場所を目指している。

未知の可能性と好奇心と尽き果てぬ創作への欲求を糧にして、ペン先のタトゥーが刻まれたその指先は、すべてを音楽に変えていく。

text / 早川加奈子