30年を2時間半で… 歌詞 森山良子 ふりがな付

こんな事ことってあるのね。新宿しんじゅくのデパ地下ちか。
レジに並ならぶ私わたしの目めが懐なつかしい横顔よこがおに釘くぎづけになった。
他人たにんのそら似に? イエ、髪かみには白しろいものが…でも、彼かれだわ。
ドキッ。早はやまる呼吸こきゅう、声こえをかけようかかけまいか、
カゴに入はいったおとうふや泥どろつきゴボウの先さきっぽが揺ゆれている。
こんな事ことってあるのね。若わかい日々ひびの恋こいがよみがえる。
気付きづかないで私わたしに…あ、やっぱり気付きづいて…。
マスカラが目めの下したに落おちてないかしら、
ヤダ、小鼻こばながテカってないかしら。
彼かれがふと振ふりむいて、瞳ひとみと瞳ひとみが重かさなって
照てれくさそうにほほえんだ。
今いまだに恥はずかしがり屋やなのね、あなた。

「元気げんき?」「うん、この通とおり、まあ何なんとか元気げんきにしています。
今夜こんやのおかずを買かってるんだ。そこのおからがおいしいんだ。」
「あ、私わたしも時々ときどきあそこの買かう。おいしいよね。」
あ、なれなれしくないかしら…。
人波ひとなみが消きえてゆく。レジが済すめばそこでお別わかれ。
「ねえ、もし時間じかんがあれば、お茶ちゃでも飲のもうか。」
無口むくちでひっこみ思案じあんだった少女しょうじょは、
長ながい年月ねんげつをえんやこらっと乗のりこえる間あいだに、
たくましく、ずーずーしく変貌へんぼうしているものなの。
「うん、いいよ。」相変あいかわらずもったいぶってるのね。

近頃ちかごろ流行りゅうこうのカフェ。あなたはコーヒー、私わたしはキャラメルマキアート。
そう、中年ちゅうねんの女おんなは新あたらし物好ものずきなの…。それから2時間半じかんはん。
私わたしは3年前ねんまえ多々ただの事情じじょうで、一人ひとりになった。
あなたは2年前ねんまえに伴侶はんりょを亡なくした。
そろそろ定年後ていねんごの暮くらしを考かんがえ始はじめている。
そうか定年ていねんか…お互たがい50も半なかば、もうすぐ四捨五入ししゃごにゅうで60かぁ。
たわいのない想おもい出話でばなしに話はなしは尽つきない、尽つきたくない。

30年ねんを2時間半じかんはんで飛とびこして 二人ふたりの気持きもちは20(はたち)
初はじめてのデート 「真夜中まよなかのカウボーイ」
30年ねんを2時間半じかんはんで飛とびこして 二人ふたりの気持きもちは21
ぎこちのない First Kiss あなたの誕生日たんじょうび

「ご飯はんどうしてるの?」「自分じぶんで作つくるんだ。これが結構けっこう大変たいへんでさ。
時々ときどきこうやってお惣菜そうざい買かうんだ。今いま、おいしい物もの何なんでも揃そろってるからね。」
「そうか、大変たいへんね。」「ま、でも自由じゆうにいろいろ出来できるから、
考かんがえようによっちゃ楽たのしいよ。」
2杯目はいめのキャラメルマキアートのストローが切せつなく空気くうきを吸すっている…。
「ねえ、一杯いっぱいやろうか。」
「そうだな、家いえで誰だれも待まっている訳わけでもないし。
ここだったらあそこのホテルがいいかな。」「え、ホテル?」
「うん、眺ながめもいいし、メシも結構けっこうウマイから。」
「じゃあ、おから入いれといてあげようか。」
泥どろつきゴボウも二ふたつにへし折おって、バッグの底そこに押おし込こめた。

人混ひとごみの中なか、あの頃ころみたいに並ならんで歩あるく。
夕暮ゆうぐれがそろそろ星ほしのカーテンを降おろし始はじめる。愛想あいそのいいウェイターが
「奥様おくさま、ジャケットの方ほうおかけしてよろしかったでしょうか。」
近頃ちかごろ、この何々なになにの方ほう何々なになにしてよろしかったでしょうか、という
訳わけのわからない日本語にほんごがすごい気きになるんだ私わたし。
奥様おくさまか…うふ、奥様おくさまか、そうなってたかも知しれなかった。

30年ねんを2時間半じかんはんで飛とびこして 二人ふたりの気持きもちは20
いつも歌うたってくれた しゃがれた「Blowin' In the Wind」
30年ねんを2時間半じかんはんで飛とびこして 二人ふたりの気持きもちは21
別わかれた理由りゆうが 今いまだに見みつからない

キャンドルライトが揺ゆれている。私わたしの心こころも揺ゆれている。
ライティングはOKよ。目尻めじりのシワが少すこしはごまかせるわ。
「とりあえずビール。」と彼かれ。私わたしはドライな赤あかワイン。
「最近さいきん、食くえなくなってさ。」「あたしも。」
「最近さいきん、飲のめなくなってさ。」「あたしも。」って言いいながら、
イヤダー、私わたしったら、グビグビグビグビ4杯目はいめ。
「女房にょうぼうがね。」「うん。」「女房にょうぼうがさぁ。」
愛あいしているのね、女房にょうぼうを今いまも。
イヤダ、私わたしったら女房にょうぼうに嫉妬しっとしてる。

本当ほんとうの愛あいがどんなものなのか。
傷きずつけ合あう事ことも愛あいし合あうことも知しらなかった少女しょうじょの恋こいがよみがえる。
あれから30年ねん、いろんな事ことがあったわ、私わたしにも。
お互たがいに乗のりこえて来きたのね、様々さまざまな時代じだいを…。
「あ、そろそろ行いかなくっちゃ。久ひさしぶりに楽たのしかった!」「こちらこそ。」
「元気げんきでね。」「君きみも元気げんきで。」
「きっと又また会あえるね。」心こころの中なかでつぶやく。

30年ねんを2時間半じかんはんで飛とびこして 二人ふたりの気持きもちは20
初はじめてのデート 「真夜中まよなかのカウボーイ」
30年ねんを2時間半じかんはんで飛とびこして 二人ふたりの気持きもちは21
ぎこちのない First Kiss あなたの誕生日たんじょうび

いつも歌うたってくれた しゃがれた 「Blowin' In the Wind」
別わかれた理由りゆうが 今いまだに見みつからない