よみ：たわらほしげんば
俵星玄蕃 歌詞
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吉良きら家けにほど近ちかい本所ほんじょ横網町よこあみちょうに宝蔵院ほうぞういん流りゅうの槍やり
を取とっては天下てんかの名人めいじんと云いわれた俵たわら星ほし玄蕃げんばが
居いた。上杉うえすぎの家老かろう千坂ちさか兵部ひょうぶは二百五十にひゃくごじゅう石こくの高こう
禄ろくを以もって召抱めしかかえようと使者ししゃを立たてた、勿論もちろん
吉良きら家けの附ふ人じんとしてである。だが夜よるなきそば
屋や当あたり屋や十じゅう助たすけこそ赤穂あこう浪士ろうしの世よを忍しのぶ苦心くしんの
姿すがたと深ふかく同情どうじょうを寄よせていた玄蕃げんばは之これを決然けつぜんと
断ことわった。
玄蕃げんば
「のうそば屋やお前まえには用ようの無ないことじゃがまさかの時ときに役やくに立たつかも知しれぬぞ
見みておくがよい。」十六じゅうろく俵ひょうの砂すな俵だわらの前まえにすっくと立たった俵たわら星ぼし、
思おもわず 雪ゆきの大地だいちに正座せいざして 息いきをころして見みつめる杉野すぎの
ああこれぞ元禄げんろく名槍譜めいそうふ
一いち. 槍やりは錆さびても 此この名なは錆さびぬ
男おとこ玄蕃げんばの 心意気こころいき
赤穂あこう浪士ろうしの かげとなり
尽つくす誠まことは 槍やり一筋ひとすじに
香かおる誉ほまれの 元禄げんろく桜さくら
二ふた. 姿すがたそばやに やつしてまでも
忍しのぶ杉野すぎのよ せつなかろ
今宵こよい名残なごりに 見みておけよ
俵たわらくずしの 極意ごくいの一手いって
これが餞はなむけ 男おとこの心こころ
涙なみだをためて振返ふりかえる。
そば屋やの姿すがたを呼よびとめて、
せめて名前なまえを聞きかせろよと、
口くちまで出でたがそうじゃない
云いわぬが花はなよ人生じんせいは、
逢あうて別わかれる運命うんめいとか
思おもい直なおして俵たわら星ほし
独ひとりしみじみ呑のみながら、
時ときを過すごした真夜中まよなかに、
心こころ隅田すみたの川風かわかぜを
流ながれてひびく勇いさましさ
一打ひとうち二に打うち三さん流ながれ
あれは確たしかに確たしかにあれは、
山鹿やまが流儀りゅうぎの陣太鼓じんだいこ
「時ときに元禄げんろく十じゅう五年ごねん十二月じゅうにがつ十四日じゅうよっか、江戸えどの夜風よかぜ
をふるわせて響ひびくは山鹿やまが流儀りゅうぎの陣太鼓じんだいこ、しか
も一打ひとうち二に打うち三さん流ながれ、思おもわずハッと立上たちあがり、
耳みみを澄すませて太鼓たいこを数かぞえ「おう、正ただしく赤穂あこう浪士ろうしの討うち入いりじゃ」助太刀すけだちするは此この時ときぞ、
もしやその中なかに昼間ひるま別わかれたあのそば屋やが居いりわせぬか、名前なまえはなんと今一度いまいちど、逢あうて別わかれが告つげたいものと、けいこ襦袢じゅばんに身みを固かためて、
段だん小倉おぐらの袴はかま、股立ももだち高たかく取とり上あげ、白しら綾あやたたんで後うしろ鉢巻はちまき眼めのつる如ごとく、なげしにかかるは先祖伝来せんぞでんらい、俵たわら弾正だんじょう鍛きたえたる九きゅう尺しゃくの手槍てやりを右みぎの手てに、切戸きりどを開あけて一足ひとあし表おもてに踏ふみ出だせば、
天てんは幽暗ゆうあん地ちは凱々がいがいたる白雪しらゆきを蹴立けたてて行手ゆくては松坂町まつさかちょう……」
吉良きらの屋敷やしきに来きて見みれば、
今いま、討うち入いりは真最中まっさいちゅう
総大将そうたいしょうの内うち蔵之助くらのすけ。
見みつけて駆かけ寄よる俵たわら星ほしが、
天下てんか無双むそうのこの槍やりで、
お助太刀すけだちをば到いたるそうぞ、
云いわれた時ときに大石おおいしは深ふかき御恩ごおんはこの通とおり、
厚あつく御礼おれいを申もうします。
されども此処ここは此このままに槍やりを納おさめて
御お引上ひきあげ下くださるならば有難ありがたし、
かかる折おりしも一人ひとりの浪士ろうしが雪ゆきをけたててサク、
サク、サク、サク、サク、サク、サク―
サク―
「先生せんせい」
「おうッ、そば屋やか」
いや、いや、いや、いや、
襟えりに書かかれた名前なまえこそ
まことは杉野すぎのの十兵次殿じゅうべいつぐどの、
わしが教おしえたあの極意ごくい、
命いのち惜おしむな名なをこそ憎にくしめ、
立派りっぱな働はたらき祈いのりますぞよ
さらばさらばと右左みぎひだり。
赤穂あこう浪士ろうしに邪魔じゃまする奴やつは、
何人なんびとたりとも通とおさんぞ、
橋はしのたもとで石突いしづき突ついて、
槍やりの玄蕃げんばは仁王立におうだち……
三さん. 打うてや響ひびけや 山鹿やまがの太鼓たいこ
月つきも夜空よぞらに 冴さえ渡わたる
夢ゆめと聞ききつつ 両国りょうこくの
橋はしのたもとで 雪ゆきふみしめた
槍やりに玄蕃げんばの 涙なみだが光ひかる
を取とっては天下てんかの名人めいじんと云いわれた俵たわら星ほし玄蕃げんばが
居いた。上杉うえすぎの家老かろう千坂ちさか兵部ひょうぶは二百五十にひゃくごじゅう石こくの高こう
禄ろくを以もって召抱めしかかえようと使者ししゃを立たてた、勿論もちろん
吉良きら家けの附ふ人じんとしてである。だが夜よるなきそば
屋や当あたり屋や十じゅう助たすけこそ赤穂あこう浪士ろうしの世よを忍しのぶ苦心くしんの
姿すがたと深ふかく同情どうじょうを寄よせていた玄蕃げんばは之これを決然けつぜんと
断ことわった。
玄蕃げんば
「のうそば屋やお前まえには用ようの無ないことじゃがまさかの時ときに役やくに立たつかも知しれぬぞ
見みておくがよい。」十六じゅうろく俵ひょうの砂すな俵だわらの前まえにすっくと立たった俵たわら星ぼし、
思おもわず 雪ゆきの大地だいちに正座せいざして 息いきをころして見みつめる杉野すぎの
ああこれぞ元禄げんろく名槍譜めいそうふ
一いち. 槍やりは錆さびても 此この名なは錆さびぬ
男おとこ玄蕃げんばの 心意気こころいき
赤穂あこう浪士ろうしの かげとなり
尽つくす誠まことは 槍やり一筋ひとすじに
香かおる誉ほまれの 元禄げんろく桜さくら
二ふた. 姿すがたそばやに やつしてまでも
忍しのぶ杉野すぎのよ せつなかろ
今宵こよい名残なごりに 見みておけよ
俵たわらくずしの 極意ごくいの一手いって
これが餞はなむけ 男おとこの心こころ
涙なみだをためて振返ふりかえる。
そば屋やの姿すがたを呼よびとめて、
せめて名前なまえを聞きかせろよと、
口くちまで出でたがそうじゃない
云いわぬが花はなよ人生じんせいは、
逢あうて別わかれる運命うんめいとか
思おもい直なおして俵たわら星ほし
独ひとりしみじみ呑のみながら、
時ときを過すごした真夜中まよなかに、
心こころ隅田すみたの川風かわかぜを
流ながれてひびく勇いさましさ
一打ひとうち二に打うち三さん流ながれ
あれは確たしかに確たしかにあれは、
山鹿やまが流儀りゅうぎの陣太鼓じんだいこ
「時ときに元禄げんろく十じゅう五年ごねん十二月じゅうにがつ十四日じゅうよっか、江戸えどの夜風よかぜ
をふるわせて響ひびくは山鹿やまが流儀りゅうぎの陣太鼓じんだいこ、しか
も一打ひとうち二に打うち三さん流ながれ、思おもわずハッと立上たちあがり、
耳みみを澄すませて太鼓たいこを数かぞえ「おう、正ただしく赤穂あこう浪士ろうしの討うち入いりじゃ」助太刀すけだちするは此この時ときぞ、
もしやその中なかに昼間ひるま別わかれたあのそば屋やが居いりわせぬか、名前なまえはなんと今一度いまいちど、逢あうて別わかれが告つげたいものと、けいこ襦袢じゅばんに身みを固かためて、
段だん小倉おぐらの袴はかま、股立ももだち高たかく取とり上あげ、白しら綾あやたたんで後うしろ鉢巻はちまき眼めのつる如ごとく、なげしにかかるは先祖伝来せんぞでんらい、俵たわら弾正だんじょう鍛きたえたる九きゅう尺しゃくの手槍てやりを右みぎの手てに、切戸きりどを開あけて一足ひとあし表おもてに踏ふみ出だせば、
天てんは幽暗ゆうあん地ちは凱々がいがいたる白雪しらゆきを蹴立けたてて行手ゆくては松坂町まつさかちょう……」
吉良きらの屋敷やしきに来きて見みれば、
今いま、討うち入いりは真最中まっさいちゅう
総大将そうたいしょうの内うち蔵之助くらのすけ。
見みつけて駆かけ寄よる俵たわら星ほしが、
天下てんか無双むそうのこの槍やりで、
お助太刀すけだちをば到いたるそうぞ、
云いわれた時ときに大石おおいしは深ふかき御恩ごおんはこの通とおり、
厚あつく御礼おれいを申もうします。
されども此処ここは此このままに槍やりを納おさめて
御お引上ひきあげ下くださるならば有難ありがたし、
かかる折おりしも一人ひとりの浪士ろうしが雪ゆきをけたててサク、
サク、サク、サク、サク、サク、サク―
サク―
「先生せんせい」
「おうッ、そば屋やか」
いや、いや、いや、いや、
襟えりに書かかれた名前なまえこそ
まことは杉野すぎのの十兵次殿じゅうべいつぐどの、
わしが教おしえたあの極意ごくい、
命いのち惜おしむな名なをこそ憎にくしめ、
立派りっぱな働はたらき祈いのりますぞよ
さらばさらばと右左みぎひだり。
赤穂あこう浪士ろうしに邪魔じゃまする奴やつは、
何人なんびとたりとも通とおさんぞ、
橋はしのたもとで石突いしづき突ついて、
槍やりの玄蕃げんばは仁王立におうだち……
三さん. 打うてや響ひびけや 山鹿やまがの太鼓たいこ
月つきも夜空よぞらに 冴さえ渡わたる
夢ゆめと聞ききつつ 両国りょうこくの
橋はしのたもとで 雪ゆきふみしめた
槍やりに玄蕃げんばの 涙なみだが光ひかる
