よみ:ゆきがたににっき
雪ヶ谷日記 歌詞
-
あがた森魚
- 2015.3.1 リリース
- 作詞
- 稲垣足穂「雪ヶ谷日記」より
- 作曲
- あがた森魚
友情
感動
恋愛
元気
結果
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雪ゆきヶが谷たに寮りょうは、閑静かんせいな避暑ひしょホテルとも取とれるカッテージ風ふう建物たてもので
部屋数へやかずは約やく八十はちじゅう
明あかるい食堂しょくどうや円形えんけいの湯ゆぶねのあることが判わかった
スペイン瓦がわらの赤あか屋根やねを前景ぜんけいにして、馬込まごめ村むらの丘おか々おかの横顔よこがおがあり
その手前てまえを横切よこぎって時々ときどきおもちゃのような汽車きしゃが通過つうかする
菊きくの花はなをちぎって まき散ちらしたような星ほし
サーチライトは着物きものの井いげたのようだ
星せい標ひょう機きが旋回せんかいする
トウモロコシの葉はっぱが翻ひるがえって
菊きくの花はなをちぎって まき散ちらしたような星ほし
明方あけがた、洋服ようふく箪笥たんすのある部屋へやで目めを醒さまして
窓まどの外そとにべらぼうに大おおきな星ほしを見みた
馭者ぎょしゃ座ざは、ちょうどその上方じょうほうにあり
右寄みぎよりにオリオンの蝶々ちょうちょうにせり上あがっている
菊きくの花はなをちぎって まき散ちらしたような星ほし
サーチライトは着物きものの井いげたのようだ
夕方ゆうがた、屋上おくじょうのヤグラに登のぼって、半月はんつきのおもてに西洋せいよう婦人ふじんの横顔よこがおを探さぐった
天上界てんじょうかい
そしてここから一様いちように見渡みわたすことのできる下界げかいの樹々きぎ
戦争せんそうなどは歴史れきしのうわっつらのサザナミだ
何なにもかも昔むかしのままで、しばしの悪夢あくむを見みていたのだという気きがする
(八月はちがつ十七日じゅうしちにち)
星せい標ひょう機きが旋回せんかいする
トウモロコシの葉はっぱが翻ひるがえって
星せい標ひょう機きが旋回せんかいする
屋上おくじょうのパノラマ風景ふうけい
馬込まごめ村むらの一郭いっかく、木立こだちをまじえた起伏きふくが
ワーズワースという名なを連想れんそうさせる
透明とうめいな空気中くうきちゅうをカラスが三羽さんば帰かえって行いく
更さらに西方せいほうを渡わたり鳥どりが過すぎて行いった
その下方かほうに、真紅しんくに縁取ふちどられた怪異かいいな雲くもが突つっ立たっている
進駐軍しんちゅうぐんにそなえて、女おんなの子こと食糧しょくりょうがあわててかくされつつある
(八月はちがつ十九日じゅうくにち)
中庭なかにわにそよぐトウモロコシの葉はずれ
日々ひびに人々ひとびとが減へって行いく広ひろい館やかたの淋さびしい午後ごご
夕方ゆうがたの展望台てんぼうだいで兄あにと幼おさない弟おとうととの対話たいわ-
弟おとうと「兄にいちゃん、あの山やまと富士山ふじさんと同おなじかい」
兄あに「くっついているけど、富士山ふじさんの方ほうが向むこうにあるんだぞ」
弟おとうと「兄にいちゃん、お月様つきさまは生いきてるんかい」
兄あに「知しらないよ」
弟おとうと「じゃ誰だれが廻まわしているの」
兄あに「だれも廻まわしてなんかいるもんか」
弟おとうと「じゃなぜ動うごくの。雲くもも生いきているんかい。よう、教おしえておくれよ」
(八月はちがつ二十日はつか)
天候てんこう回復かいふく
風かぜ吹ふいて断雲だんうんしきりに東ひがしへ飛とび、星ほし標しめ機きが旋回せんかいする
トウモロコシの葉はが翻ひるがえって、草々そうそうが光ひかりながらなびいている
空そらの青あおをここに移うつした露草つゆくさの一点いってん!
郵便局ゆうびんきょくの横よこで、女おんなの子このノートらしい一片いっぺんをひろった
「菊きくの花はなをちぎって まき散ちらしたような星ほし
サーチライトは着物きものの井いげたのようだ」
と、そのノートに鉛筆えんぴつで書かいてあった
(八月はちがつ二十四日にじゅうよっか)
だいだい色いろと紺色こんいろのぼかしの真まん中なかに引ひっかかった白銀はくぎんの弓ゆみ
ヘブル人じんが眺ながめ、ヨブの眼めに映うつったのと同おなじ新月しんげつ
一昨日いっさくじつ、新宿しんじゅくで、白しろい星ほしを描えがいた、ワゴンを連つらねて乗のり込こんでくる、
アメリカ騎兵隊きへいたいを見みた
ヘルメットをかむった蝋人形ろうにんぎょうの大部隊だいぶたい
これを茫然ぼうぜんと見みやる群集ぐんしゅう
浦上うらがみ天主堂てんしゅどうにおける一いち万人まんにんの犠牲ぎせいも合あわせて
すべては新あたらしい『旧約聖書きゅうやくせいしょ』のページを繰くっている気持きもちである
(九月くがつ九日ここのか)
射さすようなヴィナス
秋日和あきびより
藤色ふじいろの富士山ふじさん
物もの皆みんなに くっきりと秋あきの影かげがついている
(九月くがつ十七日じゅうしちにち)
部屋数へやかずは約やく八十はちじゅう
明あかるい食堂しょくどうや円形えんけいの湯ゆぶねのあることが判わかった
スペイン瓦がわらの赤あか屋根やねを前景ぜんけいにして、馬込まごめ村むらの丘おか々おかの横顔よこがおがあり
その手前てまえを横切よこぎって時々ときどきおもちゃのような汽車きしゃが通過つうかする
菊きくの花はなをちぎって まき散ちらしたような星ほし
サーチライトは着物きものの井いげたのようだ
星せい標ひょう機きが旋回せんかいする
トウモロコシの葉はっぱが翻ひるがえって
菊きくの花はなをちぎって まき散ちらしたような星ほし
明方あけがた、洋服ようふく箪笥たんすのある部屋へやで目めを醒さまして
窓まどの外そとにべらぼうに大おおきな星ほしを見みた
馭者ぎょしゃ座ざは、ちょうどその上方じょうほうにあり
右寄みぎよりにオリオンの蝶々ちょうちょうにせり上あがっている
菊きくの花はなをちぎって まき散ちらしたような星ほし
サーチライトは着物きものの井いげたのようだ
夕方ゆうがた、屋上おくじょうのヤグラに登のぼって、半月はんつきのおもてに西洋せいよう婦人ふじんの横顔よこがおを探さぐった
天上界てんじょうかい
そしてここから一様いちように見渡みわたすことのできる下界げかいの樹々きぎ
戦争せんそうなどは歴史れきしのうわっつらのサザナミだ
何なにもかも昔むかしのままで、しばしの悪夢あくむを見みていたのだという気きがする
(八月はちがつ十七日じゅうしちにち)
星せい標ひょう機きが旋回せんかいする
トウモロコシの葉はっぱが翻ひるがえって
星せい標ひょう機きが旋回せんかいする
屋上おくじょうのパノラマ風景ふうけい
馬込まごめ村むらの一郭いっかく、木立こだちをまじえた起伏きふくが
ワーズワースという名なを連想れんそうさせる
透明とうめいな空気中くうきちゅうをカラスが三羽さんば帰かえって行いく
更さらに西方せいほうを渡わたり鳥どりが過すぎて行いった
その下方かほうに、真紅しんくに縁取ふちどられた怪異かいいな雲くもが突つっ立たっている
進駐軍しんちゅうぐんにそなえて、女おんなの子こと食糧しょくりょうがあわててかくされつつある
(八月はちがつ十九日じゅうくにち)
中庭なかにわにそよぐトウモロコシの葉はずれ
日々ひびに人々ひとびとが減へって行いく広ひろい館やかたの淋さびしい午後ごご
夕方ゆうがたの展望台てんぼうだいで兄あにと幼おさない弟おとうととの対話たいわ-
弟おとうと「兄にいちゃん、あの山やまと富士山ふじさんと同おなじかい」
兄あに「くっついているけど、富士山ふじさんの方ほうが向むこうにあるんだぞ」
弟おとうと「兄にいちゃん、お月様つきさまは生いきてるんかい」
兄あに「知しらないよ」
弟おとうと「じゃ誰だれが廻まわしているの」
兄あに「だれも廻まわしてなんかいるもんか」
弟おとうと「じゃなぜ動うごくの。雲くもも生いきているんかい。よう、教おしえておくれよ」
(八月はちがつ二十日はつか)
天候てんこう回復かいふく
風かぜ吹ふいて断雲だんうんしきりに東ひがしへ飛とび、星ほし標しめ機きが旋回せんかいする
トウモロコシの葉はが翻ひるがえって、草々そうそうが光ひかりながらなびいている
空そらの青あおをここに移うつした露草つゆくさの一点いってん!
郵便局ゆうびんきょくの横よこで、女おんなの子このノートらしい一片いっぺんをひろった
「菊きくの花はなをちぎって まき散ちらしたような星ほし
サーチライトは着物きものの井いげたのようだ」
と、そのノートに鉛筆えんぴつで書かいてあった
(八月はちがつ二十四日にじゅうよっか)
だいだい色いろと紺色こんいろのぼかしの真まん中なかに引ひっかかった白銀はくぎんの弓ゆみ
ヘブル人じんが眺ながめ、ヨブの眼めに映うつったのと同おなじ新月しんげつ
一昨日いっさくじつ、新宿しんじゅくで、白しろい星ほしを描えがいた、ワゴンを連つらねて乗のり込こんでくる、
アメリカ騎兵隊きへいたいを見みた
ヘルメットをかむった蝋人形ろうにんぎょうの大部隊だいぶたい
これを茫然ぼうぜんと見みやる群集ぐんしゅう
浦上うらがみ天主堂てんしゅどうにおける一いち万人まんにんの犠牲ぎせいも合あわせて
すべては新あたらしい『旧約聖書きゅうやくせいしょ』のページを繰くっている気持きもちである
(九月くがつ九日ここのか)
射さすようなヴィナス
秋日和あきびより
藤色ふじいろの富士山ふじさん
物もの皆みんなに くっきりと秋あきの影かげがついている
(九月くがつ十七日じゅうしちにち)