忍しのぶ姿すがたの 哀あわれさに
真まこと、武士ぶしなら 泣なかずに居いよか
時ときは元禄げんろく ゆく春はるに
咲さくも華はななら 散ちるも華はな
男おとこ立花りっか 名なは左近さこん
松まつの並木なみきに 灯あかりがゆれて
今いま宵泊よいどまりは 鳴海なるみの宿しゅくか
夢ゆめは遥はるかな 江戸えどの空そら
めぐり合あわせの 糸車いとぐるま
誰だれが解とくやら つなぐやら
「何なにんとこの宿やどに、立花たちばな左近さこんが泊とまってい
る?黙だまれ!吾われこそは、まこと九條くじょう関白かんぱくの名な
代だいとして江戸えどは、東ひがし叡山えいざん寛永寺かんえいじに献上けんじょうの
品々しなじなを宰領さいりょうして東ひがしへ下くだる、立花たちばな左近さこんじゃ。
えゝッ、その曲者くせもののもとへ案内あないを致いたせ。」
音おとに名高なだかき東海道とうかいどう
鳴海なるみの宿やどの日暮ひぐれ時どき
本陣ほんじん宿やどの玄関げんかんを
足音あしおと荒あらく踏ふみ鳴ならし
奥おくの座敷ざしきへ進すすみゆき
ガラリと開あけた大おお襖ふすま
ハッと思おもわず立花たちばなが
目めを見晴みはらすも無理むりじゃない
去年きょねん三月さんがつ十四日じゅうよっか
松まつの廊下ろうかの刃傷にんじょうで
家いえは断絶だんぜつ身みは切腹せっぷく
無念むねんの涙なみだのみながら
散ちった浅野あさのの定紋じょうもんが
荷物にもつの上うえに掛かけてあり
左近さこんと名乗なのる曲者くせものの
羽織はおりの紋もんはありゃ確たしか二ふたつ巴どもえじゃ
おう、この人ひとが内うち蔵之助くらのすけ
仇あだを討うつ日ひが近ちかいのか
東下あずまくだりの行列ぎょうれつは
夜討ようち道具どうぐを運はこぶのか
じっと見みつめる立花たちばな左近さこん
見返みかえす大だい石内いしうち蔵之助くらのすけ
物ものは言いわねど両りょうの目めに
滲にじむ涙なみだが万感ばんかんの
想おもいとなってほとばしる
武士ぶしの辛つらさも哀あわれさも
知しっていますぞ
男おとこ、同士どうしの胸むねの裡うち。
「あゝああ恐おそれ入いりましてござりまする、お名な前まえをかたりましたる罪つみはお許ゆるし下くだされ。
さて、この目録もくろくはすでに拙者せっしゃに要ようのない品しな、関白かんぱく殿下でんか直筆じきひつのこの御ご書状しょじょうをお持もちになれば、関所せきしょ、宿場しゅくばも無事ぶじにお通とおりなさるゝでござりましょう。
江戸えどへ下くだった暁あかつきは目指めざす仇かたきを討うち晴はらし、あ、いやいや、目出度めでたく務つとめを果はてたさ
れまするようお祈いのり致いたしておりますぞ。」
罪つみを破やぶって 爽さわやかな
笑顔えがお残のこして 去さりゆく左近さこん
哭ないて見送みおくる 内うち蔵之助くらのすけ
庭にわの紅葉こうようの 霜しも白しろく
月つきは明あかるく 冴さえ渡わたる
時ときは来きにけり十二月じゅうにがつ
十じゅうと四日よっかの雪ゆきのよる
勇いさむ四十七よんじゅうなな人にんが
目指めざすは本所ほんじょ吉良きら屋敷やしき
山道やまみちだんだら火事かじ羽織はおり
白しろき木綿もめんの袖そでじるし
山やまと川かわとの合言葉あいことば
表門おもてもんから二十にじゅうと三人さんにん
裏門うらもんよりも二十にじゅうと三人さんにん
総大将そうたいしょうは内うち蔵之助くらのすけ
殿とのの無念むねんと武士もののふの
意地いじと天下てんかの政道せいどうを
正ただしさんものと火ひと燃もえて
打うつか山鹿やまがの陣太鼓じんだいこ
今いまは本所ほんしょの侘住居わびずまい
貧乏びんぼうぐらしはしていても
心こころは錦にしきの立花りっかは
遠とおく聞きこゆる太鼓たいこの音おとに
布団ふとんをけって立たち上のぼり
耳みみを澄すませて指ゆびを折おり
あれは確たしかに山鹿やまが流りゅう
広ひろい日本にっぽんで打うつ者ものは
松浦まつうら肥前ひぜんの御隠居ごいんきょか
千坂ちさか兵部ひょうぶか後あと一人ひとり
播州ばんしゅう赤穂あこうの大石おおいしじゃ
今宵こよいはたしか十四日じゅうよっか
さてこそ殿とのの命日めいにちに
討入うちいりしたか内うち蔵之助くらのすけ
よくぞやったぞ 嬉うれしいぞ
膝ひざを叩たたいてほめながら
哭ないた左近さこんの横顔よこがおに
雪ゆきが降ふります ハラハラと
雪ゆきが降ふります ハラハラと。
忍shinoぶbu姿sugataのno 哀awaれさにresani
真makoto、武士bushiならnara 泣naかずにkazuni居iよかyoka
時tokiはha元禄genroku ゆくyuku春haruにni
咲saくもkumo華hanaならnara 散chiるもrumo華hana
男otoko立花rikka 名naはha左近sakon
松matsuのno並木namikiにni 灯akariがゆれてgayurete
今ima宵泊yoidomariはha 鳴海narumiのno宿syukuかka
夢yumeはha遥haruかなkana 江戸edoのno空sora
めぐりmeguri合aわせのwaseno 糸車itoguruma
誰dareがga解toくやらkuyara つなぐやらtsunaguyara
「何naniんとこのntokono宿yadoにni、立花tachibana左近sakonがga泊toまっていmattei
るru?黙damaれre!吾wareこそはkosoha、まことmakoto九條kujou関白kanpakuのno名na
代daiとしてtoshite江戸edoはha、東higashi叡山eizan寛永寺kaneijiにni献上kenjouのno
品々shinajinaをwo宰領sairyouしてshite東higashiへhe下kudaるru、立花tachibana左近sakonじゃja。
えeゝッxtu、そのsono曲者kusemonoのもとへnomotohe案内anaiをwo致itaせse。」
音otoにni名高nadakaきki東海道toukaidou
鳴海narumiのno宿yadoのno日暮higuれre時doki
本陣honjin宿yadoのno玄関genkanをwo
足音ashioto荒araくku踏fuみmi鳴naらしrashi
奥okuのno座敷zashikiへhe進susuみゆきmiyuki
ガラリgarariとto開aけたketa大oo襖fusuma
ハッhaxtuとto思omoわずwazu立花tachibanaがga
目meをwo見晴mihaらすもrasumo無理muriじゃないjanai
去年kyonen三月sangatsu十四日juuyokka
松matsuのno廊下roukaのno刃傷ninjouでde
家ieはha断絶danzetsu身miはha切腹seppuku
無念munenのno涙namidaのみながらnominagara
散chiったtta浅野asanoのno定紋joumonがga
荷物nimotsuのno上ueにni掛kaけてありketeari
左近sakonとto名乗nanoるru曲者kusemonoのno
羽織haoriのno紋monはありゃhaarya確tashiかka二futaつtsu巴domoeじゃja
おうou、このkono人hitoがga内uchi蔵之助kuranosuke
仇adaをwo討uつtsu日hiがga近chikaいのかinoka
東下azumakudaりのrino行列gyouretsuはha
夜討youちchi道具douguをwo運hakoぶのかbunoka
じっとjitto見miつめるtsumeru立花tachibana左近sakon
見返mikaeすsu大dai石内ishiuchi蔵之助kuranosuke
物monoはha言iわねどwanedo両ryouのno目meにni
滲nijiむmu涙namidaがga万感bankanのno
想omoいとなってほとばしるitonattehotobashiru
武士bushiのno辛tsuraさもsamo哀awaれさもresamo
知shiっていますぞtteimasuzo
男otoko、同士doushiのno胸muneのno裡uchi。
「あゝaa恐osoれre入iりましてござりまするrimashitegozarimasuru、おo名na前maeをかたりましたるwokatarimashitaru罪tsumiはおhao許yuruしshi下kudaされsare。
さてsate、このkono目録mokurokuはすでにhasudeni拙者sessyaにni要youのないnonai品shina、関白kanpaku殿下denka直筆jikihitsuのこのnokono御go書状syojouをおwoo持moちになればchininareba、関所sekisyo、宿場syukubaもmo無事bujiにおnio通tooりなさるrinasaruゝでござりましょうdegozarimasyou。
江戸edoへhe下kudaったtta暁akatsukiはha目指mezaすsu仇katakiをwo討uちchi晴haらしrashi、あa、いやいやiyaiya、目出度medetaくku務tsutoめをmewo果hateたさtasa
れまするようおremasuruyouo祈inoりri致itaしておりますぞshiteorimasuzo。」
罪tsumiをwo破yabuってtte 爽sawaやかなyakana
笑顔egao残nokoしてshite 去saりゆくriyuku左近sakon
哭naいてite見送miokuるru 内uchi蔵之助kuranosuke
庭niwaのno紅葉kouyouのno 霜shimo白shiroくku
月tsukiはha明aかるくkaruku 冴saえe渡wataるru
時tokiはha来kiにけりnikeri十二月juunigatsu
十juuとto四日yokkaのno雪yukiのよるnoyoru
勇isaむmu四十七yonjuunana人ninがga
目指mezaすはsuha本所honjo吉良kira屋敷yashiki
山道yamamichiだんだらdandara火事kaji羽織haori
白shiroきki木綿momenのno袖sodeじるしjirushi
山yamaとto川kawaとのtono合言葉aikotoba
表門omotemonからkara二十nijuuとto三人sannin
裏門uramonよりもyorimo二十nijuuとto三人sannin
総大将soutaisyouはha内uchi蔵之助kuranosuke
殿tonoのno無念munenとto武士mononofuのno
意地ijiとto天下tenkaのno政道seidouをwo
正tadashiさんものとsanmonoto火hiとto燃moえてete
打uつかtsuka山鹿yamagaのno陣太鼓jindaiko
今imaはha本所honsyoのno侘住居wabizumai
貧乏binbouぐらしはしていてもgurashihashiteitemo
心kokoroはha錦nishikiのno立花rikkaはha
遠tooくku聞kiこゆるkoyuru太鼓taikoのno音otoにni
布団futonをけってwokette立taちchi上noboりri
耳mimiをwo澄suませてmasete指yubiをwo折oりri
あれはareha確tashiかにkani山鹿yamaga流ryuu
広hiroいi日本nipponでde打uつtsu者monoはha
松浦matsuura肥前hizenのno御隠居goinkyoかka
千坂chisaka兵部hyoubuかka後ato一人hitori
播州bansyuu赤穂akouのno大石ooishiじゃja
今宵koyoiはたしかhatashika十四日juuyokka
さてこそsatekoso殿tonoのno命日meinichiにni
討入uchiiりしたかrishitaka内uchi蔵之助kuranosuke
よくぞやったぞyokuzoyattazo 嬉ureしいぞshiizo
膝hizaをwo叩tataいてほめながらitehomenagara
哭naいたita左近sakonのno横顔yokogaoにni
雪yukiがga降fuりますrimasu ハラハラharaharaとto
雪yukiがga降fuりますrimasu ハラハラharaharaとto。