6月7日にニューシングル『Arma』をリリースするGRAPEVINEが、全国8公演で繰り広げた対バンツアー「GRUESOME TWOSOME」の千秋楽を開催。Zepp Osaka BaysideにてUNISON SQUARE GARDENと共に自身のデビュー20周年を飾りました。
ライブレポート
GRAPEVINEが5曲入りのアルバム『覚醒』でデビューして2017年で20年。その佳節を記念したツアー「GRUESOME TWOSOME」が5月28日、彼らの地元である大阪で幕を下ろした。今回のツアーは全8か所それぞれに違ったバンドを迎えたライブとなっており、初日の東京はユニコーン。中盤の名古屋ではストレイテナー、仙台ではOGRE YOU ASSHOLE、セミファイナルの広島では麗蘭と、GRAPEVINEが背中を追いかける存在である憧れのバンドや、同時期に音楽活動をスタートしたバンド、GRAPEVINEを聴いてきた後輩にあたるバンドなど、幅広い顔ぶれを招聘。最終日の大阪は、かつて学生時代にGRAPEVINEをコピーし、「2、3曲どころじゃなく軽く20曲はコピーしていたし今でも歌詞を見ないで歌える」という斎藤宏介(Vo&G)率いるUNISON SQUARE GARDEN。
UNISON SQUARE GARDENの音楽には、妙なる引力がある。初めて耳にする人でもグイッと引きつけるだけの溶け込みやすさを彼らの音楽はあらかじめ持っていて、それはアニメ番組の主題歌になった「オリオンをなぞる」や「シュガーソングとビターステップ」で彼らを知った人なら全員が頷くだろう。
しかし、彼らの音楽が持つ引力の本当の出どころは、そのフレンドリーな表面を突き抜けたところにあるんじゃないだろうか。一聴すると糖度高めに響く斎藤の歌声が印象的な彼らの曲には、一度口にしたらじわじわと全身に広がっていく中毒成分のようなものが音の隙間や行間に見事にちりばめられていて、だから何度も味わいたくなるのだろう。罠を仕掛けるように何かを狙ってそうしているのではなく、音に演奏に、そしてステージににじみ出てしまうのだ。
ステージを右から左へ踊るように駆けまわり、コーラスする時以外は1秒たりともじっとしていないメインソングライターでもあるベースの田淵智也。気づいたら演奏中、立ち上がって吼えながらドラムを叩いている鈴木貴雄。きれいに収まるだけじゃ満足しないいびつな3ピースは、あらゆるものを吸収してしまえる柔軟性を持った熱さが痛快で、鉄壁というゴツさや暑苦しさはなく、むしろスマートに音楽を鳴らしているように見えるけれど実はがっつりと骨太。それをこの日のライブでも見せつけてくれた。
そんな、いつも以上に濃いステージで攻めた後輩バンドの後に登場したGRAPEVINEは、自分たちのステージに初めて触れるであろうお客さんへの配慮か、日ごろあまりMCらしいMCをしない彼らが、冒頭に「こんばんは」と挨拶をし、それにどよめくGRAPEVINEフリークがいて初っ端から二重、三重におもしろい。
重心低めの曲を軽やかに鳴らす「ふれていたい」に始まり、続くニューウェーヴ×エレクトロ=これが信じられないぐらい気持ちいい「Golden Dawn」ではさっきまで両手を上げステージに向かって拳を突き出していたフロアの人々を一気に煙に巻くようなセッションを繰り広げる。
ロックバンドにありがちなコール&レスポンスもなければ、フロントの田中和将が「イェーイ」とか「歌え」「踊れ」と客を煽るところを20年間一度も見たことがない。踊る人もいれば、音に合わせて揺れるのに身を任せる人、歌いながら拳を突き上げる人もいるし、ただ聴き入っている人もいる。一人一人が自由に好きなようにその場を楽しめばいいということを、彼らは言葉ではなく音楽でステージでこの20年間教えてくれていたことを改めて知る。
「新曲をやります」と紹介した「Arma」は、GRAPEVINEの持つ陽の性質を前面に押し出した色鮮やかな曲。「Armaは武器という意味で、20年目にして武器を持ちました」と唇の端に苦笑を湛えて紹介していたが、そう言いながら曲の中で「武器はいらない」と歌っているのも彼ららしい。
こちらの予想や、予定調和などというものはあっけなく崩れ、それ以上のものを見せつけるのがこのバンドの流儀だ。その新曲「Arma」から、一気に20年間をさかのぼるデビュー曲の「覚醒」は、色あせないどころか新曲と同じだけの鋭さとタフさがどっしりと曲の中に息づいていることを思い知らされた。
アンコールの1曲目に歌った「スロウ」はバンド初期の大名曲。久々にナマで聴くこの曲に触れて、何という色気をはらんだ芳醇な曲であるかを知る。その色気とは、バンド名の由来でもあるマーヴィン・ゲイなどのソウルミュージックや、レッド・ツェッペリンなど60年代、70年代の音楽をたぶん空気のように彼らが吸収し滋養としてきたあたりに端を発するものなのだろう。
以前に西川弘剛が「デビュー当時から“早熟なバンド”と言われ続けてきたけど、スティーヴィー・ワンダーなんて早熟どころか子供の頃から音楽をやっていたし僕らなんて全然普通」と話していた。GRAPEVINEの音楽を聴くたびに、知るほどにもっと深くへと足を踏み入れたくなる。その思いは不思議なことに年々強くなっている。
掘れば掘っただけ出会える何かがあることを知ってしまったからだろうか。「先はまだ長そうだ」と歌う20年目の新曲「Arma」を聴きながら、これから先に広がるGRAPEVINEの未来に思いをはせずにいられない。
written by 梶原有紀子
pics by 日吉"JP"純平