五島の風と光が織りなすアート体験！てとば美術館vol.4《久保晶個展：潮風の町》レポート

新たな芸術の息吹、五島列島「てとば美術館」に久保晶氏の個展が開催

長崎県五島市、豊かな自然に抱かれた五島列島に、2025年4月、新たな芸術の拠点「てとば美術館」が誕生します。そして、開館後まもない2025年9月14日（日）から10月31日（金）まで、同館の第4回目の展示として、画家・久保晶氏による個展《潮風の町》が開かれる運びとなりました。五島での滞在制作を通じて、島の空、風、季節の移ろいと深く対話し、その精神的重層性を捉えた新作が、この歴史的建造物を再生した空間に据えられます。「五島の記憶をアートで記録する」というてとば美術館の理念と、久保晶氏の自然との対話が生み出す表現が響き合う、珠玉の展覧会となることでしょう。この注目のイベントは「ながさきピース文化祭 2025」認定事業としても名を連ねています。

久保晶 個展「潮風の町」 開催概要

場所の記憶を紡ぐ「てとば美術館」の魅力

「てとば美術館」という名には、「五島の時間と記憶を、アートで受け継ぐ場所」という深い想いが込められています。かつて地域の人々の営みを記憶し続けた写真館や書道教室の建物が、時を超え、アートを未来へ手渡す空間として息を吹き返しました。

美術館を訪れる際、私たちは展示作品そのものに意識が集中しがちですが、てとば美術館では、作品とともに「場所の記憶」をも深く感じ取ることができます。歴史を刻んだ建物の梁や壁、窓から差し込む柔らかな光、そして五島特有の潮風。これらすべてが、展示されるアートと一体となり、ここでしか味わえない特別な体験を生み出すでしょう。地域固有の文化とアートの力が融合し、忘れ去られがちな五島の風景や物語をそっとすくい上げ、未来へと継承していく。その大切な役割を、この小さな美術館が担っています。

久保晶が五島で描く「潮風の町」の世界

今回の個展の中心となるのは、アーティスト・久保晶氏が五島に滞在し、現地の自然と真摯に向き合いながら制作した新作の数々です。彼の作品は、星空、月、風、木々といった自然の造形をモチーフに、独自の下地と色彩で表現されることで広く知られています。

久保氏は2018年に東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻を卒業後、同大学院を修了した実力派の画家です。近年は国内に留まらず、上海やブリスベンなど海外でのグループ展にも参加し、その活躍の場を広げています。特に注目すべきは、彼が積極的に取り組む「滞在制作」という手法です。現地に身を置き、その土地の空気や光、季節の移ろいを五感で感じ取ることで、表面的な風景描写を超え、作品に深い精神性が宿るのではないでしょうか。

今回の五島での滞在制作も、まさにその真髄を捉えています。島の澄んだ空、肌を撫でる潮風、刻々と移り変わる光や色彩、そして島に暮らす人々の穏やかなリズム。これらすべてがキャンバスの上で、久保氏の繊細な筆致を通して再構築され、「潮風の町」というタイトルにふさわしい、感覚的な世界を創り出しています。絵画作品に加え、滞在中に生まれた絵皿などの多様な作品も展示されるとのことで、彼の多角的な表現にも期待が高まります。てとば美術館の空間で、久保晶氏の作品群がどのように五島の自然と人々の暮らしのリズムと静かに響き合うのか、ぜひ現地でその空気感を肌で感じてみてください。

五島の思い出を持ち帰るアート体験と地域創生の試み

展覧会の鑑賞だけでなく、自らの手でアートを創造する喜びを体験できるワークショップも開催されます。オーブン陶土を使い「自分だけの絵皿・ブローチ・マグネット」を作る、特別な機会です。

ワークショップは各回2回1セットで、初回で成形し、2回目で色付けと完成品を持ち帰るという、じっくりと創作に没頭できる工程が魅力です。定員が各回5名と少人数制のため、より丁寧な指導を受けられ、旅の素晴らしいアクセントとなるでしょう。五島の豊かな自然にインスピレーションを得て、世界に一つだけのオリジナル作品を創作してみてはいかがでしょうか。

てとば美術館を運営する「合同会社 te to ba」は、長崎県五島列島の富江町を拠点に活動し、美術館事業の他にもカフェ〈te to ba〉、ゲストハウス〈ta bi to〉、そして「五島ウェディング」のプロデュース事業を展開しています。これらの事業はすべて「住み続けられる島をつくる」という共通の理念のもとに、有機的に連携していることに深く感銘を受けます。観光客が五島を訪れ、カフェで食事を楽しみ、ゲストハウスに宿泊し、アートに触れる。その魅力を知った人々が、五島での新たな暮らしを考え、人生の節目を五島で迎える。

てとば美術館は、単なる展示施設ではなく、五島の記憶と表現が交差する「場」として、この壮大な地域創生の取り組みにおいて重要な役割を担っています。アートの力で地域の価値を再発見し、人と人、人と地域をつなぐ。その試みが、五島という美しい島で着実に進められていることに、私は深い共感を覚えました。

五島列島で紡がれるアートと未来の物語

五島列島の豊かな自然と、地域に根ざした新しい美術館、そしてそこに招聘される久保晶氏の作品が織りなす《潮風の町》。この秋、五島を訪れることで、あなたは単なる観光を超えた、精神的充足感に満ちた旅を体験できることでしょう。美しい島の風景とともに、アートが紡ぐ記憶と未来を、ぜひご自身の目と心で感じ取ってみてください。五島という場所が持つ深い魅力を、久保晶氏の繊細な表現を通して再発見する、貴重な機会となるはずです。