唯一無二の緻密で確信的な音楽性で魅せるKing Gnu
King Gnuは日本の4人組ロックバンドです。メンバーそれぞれが多方面から影響を受け作り上げられた音楽性は「Tokyo New Mixture Style (トーキョー・ニュー・ミクスチャー・スタイル)」と称されます。
そのためKing Gnuの音楽にはロックに限らず、ジャズやクラシックなど様々な要素が含まれています。
その上でJ-POPらしいキャッチーさのあるメロディと、常田大希と井口理のツインボーカルで生み出される唯一無二の世界観が魅力です。
「King Gnu」という一風変わったバンド名は、春になるにつれ巨大な群れを形成するGnu(ヌー)が由来。
自分たちの音楽で老若男女を群れに巻き込んでいきたい、という願望が込められているのだそう。
滲んだ窓で隔てられた、愛し合うわたしとあなた
----------------
ねえ お願いこの手を牽き寄せ
幸せの向こう側まで連れてってよ
このまま人波に溺れそうだわ
硝子窓に滲むあなた尻目に
有り触れた夜に飲まれてくわたし
≪硝子窓 歌詞より抜粋≫
----------------
本楽曲は、そんなフレーズから始まります。
タイトルにもなっているこの「硝子窓」という言葉が表す意味とは何でしょうか。
それは恐らく、息づかいすら感じられるほどに近くにいて、その姿も見えているのにしかし、透明な壁に阻まれ触れられない……そんな二人の関係性。
ここで描かれる硝子窓とは、見えない心の壁です。
しかも、不用意に手を伸ばしたら粉々に割れてお互いを傷付けてしまうような、そんな脆く危うい壁なのです。
また、「硝子窓に滲む」という表現。
本来、硝子に映る姿は鏡のようにくっきりとした輪郭をしています。
それが滲んでいるのは雨か涙か、どちらにせよ主人公の深い悲しみを感じさせる描写です。

----------------
お守りにしていた
頼りない運命を
失くした時に
何に縋ればいい
≪硝子窓 歌詞より抜粋≫
----------------
この歌詞に物語られる想い合う二人は、苦境に立たされています。
それでも今の今まで真っ直ぐ立っていることができたのは、二人が幸福な未来へ向かう運命のもとにいると信じていたからでしょう。
しかし、それは失われてしまった。
運命とは目には見えず、証明することのできないもの。
些細な出来事で信じられなくなるそれは、お守りにするには随分と頼りなく脆いものでした。
----------------
張り裂けそうな時
亡くした言葉を何時だって
あなたは探し出してくれた
≪硝子窓 歌詞より抜粋≫
----------------
「なくした」という言葉に、ここでは異なる漢字が用いられています。
「失くした」よりも「亡くした」のほうが、より死のにおいが漂います。
より遠いところに落としてしまった、取り返しのつかないような喪失。
しかし、あなたはそんなもう戻って来ない言葉たちを何度だって探し出してくれた。
きっとそのひたむきで真摯な愛は、二人が頼りのない運命を信じるためには十分なものだったのでしょう。

----------------
心の軋む音を奏でて
乾いた痛みの数を数えて
僕等は大人に成ってゆくものよ
だから泣かないでくれよハニー
≪硝子窓 歌詞より抜粋≫
----------------
心の軋む音、それはたまらなく辛く、聞くも鳴らすも苦しみの伴うものでしょう。
しかしここでは「奏でる」という言葉が用いられる。
この二人はそうして、苦しみを希望に変換しながら生きてきたのです。
はじめて「わたし」ではなく「僕等」という複数形を伴って語られる大人への成り方も相まって、二人のお互いの愛し方を汲み取ることができます。
しかし、そんな二人も今は滲む硝子窓に隔てられているのです。
痛みも歪みも乗り越えて、愛する人は自分で迎えに行く

----------------
ねえ お願い高速を飛ばして
悲しみの向こう側まで連れてってよ
今日だけは総てに糸目は付けないの
≪硝子窓 歌詞より抜粋≫
----------------
この歌詞は一見、悲しみの向こう側というハッピーエンドまで手を引いてもらうのを待っているように聞こえます。
しかし本楽曲のMVで描かれるのは、険しいハイウェイの道のりをタクシーに乗って駆けていく女性の姿です。
「今日だけは総てに糸目は付けない」。
この歌詞はMVに映し出される、大金を運転手に渡し、愛する者のもとへ向かう女性に重なります。
悲しみの向こうにいるあなたを待つのではない。わたしは自分自身で痛みも歪みも乗り越え、あなたの元へと向かっているのです。

----------------
誰かが決めた宿命や
変えられない運命の中で
生き抜く意味を探し続けたい
弱さは負けじゃない
壊れたら直せばいいよ
誰もが一悪を以って歪さ笑って
≪硝子窓 歌詞より抜粋≫
----------------
続く歌詞も、力強い希望のメッセージが綴られます。
頼りなかった運命。それを信じ続けることは難しいことです。
しかし、そんな困難の中でも生きることを諦めない意味とは何か考え続けること。
弱いことも、壊れてしまったことも終わりではない。
誰もが歪んだ部分を持っていて、しかしそれでも生きていく。
この言葉は悲しみの向こう側へ行ってしまったあなたと、それに手を伸ばす自分自身に対して言い聞かせているような歌詞です。

----------------
あなたはわたしで
どこまでもちがって
あなたはわたしで
いびつそのままで
≪硝子窓 歌詞より抜粋≫
----------------
あなたはわたし。
しかしどこまでも違う他人である。
同じ苦しみを共有することはできても、二人の間には確かに透明な壁が存在します。
それは運命という壁かもしれませんし、二人の間に存在する心の壁かもしれません。
いつかあなたを迎えに行った先でも、そこには硝子窓が存在するかもしれない。
だとしても、透明で脆い壁は無理に割るのではなくそのままに、お互いの抱えた歪さもそのままで。
密接に混ざり合うように、そうして触れあうことができないからこそ、二人はお互いの傷や歪みすら大事に守り、愛することができるのかもしれません。
----------------
独りでは成り立たない
煩わしき愛おしきこの世界
≪硝子窓 歌詞より抜粋≫
----------------
そこに確かな壁が存在したとしても、もはやわたしの世界にあなたという人が現れてしまった。
とうの昔から独りきりでは成り立たなくなってしまった。
そんな煩わしく、不自由な世界こそが美しく、愛しく、離れがたいのです。

----------------
硝子窓に映るあなたはわたし
他人事では居られないあなたはわたし
≪硝子窓 歌詞より抜粋≫
----------------
「硝子窓」はそうして締めくくられます。
硝子窓は未だそこに存在していますが、もう滲んでいません。
あなたはわたし。
完全に同じになれなかったとしても、他人事ではいられない。
それを愛と呼ばず何と呼ぶのでしょうか。
同じにはなれない関係と運命に希望を見出す「硝子窓」

「硝子窓」は、脆い運命や取り払えない心の壁ごと相手を愛する、救いを描いた楽曲です。
弱い心でも、先へ進むことができる。
歪なままでも、存在し続けることができる。
すべて分かり合えなかったとしても、一緒にいることはできる。
硝子の窓が隔ててあったとしても、運命に抗うことはできる。
儚く仄暗い曲調ですが、歌詞にはそんな力強い肯定と希望が込められています。
この曲が気になった方は是非、King Gnuの他の活動もチェックしてみてください。
