町あかりは、平成生まれのシンガーソングライター。25歳にもかかわらず、楽曲も歌唱も見た目の雰囲気も芸名も、昭和感満載なのが特徴です。はじめて見ても、その昭和感で懐かしさ一杯になるでしょう。おそらく、昭和を知らない世代にさえも「懐かしい」と感じさせる力を持っています。
町あかりは、『もぐらたたきのような人』『さっきも聞いたわその話』『ウットリしちゃう』など、タイトルからして昭和要素の強い曲を持っています。
その中で、今回とりあげるのは『コテンパン』。「コテンパン」という言葉もいかにも昭和です。最近は、あまり聞かないですね。コテンパンとは、徹底的に叩きのめすこと。もともと「こてんこてん」という表現があり、「こてんこてんにしてやる!」と使っていたんですね。それが「コテンパン」になりました。「こてんこてん」は、「こってり」からの変化である、と言われています。こってりやられているわけですね。
“だからコテンパン コテンパンなの あいつのこと
そうよコテンパン コテンパンなの 頭の中で
面と向かって言えたら こんなふうに
そうよコテンパン コテンパンなのね パパン!パパン!”
コテンパンを繰り返すサビが可愛い曲です。「こてんぱーん!こてんぱーん!」というフレーズが一回聴いただけで耳に残ることでしょう。町あかりの伸びる歌声が、このフレーズを明るく楽しいものにしています。
「正直あんまり好きじゃない」「自分勝手でなんでもワガママ」な人をコテンパンにしたい。そういう気持ちをストレートに歌っている曲です。「面と向かって言えたら」というフレーズがあるように、面と向かって言えない気持ちを歌にしています。この感情も、非常に日本人らしいですね。この曲が、昭和っぽい懐かしい雰囲気を感じさせるのは、日本人の心理を巧みに歌詞にしているからだとも言えます。
“あの人正直 あんまり好きじゃないの
だけどじっくり 観察してたら
自分勝手で なんでもワガママなとこ
実は私に 似てるかも”
2番に入り、「だけどじっくり観察してたら」ときます。嫌いな人のことをよく観察したんですね。この「観察」という単語も町あかりならでは。町あかりは、ものごとをよく観察しているのです。だからイラストも上手いんですね。
「自分勝手でワガママなとこ 実は私に似てるかも」と、自分と照らし合わせます。「自分が嫌いな人は自分と似ている人だ」ということは、よく言われます。この歌は、自分自身を振り返る曲でもあるんですね。「面と向かって言えない 私も悪い」と自己反省までします。このあたりの真面目なところも日本人的。日本人は、積極的に叩くよりも、むしろ自己反省しがちです。この「他人への怒り」から「自分への反省」の感情の流れが見事。これで聴き手も、この曲を受け入れやすくなっているのです。
公式MVでは、ピコピコハンマーを持った町あかりが、この曲を歌いながら浅草の街中を走ります。浅草というチョイスもさすがですね。昭和の時代の空気を今も残しています。
この曲は、「コテンパン」にしてやりたい、という願望を歌った曲です。いわば、他人を攻撃してやりたいという気持ちを歌った楽曲。しかし、全体的に優しく明るい雰囲気になるのが、町あかり流。聴いている側が、町あかりの魅力にコテンパンにされるのです。
TEXT:改訂木魚(じゃぶけん東京本部)