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深夜の孤独な2時間弱。cinema staffの「望郷」が僕らに教えてくれること

故郷は、あなたにとってどんな場所ですか? 懐かしい場所。ときどき帰る場所。大切な人のいる場所。もしくは、もう戻りたくない場所。人の数だけ、さまざまな思いがあるだろう。 故郷のことを思い出して少しセンチメンタルな気分になったら、cinema staffの「望郷」を聴いてみてほしい。


故郷は、あなたにとってどんな場所ですか?
懐かしい場所。ときどき帰る場所。大切な人のいる場所。もしくは、もう戻りたくない場所。人の数だけ、さまざまな思いがあるだろう。

故郷のことを思い出して少しセンチメンタルな気分になったら、cinema staffの「望郷」を聴いてみてほしい。



「進撃の巨人」「遊☆戯☆王 ARC-V」など、アニメの主題歌で知られることも多い4人組バンド・cinema staff。この曲は、岐阜県出身の彼らが、上京して2年半という自らの節目のタイミングでリリースしたアルバム『望郷』のリードトラック。
ある日の深夜にふと故郷のことを思い返す、静かな時間帯のことを歌ったものだ。

――――
灯りを消したのは時計の針が二時を越えたあたり。
ため息の数だけディスプレイに映し出される虚構。
忘れ物が何かということすら忘れてしまったな。
星降る夜なのに、窓の外を見ることも無く眠る。

その孤独と手を取り合うあなたはとても美しい。
でも、未来と手を取り合うあなたは更に美しいでしょう。

灯りを点けたのは時計の針が四時を越えたあたり。
21号にはまだ静けさが残り車も無い。
――――

「灯りを消したのは」「灯りを点けたのは」。この2カ所から浮き上がってくるのは、深夜の2時間弱、一人で過ごす部屋の静けさ。
悩みごとがあって、眠れなかったのか。あるいは、眠りに落ちたけれど、明日がくるのが憂うつで目が覚めてしまったのか。いずれにしても、ちょっとやるせない状況だ。

「ため息」「ディスプレイ」は、手に持ったスマホの画面に流れては消えていく、SNSの短いコメントを連想させる。
スマートフォンがシェアを伸ばして、Twitterが日本で流行しはじめたのが、2010年代の始め。この『望郷』というアルバムは、ちょうどそんな渦中の2013年に発表されている。
SNSで簡単に人とつながれるようになった、都会での生活。でも、実は一人になるとより大きな孤独を感じてしまう、そんな夜。

――――
21号にはまだ静けさが残り車も無い。
――――

この「21号」というのはcinema staffの出身地・岐阜県~滋賀県へ至る一般国道で、東京都内は通っていない。つまり、窓の外の現実じゃなく、頭の中にある情景。
孤独を感じて眠れない明け方、ふと思い出す故郷の風景は、やけにクリアで胸に迫るものがある…。

いちどでも生まれた土地を離れて暮らしたことのある人なら、こんな状況、思い当たるんじゃないだろうか。
上京する時に抱いていた夢や希望。全部なくなったというわけではないけど、日常を過ごすうちに、何かが少しずつすり減っている。疲れてる。
たくさんの新しい人に出会って、新しいことに挑戦したら、それはある意味あたりまえなのだけど…。
めまぐるしく変わる流行や、とてつもない情報量の渦の中で生活していると、深夜に一人になってふと思い悩んでしまう。
「忘れ物が何かということすら忘れてしまったな。」と。

「眠れない」とか「淋しい」とか、ひと事も書いているわけじゃない。
でも、この数行で深夜の独特の物悲しさを表現してしまうcinema staff。これが真の”エモさ”ってやつなんじゃないか。
私も淋しいとき、この曲を聴いて胸を詰まらせた夜は数えきれない。大きな声では言えないけど。

そして、この曲に詰まった思いは”孤独”や”やるせなさ”だけでは終わらない。

――――
その孤独と手を取り合うあなたはとても美しい。
でも、未来と手を取り合うあなたは更に美しいでしょう。
――――

故郷で過ごした幼い頃、外の世界が無限に拓けているような”無敵感”って、誰しもあったんじゃないだろうか?
ここで「未来と手を取り合う」というのは、”無鉄砲だったあの時の気持ちを思い出して”というメッセージに思える。

後ろを振り返るのは、必ずしもネガティブなことばかりじゃない。
生まれた育った土地での時間を思い出しながら「孤独と手を取り合う」ことは、明日の元気につながる。そして”故郷に錦を飾る”ということわざもあるように、「まだ負けちゃいられない」と自分を鼓舞するきっかけにもなるのだから。

――――
さあこれから僕は行くよ。あの坂道を越えていくよ。
そのままあとに続け。理由なんて最後に探せるよ。探せるよ。
――――

最後のフレーズは、cinema staffの言葉でもあるし、故郷であなたを応援している、仲間や家族の想いでもあるのだろう。

この「望郷」が収録されているアルバムのジャケットには、cinema staffの故郷・岐阜市の空撮写真がプリントされている。さらに、通常盤=昼間の風景、初回限定盤=夜の風景と、撮影された時間帯が違う。幻想的な色合いは、懐かしくて美しくて、心に残る“故郷のイメージ”そのもの。
きっと、生まれた土地をそんなふうに愛せるcinema staffだからこそ、こんなに柔らかくて強い曲を生み出せたに違いない。

何度でも、後ろを振り返ったっていい。故郷を思い出して、また元気に歩き出せばいい。
忘れかけていたそんな気持ちを、この一曲が教えてくれる。



TEXT:佐藤マタリ

岐阜県出身のオルタナティヴ・ロック・バンド。 メンバーは飯田瑞規(vo,g)、辻友貴(g)、三島想平(b)、久野洋平(ds)の4名。 高校時代に辻、飯田、三島によって結成された前身バンドを経て、2003年に結成。 2006年より現編成となり、名古屋のライヴハウスを拠点にポスト・ロック的なアプロ···

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