ひぐらしが泣く季節に…
じりじりと照りつける日差し、道路を揺らす陽炎、セミの鳴き声。そんな夏らしい光景も一段落して、夕方になるといくらか涼しく、ひぐらしが聴こえてくるようになりましたね。毎年、お盆あたりに放送される、金曜ロードショーのジブリ映画を見終わると、もう夏も終わってしまうなという気がします。
スタジオジブリから2011年に公開された、少女漫画が原作の映画、「コクリコ坂から」。この映画のなかで印象的に使われているのが、手嶌葵が歌う主題歌、「さよならの夏~コクリコ坂から~」です。この曲は元々、森山良子が「さよならの夏」というタイトルで歌っており、1976年のテレビドラマ主題歌でした。
その歌詞には、どのような情景が描かれているのでしょうか。
「さよならの夏~コクリコ坂から~」の歌詞
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光る海に かすむ船は
さよならの汽笛 のこします
ゆるい坂を おりてゆけば
夏色の風に あえるかしら
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歌詞をみると、描写されている夏の情景に、ひとつの暗い影が落ちているのが分かります。船が汽笛をのこす。でもそれは、「さよなら」の汽笛なのです。どうして、「さよなら」の汽笛と表現されているのでしょうか。
この歌詞の主人公は、どんな状況で夏を過ごしているでしょう。私は、好きな人とお別れした夏なのではないか、と想像します。愛する人と、もう会うことは叶わない状況で、ひとりで少し寂しい夏を過ごしている。夏の景色に自分の心象風景が重なって、ただの汽笛も「さよなら」の汽笛に聴こえてしまうのでしょう。
“夕陽のなか 呼んでみたら やさしいあなたに 逢えるかしら”
もういない「あなた」との「もしも」を期待してしまう歌詞に、主人公の深い未練を感じ取ることもできます。歌詞に描かれているのは、海沿いの美しい街。その情景の隅々に、主人公の行き場をなくした思いが溢れているのです。
夏=恋が燃える季節
一般的に、恋に燃え上がるイメージがあるのが、夏という季節。ほんのふた月ぐらいの短い季節ですが、その密度は濃いものであると思います。ですが、サザンオールスターズの「夏をあきらめて」、「真夏の果実」など、夏をとりあげた曲には、そのイメージとは相反して、寂しさを表現したものが数多くあります。光が濃ければ影も濃い。強いエネルギーを生み出すぶん、相反した寂しさも生み出してしまうのが、夏なのではないでしょうか。また、そういう寂しさが、意外と夏は似合うのです。
夏の終わりにぴったりなこの曲を聴いて、綺麗で少しもの悲しくもある、歌詞の雰囲気に浸ってみてはいかがでしょう。
TEXT:遠居ひとみ